淡いかけら探して

エピローグ、〜〜そしてまた平和な日を迎え〜〜





Epilogue





「……で? あの時のあなたは、その約束で全部思い出したわけね」
「あ? ああ……」
「随分アツいわね。ただでさえ夏だっていうのに、そんな話聞かせないでくれる?」
「聞かせたんじゃなくて、言わされてるんだろうがっ!」

 あの日から、いくつもの季節が通り過ぎた。
 今日は、当時命を賭けて守り闘った戦友に呼び出されてここに居る。昔馴染みの発明家宅――今は、れっきとした彼女の家だ。
 そして、呼び出すなり根掘り葉掘り聞いてくる彼女に、現在進行形で頭を悩ませている。恥ずかしいから絶対に誰にも言うまいと思っていた、蘭との再スタートだ。

「何照れてるのよ、今更。もう冷やかされて照れる時期は終わったでしょ?」
「うっせーな。ったく、だから誰にも言いたくなかったんだよ」
「あら。てっきり、私にだけ秘密にされてる事があると思ってたわ。あの日、彼女の父親が大暴れしたのは町中の噂だけど、どれだけ聞いても、あなた達その理由教えてくれなかったじゃない。 で、服部君だったかしら? 彼にあの日のあなたの事聞いたら『怪我も完治してへんのに、妙な行動にでるからや』って、噴き出して笑うのよ」

 そんな平次を思い浮かべて、新一は苦笑した。

「んな事言ってやがったのか? あのやろー……」
「ええ。気になって聞いたら、手を合わせて必死で許しを請うのよ。あなた、私には絶対言わないでくれって言ったそうじゃない。どうせ下らない事だとは思っていたけど、私だけ知らないのは癪だしね、いつか細かく聞き出すつもりだったの」

 そもそもあの時、話をややこしくしたのは、無駄に律儀な蘭のせいだ。ほとぼりが冷めてからにすればいいものを、心配している皆に、早く元通りになった事を伝えようと言いだした。 早々に殆どの知り合いとスケジュールをあわせて、それぞれと会う日を決めてしまった。
知り合いの中でも遠い筈の大阪から、わざわざやってきた色黒男に、偶然全ての過程を知られてしまったのだ。最後に会った時より増えていた包帯を見て、何を言う前に、出会い頭で噴き出された。
「お前アホやな〜」だの「随分積極的やんけ」だのと散々笑い飛ばした平次に終いにはぶち切れた新一が、せめてもと「灰原にだけは言うなよ?」と脅しをかけたのだ。

「ったく、あのばーろ!」

 不満を吐き捨てながらも、仕方ないかとため息をついた。

「あのな、おめー以外の皆に知られちまったのは、ただのハプニングだよ。蘭が真っ先に知らせたくて呼んだ園子に、おっちゃんが怒り任せに俺らの事全部ぶちまけちまって。そしたら、園子の奴服部やら和葉ちゃんやら、思いつく限り皆に言いふらしやがったんだ。おめー、園子とは交流なかっただろ?」
「私に言ったら、一生からかいのネタにでもされると思ったのかしら?」
「……うっせー!」

 拗ねた声で言って、視線をそらす。くすっと笑った彼女に、新一は眉をひそめた。
 伸びをした後、新一はかったるそうな声で言った。

「もう用がないなら、帰るぞ?」
「ええ、いいわよ。聞きたい事は聞いたから」

 クールな声を返した彼女に、大仰な溜め息を零し、手元にあるバッグを肩にかけた。
 立ち上がり志保に背を向けて、玄関の戸に手をかける。

「じゃあな。あー、蘭が夕方こっちに用があるっつってたから、五時半頃あいつと一緒にまた来るぜ」
「はいはい」

 片手で「しっしっ」とポーズをとる彼女に「ったく、俺の事なんだと思ってやがる」と悪態をついて、彼は阿笠家を後にした。
 そんな新一を見つめながら、志保は小さく笑った。

「早いものね……」

 徐に歩み寄った窓のカーテンを開け、ガラス越しに外の景色を目に映した志保は、そこを歩く新一を目で追った。
 まさか、懐かしい思い出として、笑顔交じりに当時の事を語り合える日が来ようとは。
 彼が完全に元に戻って、傷の完治までかかったのはおよそ一週間。治りかけの所を柔道技を賭けられて出来た新たな傷が治るまでの時間だ。

 そして、今はそれすらもうずっと昔の話。あの、沢山の感情が押し寄せた日は、五年も昔の事だ。
 彼は、隣の自宅の鍵を開け、中へ入っていく。そこはもう、今となっては彼だけの家ではない。

「ホント、早いものだわ」

 志保はくすっと微笑み、手に持っていたコーヒーを飲み干した。





 門を開けて鍵を開けると、中から幼い声と足音が聞こえてきた。胸を躍らせながら、玄関の戸をそっと開ける。

「おとーさん、おかえりなさーい!」

 真っ先に駆けつけてきた幼い少女は、元気に足にしがみついて来る。新一はふっと笑って、彼女を抱き上げる。

「ただいま。いい子にしてたか? 新菜」 「うんっ」

 元気に返事した娘に「そうか」と微笑して、靴を脱いで家に入っていく。
 キッチンで包丁の音が聞こえてくるから、恐らくそこで愛しい妻が料理の用意をしているんだろう。

「おとうさん、あのね、」
「しーっ」

 抱き上げた娘の口元に、人差し指を立てる。ぱっといたずらっぽく笑った娘を抱いたまま、そっと足音を殺してそこに忍び寄る。
 入口からそっと覗きこむと、エプロンをつけた後姿が、包丁の動きと合わせてリズミカルに動いている。そんな様子が、とても愛しい。そっと、気配を殺して後ろから近づいて――

「ただいま……蘭」

 耳元で囁きながら、彼女の肩にポンと手を置くと、彼女はハッと振り向いた。
 少し驚いた顔に、娘と二人で微笑んで見せた。すると、極上の笑顔が返ってくる。

「お帰りなさい、新一」

 笑顔を浮かべる彼女に、精一杯優しく温かい笑みで、再び「ただいま」と言った。













 大切なモノを、大切な人を失った。


 しかし、失望して悲しむよりは、信じてみよう。
 ほんの僅かな希望だとしても、縋れるかけらを、探してみればいい。


 ほら、そこに幸せが。そして、そこに生まれる新たな優しさが、私達を待っている。


 例えもし、大切な人が帰って来なくても、信じた分だけ、ほら、そこに強さが生まれた。


 淡いかけら探して、私達はこの世を生きる。
 中々見つからないかけらを探して、苦しかった分だけ、

「ただいま」「お帰り」と。笑顔で伝えあえるから。
















〜完〜









さて、淡いかけら探して、EPという事でありまして。
……完結だよぉ><
今まで、長い間有難う御座いました〜vv
さてさて、今回はトークの代わりに、ちょっとおまけたるものを用意いたしましてv
絵板の小噺ぐらいのに少し内容つけて長くした程度の話ではありますが、
プチ小噺を、プレゼントつきでおまけに書かせていただきましたv
まぁ、この話も最後だしね、サイト開設後、初めて載せた話ですし、趣向を凝らして……

主役はもちろん変わらず新一たちではありますが、

ちょっとしか触れなかった新菜ちゃん。
更に、少しだけではありますが平和の息子なんてのも出てくる、
二人のイラストつきの短編プチ小説。
そんなおまけページを、用意させていただきました!
さぁて、おまけというだけあって、まぁ本当に大した事無いページではあるのですが、
トークタイム代わりのほんの一興だと思ってくだされば^^
さぁ!ただ載せるんじゃつまらない!!
ここは一つゲームも兼ねてvv
このページのどこかに、おまけページへと続くリンクが貼ってあります。
もしお暇であれば、是非、探してみてくださいvv
あ、でも必死で探してこんなのかよ!!ってクレームはなしよ?
短くて、オマケ程度じゃないと出せないのって忠告はしたからね??
気に入って下さるかわかりませんが、さらに報告くださった方にプレゼントも考えてますので、
よろしければ探してみてやってくださいませv
そして、もし見つけた証には是非ご一報くださるとうれしいなぁv(強制でもないけど)
今考えてるのは、オマケページをわざわざ探してくださって、
更に発見の申告までしてくださった方のみに、
メールで特別にプレゼントしようかと思っているので^^


さて、是非探してみてください!!
(ただし、メールで答えを教える、という事は行っておりません。)



まぁ、ただ探せってのは意地悪な話だから、一つヒントをv


オマケの部屋へのリンクは、その部屋にある話の内容と関係した言葉に貼ってあります。
話が作れそうな、更におまけになりそうな語句を文中から探してみてくださいv

さて、あなたが見たいストーリーは、見つかるかな?

もう一つ(というか二つ?)、どこかにヒントを載せてあります。
もしどうしても探してくださる方がいらっしゃれば、どうぞそちらもご参照ください。










H17.9.2 管理人@朧月
H22.6.13 改稿













10文字の言葉だよ! 台詞の中に隠されてるよ!