淡いかけら探して







★おまけ談〜PM5:30〜★





「そういや蘭。志保の家になんの用事があるんだよ」
「なーいしょ!」
「こいつも連れてくんだろ?」
「うんっ、にーなもいくよ!」

 話を振られた娘、新菜は、嬉しそうに答えた。

「隣なんだからよ。別に時間決めて家族揃って尋ねて行かなくても、今さっと行って帰ってくればいいじゃねぇか」
「だめなの! 夕方に、三人で行かないと意味ないんだから」
「あん?」

 面倒くせーな、とぼりぼり頭を掻く新一に、蘭はそっと微笑んだ。
 これは、内緒の事だ。新一を驚かす為に、娘の新菜とも何をしに行くかは内緒だよ、と指切りをした。驚いてから固まる新一の姿を想像すると、笑いが止まらなくなりそうだ。



 午後五時半。


 ピンポーン、とチャイムが鳴り響くと同時に、中から「どうぞ」とクールな声が聞こえて来た。

「ほら、新一が戸開けて」
「あけて、あけて!」
「……? 何企んでやがるんだよ、おめーら」

 どうにも様子がおかしい妻と娘に訝しさを感じながら、そっとドアノブに手をかけ、そのドアを――




「おーっ! 工藤と姉ちゃん! それに新菜も、久しぶりやな!」
「は?」

 驚いた顔を隠せずに、新一は目の前で明るく騒ぐ色黒の男を凝視した。
 更に、関西弁の男の後ろから、更に女の声も響く。

「新菜ちゃん、随分おっきくなったんやね! うちの葉平も来てるんやで」
「か、和葉……ちゃんも?」
「ホント? よう君どこー?」

 拍子抜けしてる新一をの隣で笑顔を浮かべていた新菜は、目を輝かせた。靴を脱ぎ、きょろきょろしながら阿笠邸に入っていく。

「よ! ひさしぶりやな、にいな」
「よう君! ひさしぶりー!」

 子供達は、懐かしそうにはしゃいで部屋に入っていく。
 葉平というのは、平次と和葉の間に生まれた息子だ。色黒で少々眉が太い所は父親譲りだが、顔には母親の面影も感じる少年だった。新菜より一回り身体が小さいのは、葉平の方が一歳年下だからだ。

 そんな二人を微笑ましく見る間も無く、新一は困惑していた。
 大阪に住んでる筈の彼らが、何故こんな所で当たり前のように寛いでいるのだろうか。無論、飛行機か新幹線使って遊びに来たに決まっているけど。
 そして、困惑する新一に追い打ちをかけるように、部屋から賑やかな夫婦が顔を見せた。

「平次君と和葉君だけじゃないぞ、新一」
「しんちゃーん! 久しぶりねっ!」

 年齢的には中年の部類にさしかかる筈だが、相変わらず若々しい顔立ちは、二十代後半でも充分通る。

「と、父さんと母さんまで。一体何………」

 顔をひきつらせて固まった新一の反応は、やはり予想通りのものだ。クスクス笑いながら、蘭は彼にそっと耳打ちした。

「覚えてない? 五年前の今日、新一が帰って来たのよ。その後新菜が生まれたり、葉平君が生まれたり、新一と服部君が事件で家あけてたりでずっとパーティーできなかったけど。でも、私たちにとっては凄く大切な再会の日なんだから」


 聞かされて、はっと気付く。そうだ。確かに今日と同じ日だった。
 時が過ぎて、滅多にその事を話題に出さなくなった志保が、当時の事を詳しく聞いたのも、このパーティーで思い出したからだろう。
 苦笑まじりな苦い表情を浮かべた彼に、傍で見ていた平次は言った。


「俺も寸前まで知らんかったんやけどな。和葉が突然東京に遊びに行くんやて言い出しよって。こっちついて初めて聞かされたんや」
「い、いつ来たんだよ。おめーら。ずっと隣の家に居たけど、全然気付かなかったぞ」
「工藤が帰ったて科学者の姉ちゃんに連絡もろてから十分くらいで来たで。色々、準備もあったから、早めに来てくつろいどったんや」

 準備とは、部屋を装飾する事だ。外からは驚かせる為カーテンがしてあったが、改めて中を見ると、まぁ随分綺麗に装飾してある。
 感心しながら見ていた新一に、優作はいつもながら余裕の表情でふぅと息をついた。

「探偵としてまだまだ甘いな、新一。こんなにぞろぞろ来た隣の家の来客ぐらい、気付くのが当たり前じゃないのかな?」
「楽しみにしてたのよ、新ちゃん。久しぶりに、新一と蘭ちゃんと、新菜ちゃんに会えるの」
「そうそう。この日の為に、可愛い孫娘にだす謎かけも考えたんだぞ」

 そう言って優作がふっと笑う。途端に、奥で久しぶりに会う少年と楽しそうに談話していた筈の新菜の目がキラッと輝いた。葉平も同じく反応し、目を輝かせて優作を見つめている。
 好奇心旺盛の小さな名探偵達にふっと笑みを漏らした優作は、足元にまとわりつく二人を両肩に抱きあげた。

「じゃあ、こっちにおいで」

 中に入っていく優作と子供達の後姿を追いながら、呆れた様子で新一は靴を脱いだ。

「ったく、父さんの奴、また新菜に変な暗号出す気だな……」
「あら。新一だっていつも暗号とか謎かけしてるじゃない。もー! 女の子なのよ、あの子。探偵にでもする気なの?」

 蘭がジト目で睨むと、新一は渋い顔を返した。
 そもそも、蘭は娘が探偵関連に興味を持つ事にあまり賛成ではない。あるいは息子ならば、奨励したかも知れないが。
 探偵という職業がどんなに危険なものか、新一を見ていれば痛いほどよくわかっている。凶悪な事件に関わる事で、命すらも落としかねない仕事なのだから。

「……俺から教えてんじゃねえよ。あいつが興味持ってくるから」
「うちもそうやで、蘭ちゃん。すっかり探偵に興味もってしもて。多分、お互いよっぽど強いんやろなぁ〜……推理オタクな男共の探偵の血が」

 蘭を宥めるように言った和葉に、言葉に秘めた微かな嫌味を認識する事なく、推理オタクな彼女の旦那は、うんうんと頷いた。

「血は争えんっちゅう事やな。見てみぃ、あのちび二人の顔」


 四人は部屋に入るなり、優作にまとわりつく二人の子供達を眺めた。


「ゆうさくじーちゃん、オレ、とっておきのむずかしいのがええ! おやじにきたえてもろてるんやから、にいなには絶対負けへん!」

 すると、新菜もむっとして言葉を返す。

「にいなだって、おとーさんにいろいろ教えてもらってるもん。おとーさん言ってたもん、へいじおじさんが二ばんめだって。よう君がかてるわけないよ!」

 新菜の言葉を耳にした平次が「ほぉ?」と顔を怒りに引き攣らせ、新一を睨んだ。
「本当の事だろ?」と言った新一に、平次は納得出来ない様子のまま子供達に視線を戻す。

「それに、にいなの方が一コおねえちゃんなんだよ。よう君よりぜったい、すごいんだからっ! おじいちゃん、にいなにいっちばんむずかしいのだして!」

 優作の膝と肩に乗って口論する幼い子供達に、優作は苦笑する。

「おいおい、どうでもいいがじいちゃんって呼び方はどうにかならないか?」

 ぼやいたものの、どうあっても子供達は”おじいちゃん”という呼び方を変えるつもりはないらしい。
 どう考えても”おじいちゃん”呼びされる歳ではない筈なのだが――。

 その後優作が「……有希子には絶対”おばあちゃん”とは言わないのに」等と、ぼやいていたとか。
 ぼやき声までは聞こえなかったが、子供達がむきになって競い合い暗号や謎解きをする姿は、どこか微笑ましく懐かしい。
 四人の顔には、いつの間にやら穏やかな笑みが浮かんでいた。






 ミンミン響くセミの鳴き声が、ただでさえ賑やかなその場に、うるさいほど賑やかな雰囲気をもたらしていた。


 将来が本当に楽しみな娘息子に囲まれて、大切な仲間達に囲まれて――
 用意された豪華な料理と、各々好きなドリンクをついだグラスを重ねあう。


 そんな暑く、騒がしいひとときを楽しむ、平和な時間。
 ほら、信じた確かな幸せの花が、そこに大きく咲き誇る。





 ずっと探してた大切な人と、大切なモノ。





 ほら、ここにやっと見つけた。
 色んな形をして、色んな色をして、誰もがいつだって持っている――







 淡い綺麗な、幸せのかけら。















〜〜完〜〜










後書き+お知らせ。


まず、新菜と葉平のイメージイラストは、こちら


えぇと、ですね!このページを発見してくださって、有難う御座いました!!
難しかったでしょうに、時間割いて探して、発見していただけた事、
とても嬉しい限りで御座います!


本当にオマケにしかなれない話です^^;
パーティーの内容書いてもよかったけど、しつこくなる気がして。
一先ず、ここで終了です。

さて、折角探してくださったこのページ。これだけで終わるのは寂しいものがあるので、
さらに、報告などをいただけますと、とても嬉しいですv
誰が見つけて下さったのか、そういうのを是非確認できれば、と思っておりますv
報告くださった方には、プレゼントを考えておりますv
一つは、淡いかけらに関連したお題でイラストを描きたいと思っています。
そちらは、サイトお持ちの方はいただきものへの転載までならOKにするつもりです。
もう一つ、新蘭、平和の子供達、新菜と葉平に興味を持ってくださった方に。
成長した彼らの短編小説を一本、制作途中で御座います。
そちら、完成まですこしお時間待たせるかもしれませんが、
興味持ってくださった方に是非その話に続くURLをお届けしたい、と思っております。

プレゼントはメールでおくらせていただく形になりますので、
どうしてもメールアドレスを入力する形になります。
アドレスを管理人に教えるのが嫌な方(プレゼントもいらない方)は、
蒼い月の夜、トップの一言メール等より報告下さっても構いません。
但し、掲示板や絵板などでの報告の際は、
ここの場所に関わる事はおっしゃらないようお願いします。
単純に見つけたよ!って言葉だけだったり、話の感想を言ったり、
そういう分には構いませんよ^^むしろ歓迎しますv
(そこで答えがもれるのは困りますので^^)

さて、もちろん強制では御座いませんが、是非↓よりご報告を!
(必須ではありませんが、アンケートにも答えていただけると嬉しいですvv)
発見するまでに至る感想なんかも、「報告、感想など」の項目にのせていただけると
さらに嬉しいです〜v


報告してプレゼントもGET〜v

それでは、今まで本当に有難う御座いました!!
現在連載中のその他のお話も、次回作も、どうぞまたごらんになってやってくださいませv

H17.9.2 管理人@朧月
H22.6.13 改稿。そして本当にごめん、相次ぐパソコントラブルも手伝って、未だにプレゼント未完成(T_T)