淡いかけら探して
第3話 哀編〜〜絶望と苦しみと幸せ、そして……〜〜。
私が全てを知らされたのは、博士の家で目を覚ました時よ。 ――工藤君が、死んだ。 最初、何を言われてるのか理解に苦しんだわ。だって、その事実を認めるのはあまりに辛すぎたから。 博士や色黒の彼が話す事実は、私を驚かすための嘘だと思いたかったの。そんなの、信じたくなかった。 何でもいいから、彼を守りたかっただけなのに。 あの場で捕まえても、今度は報復が待ち受けてると思ったの。組織を潰す直接の原因を作った、工藤君に。 お姉ちゃんが死んだ二の舞を踏みたくなかった。それなのに――! 耳にまだ残ってるわ。あの、彼を傷つけた二発の冷たい銃声の音が。 ジンが放った一発と、もう一発は―― あの時、拳銃なんて出さなければよかったわ。心中なんて、考えたりしなければ。 脱出する時、怪我さえしなければ彼は助かった筈だったもの。なら、彼を殺したのは私よ。 ――皮肉よね、お姉ちゃん。どうしていつもいつも、正しいと思った選択が最悪の結果を生んでしまうの? 薬も、お姉ちゃんの事も、彼の事も、選択次第で全く別の未来があった筈なのに。 彼がこれから先平和に生きられるなら、命だって賭けていいと思ってたわ。ジン一人を手にかけてもよかった。それなのに結果は正反対ね。私を庇って、彼は帰らぬ人となってしまったの。 「なあ、あんまり、自分を責めない方がええで」 気遣うような声をかけられて、顔を上げた。目を細めて私を見つめていたのは、私に彼の死を告げた人。彼の友人で、大阪の少年探偵、服部平次。 彼の最期を知っている、たった一人の人。ねえ、全て知ってるあなただからこそ分かってる筈よ? 彼は、私のせいで死んだの。 彼が最初に銃弾で傷を負ったのも、再びジンに撃たれたのも、あの場から逃げきれなかった事も。皆、私の事なんか庇ったから。 全て、私が悪いのよ。 「灰原! 危ねぇ!」 「きゃっ!」 二人きりになった後、彼に支えられながら立ち上がった私は、誘導されて一緒に脱出しようとしていたわ。その時、突然血相かえた彼に思い切り突き飛ばされて、地面に叩きつけられたの。 衝撃と共に、耳に響いたのは、大きな鈍い音と彼のうめき声。そして、地面の大きな揺れ。突き飛ばされたショックで一瞬状況を把握するのが遅れたけど、はっと元居た場所を確認したら、彼はそこにぐったりと倒れていたわ。 「工藤君!」 慌てて、叫びながら彼の元に這った。 体の上に、折れた重そうな柱がずっしり乗っていたわ。本来なら私が直撃をくらう筈だったそれの下敷きになった彼は、気絶してるみたいで動かない。 なんとか手の届く場所まで来て倒れた肩を軽く叩くと、ゆっくり、苦しそうに彼は眼を開けた。 「……うっ、は、いばら……? 無事か?」 「ええ。しっかりして! 私が、今この柱を……」 彼を出そうと思ったのに、ぐっと力を入れても、柱は持ち上がってくれなかったわ。代わりに、少しだけずれた事で、工藤君が苦しそうにうめき声をあげただけ。 「灰原、いい、無理だ! それより、バッジ……あいつと、連絡取る、から……」 「え、ええ……」 彼にバッジを渡して、再び柱をどかすのに挑んでみたわ。今度は、変なずれ方をしないように、慎重にね。 でも、やっぱりどうしても動いてはくれないみたい。 「ねぇ工藤君、何かいい案はないの? あなたいつも使うじゃない。博士の道具とか」 「……ねーよ。あったら、最初からその方法使ってるさ。この状況で頼りになりそうなサスペンダーは……取り出せねえし」 「じゃあ、あなたどうす――」 言いかけて、頭に鈍い衝撃が走ったわ。何かが、上から落ちてきて頭に当たったのだけは理解したけど、そのまま、気が遠くなっていった。 こんな時に、気を失っちゃダメって思ったけど、どうしても堕ちてく意識に逆らえなかったの。 遠い意識で、工藤君が私を呼ぶ声を微かに聞いていたけど、あの場所での私の記憶は、そこで最後だったわ。 「……なぁ、博士。まだ目ぇ覚まさへんのか?」 「そうなんじゃ。頭を相当強く打ったみたいじゃな」 まどろみの中にぼんやりと響いたのは、関西弁と、聞きなれた声。 最初は何となく聞こえてきた言葉だけ五感を刺激したけど、次第に意識もしっかりしてきて、ゆっくりと目を開けた。 「……うっ」 つい、うめき声が口からもれた。体を起こすと同時に、鈍い痛みに頭部を襲われたのよ。思わず頭を押さえたけど、まだ現状がつかめてない。 「あ、何や。やっと目覚ましたみたいやで!」 「哀君、どうじゃ? 気分は……」 突然乗り出してきた二人の、ボリュームの大きな声に思わず顔をしかめたわ。 ぼんやりしながら「ええ」とだけ返して、私は頭の中を探った。 私、どうしたんだっけ? 組織とやりあった筈なのに、どうして博士の家なんかに―― 確か、そうよ。ジンが、彼らのアジトが爆発して、工藤君と一緒に――! ドクン。嫌な鼓動にうたれて、青ざめた。 「く、工藤君はっ! 工藤君はどこっ?」 居ない……居ない! 右も、左も、奥にも。部屋のどこを見ても、彼の姿が見えないわ。 そうよ、思い出した。あの時、工藤君が私の下敷きになって、崩れる建物の中に――! ドクン、ドクン。 脈が、速くなってる。嫌な予感に、体中が痺れてくみたい。ふっと見た博士と服部君の顔は、凄く悲壮感を漂わせてる。 目を閉じて、小さく呼吸をして、もう一度室内を見回したわ。でも、居ない――やっぱり、この部屋のどこにもいない。 気配さえもない。この、喪失感は何――? 「う、そ……うそよ」 そんな事ないわ。そんな最悪な結末、あり得ない。頭に浮かぶ嫌な考えを、打ち消しても打ち消しても、不安が消えない。 そうだ、まだこの部屋しか見てないじゃない。きっと別の部屋にいるんだわ。 よろけながらベッドを降りて、部屋の外へ続く戸まで、足を引き摺りながらながら歩いたわ。 そう言えば私、どうして歩けるの? あの時は、立つことすらままならなかったのに。 何よ、動くじゃない。役立たずな私の足だけ、こんな包帯なんかで、綺麗に介抱されて――あの時、もし立ち上がる事が出来たら、あの柱もどかせたかも知れないのに。 呆然としながら、目頭が熱くなるのを感じてた。見える視界が微かに歪んで、慌ててぐっと唇を噛みしめて目元を拭う。ダメよ、泣く意味なんかないじゃない。彼は無事なんだから。 自分に言い聞かせながら、ドアノブをしっかり握りしめて、開けたすぐ前にある階段を、一歩一歩上ったわ。 「工藤君、どこ?」 呼びかけても、返事はない。数秒呼吸を置いて、もう一度呼んだ。 「ねえ、いい加減返事してよ。居るんでしょ? 工藤君!」 居ない。やっぱり、博士の家の中に、彼の気配はないわ。 そうよ、きっと無事に脱出して、もとの姿に戻って、彼女の所に行ったのね。そうだわ、そうに決まってる。 「哀君」 ポンと肩に手を置かれて、心臓が跳ねたわ。振り向くと、博士の大きくて温かい手が、私の肩を包んでる。 眉を寄せて、そんな怖い顔してどうしたの? おかしいわよ、博士らしくないじゃない。じっと見つめながら、ようやく私は、震える声で尋ねた。 「ねえ、博士。工藤君は――?」 私を見つめる博士は、目を細くした。博士は何かを言いあぐねるように、開きかけた口を、無言のままつぐむ。 「はか、せ?」 悪い冗談やめて。 無事よね? だって、私が生きてるのよ? 私が、博士の家で呑気に寝てた位なのよ。工藤君に何かあるわけないじゃない。 ねえ、どうして、何も言ってくれないの? たった一言、たった二文字の「無事」っていう言葉が聞きたいだけなのよ、博士。 「姉ちゃん、落ち着いて聞いてや」 低い声が、私と博士の間を切るように割り込んできたわ。ゆっくり視線を向けると、やっぱり真剣な色黒の顔が目に映ったわ。 ……やめて。何を言うつもりなの? そんな怖い顔で言わないで。 「無事、なんでしょ?」 「工藤は、あの爆発した建物の中で、最後まで……」 ポツリポツリ、ゆっくり告げられる真実がどんなに残酷なものか、頭の中では理解してたわ。 でも、認められるわけない。信じたくないわよ、そんな事! 「工藤君、無事なんでしょ?」 彼の声より大きな声で、工藤君の無事を強調したわ。でも、彼が私に返したのは、私が望んだ無事を肯定する返事じゃなかった。 「工藤は、もう――」 私は、はっきり告げられたその宣告に、奈落の底へ突き落されたの。 彼の顔が、頭の中に浮かんで、消えた。 「やばくなったら、俺がなんとかしてやっから」って言ってたあの強くて優しい声が、脳裏に響いてる。 最後に、私を突き飛ばして下敷きになった彼の苦しげな顔と、私が撃った弾で流れた彼の血が、頭にこびりついて離れない。 工藤君、あなた生きてなきゃいけなかったでしょ? あなたの命を犠牲にしてまで、私守られたくなんてなかったわ。 もし私がもっと、あなたの事を信じてたら――そしたら、私はあなたを失わずに済んだの? ねぇ、工藤君! 「私のせいよ。私が、彼を殺した――」 誰よりも、生きてて欲しかったわ。誰よりも、強く輝き続けてて欲しかった。 闇の中に居た私に、光を見せてくれたあなたが、私一人ここに残して闇の中に堕ちるなんて、おかしいじゃない。 もう、嫌よ。私の大切な人はもうどこにも居ない。こんな世界に意味はあるの? ねえ、どうして? どうして――! 「私……どこで、間違えたかしら? 心当たりがありすぎて、わからないの」 「あ、哀君」 「だって、そうでしょ? もしあの時、私がジンと心中なんてしようとしなければ――もし彼が、私を庇ったりしなければ。 あんな場面で、気絶なんてしなければ――私が、もっとしっかりしてればよかったの! そうすれば別の未来があった筈よ。もし私がもっともっと、」 もっと、違う行動とっていたら、そうしたら今も彼は元の通り元気なまま、ここで笑って居たわ。 押し寄せてくる感情が、止められないの。苦しくて、溢れてくるものが止められない。止める暇もない位、次から次へと溢れてきて。拭っても、拭っても――止められないわ。 「姉ちゃん、それはちゃうやろ。この世に”もしも”なんてもんはないんやで?」 突然きっぱり言い放たれた彼の言葉に、びくりと肩を震わせた。 「一度、今になってしもたら、過去になんか戻れへんやろ? ”もしも”なんて言うとっても、工藤は帰って来ぉへん。戻って、やり直す事なんか、不可能なんやからな」 厳しい口調で告げる彼の言葉が、胸に深く刺さる。 分かってるわよ。嘆いても、工藤君は帰ってこないし、戻ってやり直す事なんか出来ない。お姉ちゃんも、お父さんもお母さんも彼も、一度失ったら、もう二度と取り返しがつかない事くらい。 私は、何度大切な人を失えば済むの? 工藤君、ごめんなさい。 「あんまり、自分を責めない方がええで」 彼の言葉に、素直に「ええ」とか「ありがとう」とか言う事なんて、今の私に出来るわけがない。 「彼は、私を庇って死んだのよ? 気休めなんか言わないで!」 つい声をあげた私に、その色黒の彼は言った。 「気休めやない。あいつが言うとったんや。俺に、最後の伝言頼みよってな。あの姉ちゃんと、じいさんと、あんたに伝えといて欲しい言うて」 ――え? 「工藤君が、私に?」 私に、伝言を? 彼が、死ぬ間際に? 「せや。あいつ、言うてたで。自分が助からなかったんはあんたのせいやないって。いつも何でも自分が悪い事に決め付けよるけど、そんな事、俺は全然思ってへん、てな」 「――工藤君が、そんなこと?」 「そや。最後に、俺とバッジで交信しながら、言うてたんや」 馬鹿。どうして、あなたはいつもそう―― 「実はな、新一君はわしにも言っとったんじゃよ。アジトに向かう前にな。哀君の事を、これからもよろしく頼む……幸せにしてやってくれ、とな」 「アジトに、向かう前?」 「そうじゃ。明るく笑いながら言っておったから、その時はてっきり、組織を倒して自由になった哀君をこれからも頼むと言っているのかと思っておったが、今思うと予感しておったのかも知れんのォ。こんな結末を」 悲しそうな顔で言った博士の言葉に、目を伏せたわ。 勝手よ、工藤君――私の幸せがどんなものかなんて、あなた知らないじゃない。 組織から自由になったら、それと引き換えにあなたが死んでも幸せになれると思った? 私の幸せは、探偵団の彼らや、あなたが隣に居る世界にあったのよ。 楽しく話して笑いあって、それが何より幸せな事だったわ。あなたが居ないと成り立たないものなのよ、工藤君! 誤解しないで。どうしていつも、当たり前の幸せは私の手からすり抜けてしまうの? 私はただ、大切な人がずっと幸せで居てくれるだけでいいのに。 あなた、昔言ってたじゃない。「運命から逃げるな」って。なら繋ぎ止めておいて。私を、逃げないように。 色んな言葉だけ残して、自分はさっさと居なくなるなんて、ずるいわよ――ばか。 葬式に飾られた写真には、楽しそうに明るく笑う二つの顔が映っていたわ。 ひとつは、彼本来の姿である工藤新一のもの。もうひとつは、その少し離れた隣に小さく飾られている、虚構の姿である江戸川コナンの顔。 江戸川コナンの写真は、一つ大きく飾られていた工藤君を見て、彼をずっと待っていた彼女が自分の持っていた写真を置いたそうよ。 工藤新一としての彼に大切な仲間が居たように、江戸川コナンとしての彼にも、大切な仲間が居たからって聞いたわ。 沢山の人が参列して、沢山の人が涙を流して彼の死を悼んでいたわ。 ごめんなさい。私が、あなた達から彼を奪ってしまった――心の中で、一人一人に頭を下げて謝罪した。 全てが終わって、私は意を決して彼女の元へ行った。彼の事、謝らなきゃいけないから。 葬儀中は終始悲しそうにしてた彼女だったけれど、話しかける時には何故か僅かに元気になっていて、怪訝に思いながらも声をかけたの。 「私の正体……、大阪の彼から聞いてるんでしょ?」 肯定されて、ぐっと胸が圧迫される思いを感じたわ。 私のせいで、彼が小さくなってしまった事、私のせいで死んでしまった事、彼女は、全部知っているのね。 「ごめんなさい」 いざ向き合うと、それしか出てこなかったわ。頭に浮かんでくるのは謝罪の言葉だけだった。 深く下げた頭を、上げられない。怖かったのよ、彼女の顔を見るのが。 「……どうして、謝るの?」 静かに降って来た声に、どう応えればいいか必死で考えたわ。 「分かってるでしょ? 彼がこんな事になったのは、全て私のせいだからよ。私があんな薬を開発してなかったら、彼は体を縮められる事はなかったの……私さえ居なければ、彼は私を守る事もなかったわ」 「哀ちゃん……」 言葉を途切らせながら、想うことを伝えたわ。 彼が、私のせいじゃないって言ってくれるのは、それは彼の性格よ。彼の、優しさ。確かに分かってたわ、彼ならそう言うって事。でも、それに甘えちゃダメなのよ。現に、全て私のせいなのだから。 ごめんなさい、工藤君。――ごめんなさい。 「これも彼から聞いたでしょうけど、工藤君は、ずっとあなたの事想ってたのよ。さっさと正体明かしてしまいたかったでしょうね。でも、私がそれをさせなかったわ。 あなたから彼を奪ったのは、私なのよ。どんなに謝っても許される事じゃないって、ちゃんと分かってる。あなたにも彼にも、恨まれて当然だわ」 フ、もっとも彼は私の事恨んでもいないんでしょうけど。 ねぇ、帰りたかったでしょうね、工藤君――。ただいまって、彼女に一言伝えて、また前のように戻りたかったでしょうね。恨んでも、いいのよ。あなたから、全て奪った私を――。 苦労して止めたはずの涙が、また私の頬をつたったわ。泣いて、何になるっていうの? 彼は、彼女は――もっと苦しんでいるのに。 「……違うよ、哀ちゃん」 突然かけられたその言葉に、驚いて思わず顔を上げたら、彼女は柔らかく微笑んだ。 「確かに、昔あなたが作った薬で新一が小さくなって、私も寂しい思いをしたよ。でも私、思うんだ――じゃあ薬がなかったら新一はどうなってたんだろうって」 「……え?」 優しい言葉の意味が、分からないわ。 あの薬がなかったら――? 何を言ってるの、そもそもあの薬がなければ、今でもあなた達は幸せに暮らしてたでしょ? 私が彼女の真意を訪ねる前に、彼女は続きを言ったわ。 「悪い人に後ろから殴られて動けなくなった後、普通ならその時確実に殺されていたと思うの。あなたの薬があったから、新一はあの時奇跡的に生還できたんじゃないのかな? 感謝、してると思うよ。服部君に聞いたの。 『灰原はクールなフリしてても、本当は優しい奴だ』『あの薬のおかげで、生きてこれたし…色んな事を知ることも出来た』って新一が言ってたんだって」 工藤君が、そんな事を? 本当は、優しい――私が? あの薬のおかげで生きてこれた――? 「……でも、あなたは……」 自然と、声が震えたわ。でも彼女はそんな私にふっと微笑んだ。 「私も一緒だよ。新一と入れ違いにコナン君がいつも一緒に居てくれて、私を励ましてくれてたから。コナン君の事だって、全部知った今でも、大好きだから」 「仮初の存在なのに?」 「そうは思えないよ。コナン君と居る時は、新一と違う時間があったから。好きって伝えられたのも、もし新一がそのまま殺されちゃってたら、得られなかった幸せだから」 「だから、コナン君の写真も隣に置いたのよ」と、彼女は言ったわ。 おかしいわよ、あなた達。どうして、あなた達はいつも優しい言葉ばかりを言うの? 少しは、私の事恨んで罵ってくれてもいいじゃない。 どうして、そんな優しい顔で笑っているの? 「私は、工藤君にごめんなさいって言いたかったのよ。ありがとうも伝えたかった。でも結局、最後まで素直になれないままだったわ」 言いたい事は、沢山あったのに。結局何一つ伝えられないままお別れなんて。もっと早く、素直になっていればよかった。 「哀ちゃん……今の気持ちに水差しちゃうかもしれないけど」 「え?」 彼女の表情を窺うと、彼女は何故か明るい声で言ったわ。 「本当はね、私まだ新一が死んだって信じられないの。遺体が見つからないなら、まだどこかで生きているかも知れない。もしかしたら、また会えるかも知れないでしょ?」 「……あの状況で、生きてられるわけ――」 「それでもいいの。それでも、可能性があるなら捨てられないよ。淡い希望だけど――あなたは、今の状況で簡単に死を受け入れられる?」 戯言よって思ったけど、言い終わる前に彼女は私の言葉を遮って言い切ったわ。 受け入れられるかって――そんなの出来るわけないじゃない。どんな状況でも、そんな事受け入れられないわ。でも、受け入れるしかないじゃない。そう思って、私は―― でも、彼が死んだ所なんて、誰も見ていなかったわ。 工藤君が、もしかしたらまだどこかで生きているかも知れない? ありえないわ。爆発した建物の中で、下敷きになって動けずに居たのよ? ただの儚い理想よ。――それなのに、彼女はそんな儚いものに縋って、明るく笑っていられるの? そんなものを、信じているの――? 絶対にあり得ない事よ。でも、工藤君と最後まで交信してた彼ですら、工藤君の死んだ瞬間までは知らないわ。遺体だって、見つかってない。 「ふっ……そうね。私もその薄い希望に縋ってみようかしら。それでもダメなら、あの世で彼に会って言えばいいだけの事だもの。まぁ、彼と同じ所に行けないかもしれないけどね」 そう答えると、彼女は満面の笑顔を見せたわ。 ねぇ工藤君、いいわよね? 私、あなたに言われた通り、必ず幸せになって見せるから。だから、信じていいわよね? 私も、彼女の強さを見習いたいもの。あなたがどこかで生きているって、信じたいの。 あなたが、いつか――いつか、帰って来てくれるって。 希望を、幸せを求めてるから――。 そんな葬儀が終わって、もう一週間も経つわ。長い長い、一週間。 それでも私は、あの時の淡い希望を緩めずに過ごしているの。 工藤君がいつか帰って来てくれる事を信じて、あなたに救われた命を、大切にしているわ。 いつも通り博士の家に帰って、コーヒー片手に地下室へ向かって、そこにあるパソコンを起動させた。 そう、それはただの日課よ。別に特別な事じゃない。だけど―― ”新着メッセージ 一件” モニタに映し出された文字に首を傾げながら、私はゆっくりと、メールを開いた。
〜第3話 哀編…完 第4話へ続く。〜
作者あとがき<(_ _)>
第三話、いかがでしたでしょうか? 今回は、ちょっと話を動かしてみて、次へのつなぎを。 今回は哀ちゃん視点の話と言うわけで、哀ちゃんの視点になると、どうにも暗さに拍車が… 哀ちゃん、自分のこととっても責めちゃうんだもの。 さて、では次は? 段々クライマックスに近づいてきてますが、もうちょっとだけ続きます! 是非、最後まで付き合ってやってくださいねv 今回も読んで下さってありがとうございました。次回も、是非見捨てないでやって下さいませvvv では、何故か恒例化したトークタイム!! 哀「ねえ……私どこまで苦しめばいいのかしら?」 平次「だから、苦しむなて工藤が最期に言うて……」 新一「ちょっと待て!お前……だから最期って言うな!!」 平次「だってそうやろ?『俺はもう助からない…』とか言うて、けったいな伝言頼みよったくせに、俺に文句言える口なんか?」 新一「……大体、諸悪の根源はいつも決まってんだよ。(じろっ)」 平次「そやな。俺らの事、ようこないな酷い目ぇにあわせてくれよった……(ぎろっ)」 哀「そうよね、挙句、私が工藤君を殺したみたいな事まで……(じとっ)」 朧「い、いやぁぁ……何か今回も奇妙な事になってきた……(滝汗)」 新一「なあ、いい加減にしろよ?朧……(サッカーボール用意っ)」 平次「そや。ええ加減に、この辺で反省しとき……?(竹刀用意っ)」 哀「そうそう、私今ちょうど試作品の実験台探してたのよね……(懐より薬用意っ)」 朧「(びくっ!!…哀ちゃんが一番怖ぇ…)じゃあ、また次回!! ……さよなら〜〜っっっ(逃亡)」 平次「あっ、あいつまた逃げよった!!」 新一「俺らからは逃げられねえって、この間思い知っただろ!!!!」 新一、ボールをける。 朧「ぎゃう〜んっ(涙)!!!」 平次「ふっ……まだ気ぃは失っとらんみたいやな。」 哀「これ、一度試してみなさい……(薬を突きつける)」 朧「ひゃ〜んっっ(涙)たっ、たしゅ……たしゅけて〜〜っっ(絶叫)」 前回に引き続き、お粗末さまでしたf^▽^;;) H16.11.19 管理人@朧月 H22.06.02 改稿 |