淡いかけら探して

第2話 平次編〜〜伝言係〜〜





 工藤は、死んだ。
 組織と戦う中で、死んでしもたんや。少なくとも、俺はそう思とった。

 最後にあいつが、オレに皆への伝言遺しよった。あんなん、自分で言えばええのに――人に頼む事とちゃうやろ?


 あの日、あれが正真正銘最後の戦いやった。
 準備万端整えて、いざ敵陣に出陣っ! ちゅう時や。ちっさい姉ちゃんが、工藤の前に薬の入った小瓶を突き出したんは。

「……工藤君、これ。ようやく解毒剤が出来たの。どうする?」

 真剣な顔と声色で言いながら、瓶を持つ手が少し震えとる。
 どれだけの勇気がいる事やったんかはわからへんけど、どんだけ想いが詰まった薬なんかは、ちっさい姉ちゃんの顔見れば一目瞭然や。
 工藤は一瞬だけ戸惑った顔でそれを見つめて、ゆっくり微笑んでちっさい姉ちゃんの手からそれを受け取った。

「ありがとな、灰原」

 それをボタンつきの胸ポケットにしまった工藤は、穏やかな顔で暫くそこを手で包んで見つめとる。
 手に入れたらすぐ飲んでしまうんやろって思てたから、どうするつもりなんか、よーわからん。

「飲まないでええんか?」

 一言聞くと、工藤は俺を見上げて、ふっと笑って答えた。

「全てが……終わってから、な」

 その後、工藤がどっかに電話しとったんは、多分姉ちゃんの所やな。
 工藤の顔見りゃ一目了然や。あの姉ちゃんと話す時だけ、ごっつ優しい顔しよるんやから。

 組織のアジトに乗り込んで、ボスの『あの方』っちゅう奴を捕まえんのは意外に簡単やった。
 工藤も俺も、あちこち傷だらけやったけど、それでも致命傷は避けとったで。
 ほんで、最後に現れよったジンを捕まえれば、ついに全てが終わるっちゅう時や。

「久しぶりだな、シェリー――」

 最初に銃口が向けられた先に居ったんは、ちっさい姉ちゃんやった。……まぁ、それについては工藤も俺も予想出来とったな。せやから、守る体制は万全やった。
 予想出来ひんかったんは、その後ちっさい姉ちゃんが取った行動や。てっきり、恐怖で動けなくなるか硬直するかやろうて思とったんやけど。

 ぎょっとさせられたで。俺も、勿論工藤もや。潜入してから口数が少なかったちっさい姉ちゃんが、突然懐から銃を取り出して、ジンに向けたんやから。

「もう、全て終わりにしましょう、ジン」

 そう言えば、ちっさい姉ちゃんが泣いとるとこ、初めて見たわ。目からぼろぼろ涙を流しながら、はっきりした口調で言いよった。

「灰原!」

 工藤の叫びが、やけに響いとる中で、ジンも驚いたんやろな。目を見開いて、ちっさい姉ちゃんを見た。

「……何の真似だ? シェリー」
「あなたは、その銃で私を殺せばいいわ。私は、これであなたを殺す。それで全て終わりよ。組織も――あなたも私も」
「やめろ灰原!」
「姉ちゃん!」

 俺も工藤と同じように叫んどった。
 けど、ちっさい姉ちゃんの手から拳銃が離される事はなかった。目から涙を零して、ただじっとジンを見つめとった。

「きっとあなたは、捕まっても終わりにはしてくれない。あなたが死なない限り、結局何も終わらないわ。もう嫌なのよ、大切な人をこれ以上失うのは。私は、あなたと心中して彼らを守るわ」
「フン、俺と心中だと? 貴様に出来ると思うのか?」

 引き金にかかった指に力を入れよったジンに、姉ちゃんの手にも力が入る……
 あかん! そう思った瞬間やった。


「やめろ、灰原ァ!」


 叫び声と、銃声が交じって室内にこだました。瞬間、二人の間に入っとったのは工藤やった。
 右足と左肩から、真っ赤な鮮血が飛び散って、工藤の顔がゆがむ。

 ほんの一瞬の出来事や。
 けど俺も、多分ちっさい姉ちゃんも、スローモーションに感じながらその光景を見つめとったと思う。


「工藤!」
「工藤君!」


 俺とちっさい姉ちゃん二人分の声が重なって響く中で、工藤はドサリ、音を立てて倒れた。じわじわと流れとる血液に、俺ら二人共気を取られてしまったんやろな。

「バーロ、油断するな!」

 工藤の言葉で、はっとジンに意識を戻した。
 工藤に駆け寄ろうとした姉ちゃんを突き飛ばした工藤の腕から、また血が噴いた。
 工藤が受けた二発の風穴の位置考えると、もし工藤が突き飛ばしてなかったら、その弾は確実にちっさい姉ちゃんの胸を貫いとったやろ。

 苦しそうに起き上った工藤が、ジンを睨んだ。

「何があっても、こいつは死なせねえからな。約束したんだ。必ず守ってやるって」

 ジンも、工藤をその冷たい目で睨み返しとる。

「なら、お前を先に殺してやろう」

 あかん! そう思たんと同時に、体は動いとった。さっきまで姉ちゃんが持っとった銃を拾って、ジンの手を狙って発砲した。
 咄嗟過ぎる事や。落ち着いて狙ったわけともちゃう。せやからまさか当たると思ってなかったんやけど、それは見事に命中した。

 ジンの手から拳銃が離れたとこ見て、もう一発。今度は、その拳銃目掛けて。
 下に落ちとった拳銃は、弾が当たった衝撃で十メートルほど地面を滑った。それをジンが拾う前に、思いっきり体当たりかましてやった。

 いくらジンが凄うても、腰元に思いっきり体当たりされたら倒れるしかなかったみたいや。
 少しもみあった末、今回アジトに乗り込むにあたって府警から借りとった手錠をジンの手にかけた。
 ……ざまぁ見ぃ、悪いことはするもんやないで! そんで、後はこっから脱出して全部終わりや。

 終わる、筈やった…………

 直後、突然地面が音を建てて揺れよった。
 俺は咄嗟にバランスとったけど、なんとか立ち上がった工藤は苦しそうに倒れて、ちっさい姉ちゃんも勢いよく床に腰を打った。


「な、何や?」


 驚いとったら、ジンが低い声で笑う。


「お前等はどうせ皆ここで死ぬんだ」
「何やと!」
「ここは、何かあった時に木っ端微塵に吹っ飛んで証拠を消す細工がされてるんだ」


 冷たい笑い声が、その場に響いとった。嫌な笑い声やな。



「は、服部! 灰原と逃げろ!」

 工藤が身体を引きずりながら近づいてきて、俺に言った。

「……せやな。工藤は俺が連れてったるわ。姉ちゃん、行こか」

 手を差し出したけど、ちっさい姉ちゃんは首を振った。

「さっき、足をひねったみたいで、立てないのよ」
「何?」

 途端に、工藤の表情が険しく変わる。  工藤に近づいてって、突き飛ばされた時か……そう納得して、俺はそれやったらと言葉を続けた。

「姉ちゃんと工藤二人くらい、かつげるから任しとき」

 せやけど、抱き上げようとした俺の手を、工藤ははねのけた。

「な、何すんのや!」

 抗議の声を上げたけど、工藤はただ無言で首を振った。

「下の階に、ベルモットとウォッカが気絶してるだろ? お前は彼女らを運べ! となると、灰原も、はさすがに無理か」
「ちょ、ちょー待ち! せやったら、お前どうするつもりや!」

 ベルモットやウォッカなんて、俺にしか運べん事はよう分かっとる。けど、足に怪我をした工藤と姉ちゃんはどうなるんや。

「俺なら、大丈夫だ。……灰原連れて、何とか脱出して見せる!」
「せやけど、お前その怪我は!」
「ま、まぁ……手の方は結構深くやっちまったけどな……足は幸いかすり傷だ。灰原一人ぐらい、何とかなるさ。バッジ、博士からもらったろ? 何かあったら、そこに連絡入れっから」
「けど!」

 それでも抗議しようとした俺を、工藤はきつく睨んだ。

「早くしろ、間に合わねえぞ! 俺達は、別ルートで絶対脱出すっから」

 信じるしか、今の状況を何とかする方法はないんやな。
 俺は「絶対やぞ、必ず無事に再会するんやからな!」と言って下の階へ走った。
 つい先ほど、下の階でやりあった時、ウォッカは俺らで何とか倒して、ベルモットは工藤が寝かせた。そんな悪い奴やない、て言うて、傷つける前に麻酔銃で一発や。


 ベルモットとウオッカを見つけて、両肩に背負った。さすがに気絶している大の大人、しかも片方は大柄の男を担いで歩くのは俺でもしんどかったで。
 何度も爆発音が聞こえて来て、そのたびに地面が揺れる。たまに足をとられながらも、外へと急いだ。


 途中、いたるところが燃えとった。



 炎や瓦礫などの障害物を乗り越えて、俺は走った。
 何とか、走って外に辿り着いた時、最後に渡された探偵バッジが音を鳴らした。

「工藤!」

『あぁ、服部……無事か?』

 少しの間を置いてそっから聞こえて来た、どっか苦しそうな声に、首を傾げた。

「ああ。今ベルモットの姉ちゃんとウォッカっちゅう男連れて脱出した所や。どないしてん。何かあったんか?」

『……ん? ……いや、ちょっとハプニングがあってな。爆発のショックで、部屋から出る道が塞がれちまって……ここ、窓あるから、そっから脱出しようと思ってよ』

 また数秒遅れて帰ってきた答えは、やっぱり苦しそうやった。
 聞き取りづらいノイズ混じりや。電波も通じにくくなっとるんやろか?

「窓から脱出て、お前そこ三階やろ?」
『……ああ。足怪我した俺らには飛び降りるのちょっと辛いから……お前に下で受け止めてもらおうと思ってな……裏に回れば、窓があるの分かると思うけど』
「わかった。急いで行ってみるわ」


 早よせんと、間に合わへん……そう思て、急いで裏側に回ると、確かに三階の窓が開いとった。

「来たで。早よう降り!」

 叫んだんやけど、工藤からの返事は中々返ってこぉへんかった。

「……工藤? 工藤! どないした!」

 心配になってもう一度呼びかけると、再び間を置いた返事が返ってくる。

『………あぁ、悪い………まず、灰原から落とすから。……瓦礫に当たって気絶しちまったから、気をつけて受け止めろよ……?』
「……分かったから、早よ降ろし!!」
『ん……あぁ』

 どこかはっきりしない声に首傾げとると、窓から姉ちゃんが落ちてきた。
 しっかり受け止めた後で、再び窓を見る。何や、乱暴な落ち方やったけど……工藤の姿がまだ見えへん。

「工藤、何やってん! 早よ降りてこいや。もう間に合わんぞ!」

 爆発が始まってから、もう四分程は経つ。一瞬で吹っ飛ばなかったんは、多分幹部クラスの奴が逃げる為の時間なんやろうけど。
 二、三秒の間を置いて、探偵バッジから囁くような工藤の声が聞こえて来た。

『……服部、悪い。……最後に約束した事、守れそうにねえんだ………』
「何やと?」
『……お前、言ってたろ。無事に脱出せえよ! って』
「せや! だから早よ降りて来い!」

 嫌な予感を振り払いながらバッジにそう叫んだけど、工藤はまた言った。

『………無理なんだよ。降りれねえんだ。あの後、灰原の方に折れた柱が落ちてきてな……何とかあいつ突き飛ばしたけど、足が引き攣って、逃げられなくて』
「………何、言うて………」

 聞こえた言葉に、一瞬目の前が真っ白になってしもた。
 どういうことや? 逃げられへんかった?
『は、柱に、下敷きになって……身動きとれねえ状態なんだ。灰原は、必死で俺を助けようとしたけど……また爆発のせいででっかい破片が頭に当たって気絶しちまって』

 下敷きになって、身動きとれへんまま……死ぬ言うんか? そのまま、建物が壊れるか爆死するんを待って……

「アホ……何かあるやろ! そっから抜け出す方法が……」

 バッジに向こて、声を張り上げて叫んだ。やっと、やっと組織との戦いを終わらせられたんやろ?
 ずっと待たせてた姉ちゃんのとこに、やっと戻れるんやろ……?

『……俺自身、頑張ってこっからでようとしたんだよ。でも、どうしても、抜け出せそうに無いんだ。今からじゃもう、助からない……… それより服部、そろそろ建物から離れろよ。聞こえてくる爆発音が、段々でかくなってんだ。多分、最後に全部の証拠がなくなるくらいの爆発が起きる』

 バッジから聞こえてくる声は、もう既に覚悟を決めとるもんやった。
 覚悟? 何やそれ。諦めるんはお前やないやろ!

「アホ! 俺にお前を見殺しにせえ言うんか? ふざけんなや!」
『……ばーろ、違えよ。少しでも、犠牲は少ない方がいい。頼みたい事があるんだ。安全な所まで灰原連れて逃げろ』
「あ、あかん……」
『言ってんだろ! お前が居たって、俺が助かるわけじゃねえんだ。いいから、早く逃げろ!』

 それでも、逃げたくないて思っとった事は事実や。けど確かに、工藤の言う事の方が正論やった。俺の使命は、工藤が守った姉ちゃんを最後まで無事に守る事や。
 せやけど、悔しくて、唇を噛み締めながらも、まだ望みを捨てられへんかった……入り口が、もしかしたら通れるかも知れん。
 そんなありもせえへん望みに、すがるしかなかったんや。

 再び聞こえて来た爆発音に、苦しげなうめき声……
「工藤!?」と呼びかけると。辛そうに返事が返ってきた。

 アカン、時間があらへん!

 くるりと向きなおして建物の表側に行こうとちっさい姉ちゃんを抱えて走り出した俺に、探偵バッジから再び声が聞こえて来た。

『服部……っ、最期に頼みがあるんだ。聞いて……くれよ』
「最期て何言うてるんや!」
『まず、お前にまだ今までの礼言ってなかったな……ずっと協力してくれた事……本当に感謝してる。ありがとな』

 工藤は、勝手に話し始めた……一方的に。

「……アホ! そないな事、助かったらいくらでも聞いたる!」

 普段やったら、ずいぶん素直やんけとか喜んどったかもしれへんけど、実際ありがとうなんて言葉が欲しかったわけやない。
 俺がずっと工藤に協力してたんは、大切なライバルで、親友で。これほど、一緒に推理しとっておもろいて感じた事、なかったんや。
 これからも、ずっと一緒に――
 もし、二人居る時事件が起きたら、推理したかった。意見を出し合ったり、時に食い違ごたり。推理小説の考察したり。元に戻ったあいつと、あの姉ちゃんと……和葉と俺の四人で、どこかに行ったり、楽しく遊んだり話したり。
 もうすぐ、そんな日常が待ってたんやなかったんか? 薬で、元に戻って、組織からも解放されて……。ちゃうんか? 工藤!

『服部? ちゃんと聞いてるか? 伝言、まだあるんだ。こんな事、おめーにしか頼めない。
 あのな、灰原にはお前のせいじゃないって、伝えて欲しいんだ。いつも何でも自分が悪い事に決め付けちまうからよ……んな事、俺は全然思ってねえ…って。
 あと、博士にも今まで世話になったから、そうだな……一言じゃ表わしづらいけど、ありがとうって、言っといてくれ』

 話の途中で辿り着いた入り口は、けど人が入れるもんやない。
 それでも向かおうとした俺を、通報を聞いて駆けつけた知り合いの警官が止めよった。

「無理だ! もう中には入れない!」

 そんな声を聞きながらも、俺は必死で捕まれた手を振り解こうとした。そんな中、探偵バッジからは尚も声が聞こえてくる。
 急に穏やかでやさしいものに変わったそれは、俺に告げた。

『それから、蘭に……蘭にな……、
 約束守れなくてごめんなと、今までずっとありがとうと……俺の事は、忘れてもいいから幸せになれよ、と、俺も……、俺もお前の事が、好きだったぜ……って』
「あほ! んな事、自分で伝えろや!」

『頼んだぞ……はっと…………』

 声は、爆発音にかき消された。バッジからは、ザーっちゅう不快な音のみが響いてきとる。
 それが意味するものは、つまりは探偵バッジが壊れたっちゅう事や。
 未だ、アジトはなんとかその形らしい形を保ってはいる。せやけど恐らく次の爆発で全てが木っ端微塵になるやろ。

 ほんで、そん時に、中におるあいつも……
 こっぱ、みじんに………

 そう考えてしもたら、我慢しきれんようになって、火事場の馬鹿力で掴まっとった腕を振りほどいた。
 そのままその半壊しとる建物に向こうて走ったんやけど……、ちょうどその時やった。


 でっかい音と共に、辺りが一瞬明るなったんは。


 近づいた俺が、その爆風に吹っ飛ばされたんは。



 ほんで、



 中に居るあいつの命が、もうそこにはないて、理解したんは――爆風で傷だらけになりながら、起き上がって、その跡形もなくなった建物を見た時やった。





 工藤が、死んだ。
 死、んだ――?



 ――なぁ、工藤。組織の事全部解決したら、その薬飲むんやろ?
 ――ああ、そうだな。そしたら、もうお前にガキ扱いされる事もなくなるってわけだ。

 少し前に交わした会話が、頭ん中にふっとよみがえった。
 お前、あんな元気で、笑ろとったやろ……?

 小学生の外見には、めっちゃ生意気な顔で、笑ろとったやろ……?



「…………う……そや………」



 ――真実はいつも、たった一つしかねえんだからな。
 ――バーロ、完璧な人間なんて、この世にいやしねーよ。




「………うそ、やろ………」




 ――下の階に、ベルモットとウォッカが気絶してるだろ? お前は彼女らを運べ!
 ――ちょ、ちょー待ち! せやったら、お前は!?

 何で、こんなアホな会話しとんねん。
 何で、自分の事より、自分達の命狙ろうとった組織の仲間の命優先すんのや……




 ――俺なら、大丈夫だ。灰原連れて、何とか脱出して見せる!

 ――灰原一人くらい、何とかなるさ。

 大丈夫やて、言うとったやんけ。何とかなるて、言うとったやろ?
 せやから、あそこにお前を置いてきたんや!




「ふざけんなや、あほ…………」




 ――俺達は、別ルートで絶対脱出すっから。

 絶対て、言うてたやろ……俺があん時、どんな気持ちでそれ信じたと思てんねん!




 ――服部……っ、最期に頼みがあるんだ。聞いて……くれよ。

 何が頼みや。勝手に、何でも俺に押し付けよって。




――それから…………蘭に………蘭にな………

 あほ………



――約束、守れなくてごめん。俺の事は忘れてもいいから幸せになれよ……って。

 あほ………!



 ――俺も………俺もお前の事が好きだったから……って。

 そんな大事な事、自分で伝えろや!
 何で、そんな事俺が伝えてやらなあかんのや! 何で、俺が伝言がかりになってやらなあかんのや!






 ――頼んだぞ……はっと…………

 何やねん。勝手に、おしつけるなや…………






 ――お前にまだ今までの礼言ってなかったから……

 礼が欲しかったんと、ちゃうわ。お前に礼言われるなんて、気色悪い。





 ――ずっと協力してくれた事……本当に感謝してる。

 ホンマに感謝してるんやったら、俺に伝言頼まんで、姿見せろや!
 最期まで、俺にけったいな協力さす気なんか!






 ――ありがとな。






 なぁ、そんな事、言うたこと無かったやろ……?
 今まで、一度も言うたこと無かったやんけ!






「工藤ォーーーーーーーーーーー!!」






 瓦礫に向うて、出せる声の限りで叫んだ。
 空しくその声が空に消えて行ってしもても……それでも、あいつの名を叫ばずにはおれんかった…………





 後で警察達が瓦礫の中を捜したんやけど、結局、工藤はどこにも見つからんかった。
 まだ全て細かく捜索したわけやないけど、恐らく爆発で身体も吹っ飛んでしまったんやろて言うとった。





「姉ちゃん、工藤はな……最後に俺に姉ちゃんへの伝言を頼んだんや」

 目の前で、泣き崩れる彼女に、ほんの僅かな伝言を伝える。
 それが、工藤の最期の望みやから、言うんは残酷な気もしたけど、それを伝えた。
 傷の手当てなんかいらんて、みんなを突っぱねて。ただ、工藤が最期に遺した短い伝言を姉ちゃんに告げた……。
 この姉ちゃんにとっては、生涯ずっと忘れられんようになる遺言や。これが、あいつにしてやれる……最期の協力やから。

「『俺も、お前の事が好きだったぜ……』やて。聞いた事もないような柔らかい声で、言いよったんやで? あのアホ……それ伝える俺の立場になってみぃ」


 どんな顔で伝言しとったんやろな。多分、今までにないくらいの優しい笑顔しとったんやろ。
 工藤、俺が思った通りに伝えるで。お前の最期の様子を、お前の今までを。知る権利がある、この姉ちゃんに。



 博士にも、あの後目覚ました小っさい姉ちゃんにも、伝言と、工藤の事を告げた。
 ちっさい姉ちゃんは、工藤が言うた通り「自分のせいや」て、責めとった。泣きながら、沢山の後悔を、しゃくりながら何度も繰り返しとった。



 葬式やっちゅう事で呼んだ和葉は、血相変えて大阪からこっちに来た。ほんで「蘭ちゃんはどうしてるん?」て、盛んに聞いてきた。
 葬式中に、和葉が姉ちゃん励ましながら、何か言うとったみたいやけど。
 その後、姉ちゃんは何か幾分明るい顔になっとって……小っさい姉ちゃんとも話して、二人共明るい顔になっとって。



 葬儀が終わった後で、吹っ切れた顔で、姉ちゃんは言うたんや。




「服部君。私ね、これからも待つよ。約束したし、ずっと、新一の事待ち続けるって決めたから」
「せ、せやからそれは」
「あ、誤解しないでね? 現実逃避じゃないよ。あいつは、どんな危険な事だって、今まで乗り越えてきたんだもん。だからもしそれで帰って来なかったとしても……最後まで待てたら、私笑顔で新一に再会出来るもの。それで一生過ごすなら、悔いは……残らないから」




 そう言った姉ちゃんの顔は、笑顔やった。笑ろてたんや……
 別に、おかしくなってしもたわけやのうて、その一つの、淡くても幸せな希望の光を、その手に握る事が出来たから。
 姉ちゃんには、たった一つの淡いかけらを探してく決心がついたんや。

 そんな姉ちゃん見とったら、俺も、そのかけら探したくなってきてしもた。




 なぁ工藤、頼まれた伝言は全部伝えたで。
 せやから今度は、自分の口で言えや。
 お前やったら、あんな、絶望的な状況でも、何か奇跡起こせるて、信じてても、ええやろ……?


 どんなに不可能な事やっても……
 どんなにあり得へん事やっても………



 お前は、今まで何度も奇跡を起こしてきたんやから。



 信じてんぞ、工藤。



 また会うた時は、それがこの世やろうとあの世やろうと、笑顔で、再会しようやないか。



 また、親友でライバルとして。一緒に、今回の大事件の事でも、話し合おうやないか。












〜第2話 平次編…完  第3話へ続く。〜









作者あとがき<(_ _)>

 淡いかけら探して、第2話です!
……例によって、シリアスだなぁ……
ちょっと待て、何か矛盾してるだろ、これ!とか、他に方法なかったのかよ!?とか言うつっこみは、堪忍して下さい(汗)
前回は蘭ちゃん視点。今回は平ちゃん視点。じゃあ、次回は? 楽しみにしててやってくださいな(^^)
ええと、今回も読んで下さってありがとうございました。では、次回もよろしくお願いしますね♪


では、トークタイム!!
新一「おい! お前なんだよ、この残酷な!」
平次「残酷や思うてるんは、お前だけちゃうんか?」
新一「お前、爆弾爆発するの柱の下敷きになりながら待ってるのが残酷じゃねーっつーのかよ!」
平次「せやったら、あんな伝言頼まれた俺は残酷やないんか?」
新一「伝言くらい、頼んだっていいだろ!」
朧「げっ。前回は叫びモード、今回は喧嘩モード!?」
新一&平次「「大体、おめーがなぁ…(姉ちゃんがなぁ)」」
朧「(ぎくっ)じゃ、じゃあ朧はこの辺で!(逃亡)」
平次「あっ、逃げよった!」
新一「逃がすかよ!」

新一、ボールをける。


朧「ぎゃんっ!」


お粗末さまでした(^^;;)
H16.8.28 管理人@朧月
H22.6.01 改稿