目の前に、ずっと会いたかった人がいる。
やっと会えた……喜びと共に湧き上がってきた、怒りと悲しみと。
色んな感情が、胸を覆って。
あなたが、私を好きでいてくれるなら。
私は、どんな事でも耐えていけます。
どんな苦しみでも、乗り越えていけます。
誰よりも、愛してる……
あなたに会えた私は、誰よりも、幸せ……



So long as you love me...


最終話、再会した二人…

「どうして、黙ってアメリカに行ったりしたのよ?」
「ら、蘭!?」
「こんな、遠い所に……」

彼はすっかり困惑しきっていた。
まだ受講生は殆どきていなくて…
教室の中には、ずっと忘れられなかった彼女と自分のほぼ二人っきり。
怒ったような顔で、自分を睨みつける彼女に、どう言っていいのか、分からなかった。

「俺……」
「馬鹿!!もうどこにも行かないって、言ったじゃない!!!」

怒っていたように見えていた彼女の顔が歪み、瞳からは大粒の涙が零れた。

「でも、お前は……」
「待っててくれるって…返事するの待っててくれるって、新一言ってたじゃない!!」
「そうだけど、俺がお前を怒らせるような事したんだろ?
もう顔も見たくないと思うほど…」
「違う!!違うの!!あれは……っ」

言葉が涙に遮られる。
蘭はぶんぶんと首を振りながら、必死で否定した。
新一は、そんな蘭に首を傾げる。

「あれは…私が誤解してたの!新一と…志保さんの事!!」

蘭の口から思っても見なかった人の名が出てきて、
新一は思いっきり顔を顰めた。

「……俺と、灰原ぁ!!?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが…
彼女はこくりと頷いた。
新一は混乱しきっていた。

「ちょっと待て…お前なんであいつの事知ってんだよ?
『宮野志保』とは面識なかった筈だろ?」
「偶然見ちゃったのよ。あなたに婚約指輪をもらった日に……」
「俺が、お前に指輪を渡した日……?」

新一は、その日の事を必死で思い返した。
確かその日は…蘭の事で頭がいっぱいだった筈なのだが……
色々あって、どんな事があったか全く思い出せない。
新一は困った顔で蘭に尋ねた。

「……見たって、何を?」
「あなたが帰った後で、私あなたに用があってあなたの家に行ったの。
そしたら……あなたと志保さんが…………」

新一は、もう一度そのときの事を思い浮かべた。
蘭の言う事を聞いているうちに、段々とその日のことが思い出される。

そうだ…蘭にプロポーズしてそれしか頭になかったから、忘れてたけど…
あの日帰ったら灰原が来て……



「工藤君、遅かったのね。」
「えっ?…あぁ、悪い。待たせたか?」
「博士の家でここの明かりが点くのをくつろぎながら待ってたから…気にしなくていいわよ。」

灰原は、俺が元に戻ってからほぼ毎日やってくる。
但し、昼間は折角帰って来た俺と蘭の仲を邪魔しないようにだとか気を遣って…
会いに来るのはいつだって夜だった。
何をしに来てるかと言うと…解毒剤の副作用が現れていないか、
などその後の経過を診るために、検査をしに来てるってわけだ。
蘭に余計な心配かけたくねぇから、夜はあいつを家に入れないようにしてた。
灰原はいつも通り検査を済ませた後で、思いついたように時計を見上げた。

「やだ、もうこんな時間なのね。」
「ん?あぁ、本当だ。」

そう言えば…今日博士出かけるって言ってたっけ?

「なぁ、だったら飯食ってったらどうだ?一人だとつまらねえだろ。」
「…そうね、ちょうどお腹もすいたし。」

少し考え込んだ灰原だが、すぐに了承した。

「じゃあ、コンビ二でも行って何か買ってくっから…待ってろよ。」

俺が腰をあげると、灰原は怪訝な顔で言った。

「ちょっと待って。あなたいつもそんなものばかり食べてるの?」
「あぁ…まぁここの所は夜蘭が来ないからな。」

自分で作るのも面倒くせーし。
当たり前のように言った俺に灰原がおおげさに溜め息をついた。

「呆れた。…身体に悪いわよ。じゃあ、今日は私が何か作ってあげるから。
出来るまでちょっと待ってなさい。」
「お前が作る……?妙なもん入れないだろうな?」

俺は灰原が何か作るというと、薬作ってるところしか想像がつかなくて、つい顔を顰めた。
すると、灰原が不機嫌そうに俺に言った。

「言っておくけど、いつも博士に料理作ってあげてるの…私なのよ?」
「あ、そう…」
「いいから、待ってて。適当に冷蔵庫の中の食材使わせてもらって作るから。 …いくらなんでも、冷蔵庫が空って事はないわよね?」
「あ、当たり前だろ?たまには俺だって軽く料理してるよ!」
「そう…よかった。」

クールな口調でそう言った灰原を見て、俺はどこかむっとした。
灰原はそのままキッチンへ行き、俺はその場で出来上がるのを待った。
冷蔵庫の中、そんなに大したもの入ってなかったと思ったけど…大丈夫か?
そんな不安を密かに感じながらも待っていると、何やらいい匂いがしてくる。
そして、俺の前に運び込まれた料理は、
とてもあの質素な冷蔵庫の中の食材を使ったものとは思えないものだった。
綺麗に盛り付けされたそれを見て、つい手が伸びる。

「工藤君?待ってなさい、まだサラダがあるから。」
「あ、ああ…」

そんな会話をしながら、出来上がったそれは俺の想像をはるかに越えていて…
こいつ料理もまともに出来るじゃねえか…と感心した。
そして、二人でそれを食べた。
味も相当美味くて、意外な才能を見つけた気がした。

「それで?」

突然、灰原が俺に尋ねてきた。
何の事だ?と思い首を傾げると、灰原は呆れた顔で俺に言った。

「あなた、さっきからぼーっとしてるけど…もしかして彼女にプロポーズでもしたの?」

さらっと言われた言葉に、俺は一気に赤くなった。
俺の反応を見て、灰原は少し驚いた顔で、「やだ、図星だったの?」と付け足した。

「い…いやっ、その……」
「指輪、渡したのね。」
「えっ!!?」

何で、こいつ指輪の事まで知ってんだよ!!?

「あら?私がどうしてその事を知ってるか不思議だって顔してるわね。
別に不思議に思う事はないわ。偶然あなたが指輪を買ってる所見かけただけだから。」
「み、見かけたって…お前なんでそんな所にいたんだよ?」
「私が宝石店でアクセサリー見てたらいけないのかしら?」

そして、俺は今日あったことを洗いざらい白状させられた。
帰り道…一言二言交わして…別れた記憶はあるのだが…



「……何か、誤解されるような事あったか?」

新一は首を傾げた。
どうしても、特別なことがあったとは思えない。
しかし、翌日の蘭の様子を考えると、余程の事があったのだろう。

「…だから、新一と志保さんの会話が…恋人みたいで……
その後抱き合ってる所なんか見ちゃったから…」
「ちょ、ちょっと待て!!俺はあいつと抱き合ってなんか……」

新一は慌てて否定した。
その言葉に、蘭は黙って頷く。

「あの時、新一石につまずいた志保さん抱きとめたでしょ?
そのつまずいた一瞬は見てなかったし…暗かったから勘違いしちゃって…」
「……お前、今までずっとそれを怒ってたのか!?」

今度は新一が声を張り上げる。
自分は、ずっと約一年間何があったのか必死で考えていた。
取り返しのつかない事になってしまったと思ったから、外国に来た。
けれど、そもそもそんな事だったなんて、思いもしなかった。

「だから、あの後志保さんに会って、その時の事教えてもらったのよ!!
新一は、無実だって!!」
「あ…当たり前だ!!俺がお前以外に……!!」
「あの日……」

新一の言葉を、蘭は強い口調で遮った。
何事だろうと、新一は蘭を見つめた。
蘭は未だ止まらぬ涙をぼろぼろと流しながら、新一見つめた。

「あの日、あなたがアメリカに来る前日に…
私はあなたが居るはずだった病院に行ったのよ!」
「………え?ら…」
「行って、私は……あなたに指輪を見せて、返事をする筈だったのよ!!」

新一の目がどんどん大きく見開かれる。

「あなたに…指にはめた指輪を見せて…OKの返事をする、筈だったのよ。」

新一は、しばらく驚きのあまり声が出せなかった。
教室には、段々と生徒達が集まっていた。
しかし、二人は全く気付いていない。
そして生徒達もまた、何やら口論している二人のその様子を黙って見守っていた。
日本語だから何を言っているかは分からないが…
目を丸くした新一と、ぼろぼろ泣きながら何かを訴えかける噂の日系の少女。
ある人は、新一がまた女を振ったのか?と思い…
ある人は、日本で恋人だった女が追いかけてきたのかとも思った。
集まった生徒達は、ただじっと、新一と蘭を眺めていた。

「突然…何も言わないでいなくなるなんて……そんなの、酷いじゃない。」
「蘭…俺は……」
「私だけ、いつも何も知らなくて…新一、何も相談してくれないから……
志保さんの事も、解毒剤の副作用の発作の事も…
新一が外国の色んな大学から誘いが来てた事も…アメリカ行きの事も……
あなたが悩んでる事も、苦しんでる事も、全部、二人で解決していきたいのに…
あなたは、いつも何も相談してくれなくて、私は何も知らないまま勘違いして…空回りして……」

言っている間も、目からとめどなく流れる涙。
どうして、自分だけいつも蚊帳の外なのだろうと……
どうして、何も相談しないで一人で片付けてしまうのだろうと……
蘭は、この一年間ずっと考えていた。

「私、もっと頼って欲しいのに……私だって、少しくらいあなたの力になりたいのに……」
「……蘭……」
「私、一年間ずっと必死で勉強したんだよ?あなたが居なくなってから…
どこの大学に行ったのかも分からないあなたを、必死で探して………
私のレベルじゃ絶対無理なような所だったけど、毎日死ぬ気で勉強して………」
「蘭……」

新一は、そっと彼女を抱きしめた。
アメリカに来てからも、ずっと自分の心を支配していた…大切な人。
今、その彼女は自分の胸の中にいる。

泣きながら、気持ちをぶつけてくる彼女……
いつだって、蘭を泣かせてるのは自分で…
いつだって、蘭を心配させてるのは自分で…
だから、余計な心配をかけたくないと…ずっと蘭には色々な事を秘密にしていた。
もっと、全部話していたら、すれ違う事もなかったかも知れないのに。

「し……んいち?」
「……ばーろ。お前、俺に会う為だけにそんな苦労したのかよ?」
「だって…あんな別れ方、絶対嫌だったの!何も言わないで…行き先も誰にも教えないで……
そのまま消えちゃうなんて、酷いじゃない!!」

胸の中で、彼女は尚も泣きつづける。

「…もう分かったから、泣くなよ。俺も、ずっとお前に会いたかった。」
「…………馬鹿。だったら、どうして私の前からいなくなっちゃったのよ?」
「お前に、依存してる自分に気付いたから。
元々、日本に居たのはお前と離れたくなかったからなんだよ。
だから、お前と別れるなら、日本にいる意味はなくなっちまうんだ。」

前から、色々な大学から誘いが来ている事を教えられてて…
出席日数ぎりぎりの高校にこれ以上通わなくても、
受け入れてくれる所がいくつもあるのだといわれた。
高校中退でもいいから、是非来て欲しいという誘いを、
蘭と離れたくないという理由だけで断わっていた。
けれど、もう日本にいる意味がなくなったと思ったから…
だったら、アメリカに来て勉強した方が、新一にとってはいい話だったのだ。

「新一……もういいから、放して。」

蘭は新一の胸から離れ、彼をじっと見つめた。

「ずっと、何度も言いたくていえなかった事があるの。」
「あぁ、何だ?」

彼女の真剣な眼差しに、新一も自然と真剣な顔つきになってくる。
蘭はまっすぐに彼を見つめて、言った。

「何度も何度も、言おうとしたの。あなたにプロポーズを受けた次の日の約束でも…
あなたがアメリカに来る前日も…それから、あなたが飛行機で飛んでいってしまった日も…」
「……ああ。」
「プロポーズの、答え………」

そう言って、彼女は彼の前に左手を突き出した。
その薬指には、一年前の…あの指輪。
新一は驚いた顔で蘭を見つめた。

「何度も、この指輪をはめた所を、あなたに見せようとしたの。
私……あなたがいなくなってから、一度もこの指輪を外さなかったのよ?」
「………蘭……」
「あなたが私の事を愛してくれてる限り…
私があなたのプロポーズを断わる理由なんて、あるわけないじゃない。
だから、一つだけ聞かせて?
今でも、この指輪にあなたが込めてくれた思いは、変わってない?」
「……変わるわけ、ねえだろ。」

新一は蘭の手を取り、彼女を自分の元に引き寄せ、彼女の唇に自分のそれを重ねた。
そして、驚いている蘭を見て穏やかに微笑んだ。

「プロポーズのやり直しだ。……俺と結婚してください。」
「…………はい、喜んで。」

蘭は、幸せそうに微笑んだ。
思えば、たくさんの困難に出会った。
新一がコナンになった時も…そして戻った後も…
どうしても苦しい時もあった。すれ違って、離れ離れになって、もう駄目かと思った時もあった。
それでも、二人はそれを乗り越えてきた。
いつまでも、どんなにすれ違っても困難に直面しても…
二人の絆はそれよりずっと強く…これからもお互いに乗り越えていけるだろう。
お互いがお互いを愛している限り、どんな困難も、絶対に………

二人は再び出会えた喜びを噛み締め……
ようやく叶ったお互いの想いに幸せを感じながら……
もう一度、抱きしめあい…甘いキスをした。




「あの新一が女とラブラブだぞ!!」

突如、教室中がざわめき、二人は驚いて周りを見回した。
講義室には、この時間に講義を受ける生徒とは関係のない者まで集まり…
驚いた顔で口々に好き放題な事を言っていた。

新一は当たり前だが、今や必死で勉強してほぼ完全に英語をマスターした蘭も、
皆が何を言っているのか理解して、二人は真っ赤になりながらお互い見つめあった。

その間も、誰が連れてきたのか、生徒達の数は増えるばかり。
一年間どれだけの美人に交際を申し込まれてもずっと振り続けた彼が、
突然現れた日本人の女ととてつもなくラブラブな雰囲気を作り上げているのだから、
無理もないだろう。

しかし、その後教壇を見て新一は顔を引き攣らせた。
というのも、何故か教授までもが、新一と蘭の様子を物珍しげに見ていたのだ。
新一が時計を見てみると、本来なら講義が始まる時間を5分も過ぎている。

「…教授、講義はいいんですか?」

すると、教授は思い出したかのように、皆に席に着くように言った。

「では、講義を始めよう。」

教授が話し出し、皆は上辺だけ講義に集中した。
蘭が真っ赤な顔で、新一に言った。

「もう、入学したばかりで恥かいちゃったじゃない。」
「いいじゃねぇか。一年も待って、やっとまた会えたんだからな。」

新一は未だ赤い顔で…しかし満足した幸せそうな顔で笑った。





やっとその手に掴んだ幸せを……
もう、絶対に放さない。






〜The end…(エピローグへ続く)〜










作者あとがき。
こんにちはvv朧月です!
第8話…ひとまずこれで最終話となるわけですが、いかがでしたか?
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとう御座いました。
まだ、あとエピローグが残ってるので、そちらも見てもらえると嬉しいです。
それから、ちょっとだけ書きたかった所も残ってる話だから…
もしかしたら番外もありかも?
ずっとすれ違って居た二人…やっと幸せになれました。
ねっ?ハッピーエンドだったでしょ?
そうなのよ…朧はハッピーエンドで終わるシリアスが大好きで大好きで…vvv
救われない終わり方はちょっと悲しいですし。
もうちょっとラブシーン上手く書きたかったなぁ……
朧、ラブ系書くの凄い苦手&下手くそだから…
でも、今回私にしては結構甘い話になったと思うのですが…(^^;;
では、もう一度…本当にありがとう御座いました。 感想お待ちしてますっ!!!
ではでは〜vv