何も言わないで、どこへ行ったの。
何も、言わせてくれないで、どこへ消えたの。
言いたい事、たくさんあったのに……
ごめんねと、それから………大好き、と。
たくさん、たくさんあったのに……



So long as you love me...


第5話、新一…消ゆ。

翌日、新一は学校を休んだ。
まだ体調が本調子じゃないから…という理由だ。
どうやら、まだ病院にいるらしい。
蘭は、だったら帰り道に病院寄ろうと決めた。
学校帰り、病院へと向う道で…蘭は通りがけの女性に突然声をかけられた。

「あら?蘭さん?」

小首を傾げて声をかけてきたのは、自分より僅かに年上だろうか…
肩ほどまであるウエーブがかかった茶髪の、とても綺麗な女性だった。

「あの?」

誰ですか?と言い掛けて、彼女ははっとした。
確かに、新一の家で見た女性だ。
けれど……何故かどこかであった事があるような気がする。

「どこかで、会いましたっけ?」
「思い出さない?何度か面識あるんだけど。」

面識があると言われて、不思議に思いながらじっと彼女を見つめた。
考え込んでいると、彼女はくすっと笑った。

「分からない?…無理ないわね。
会ったと言っても…この姿で会うのは初めてだから。
でも、工藤君から聞いてるんでしょ?彼が江戸川コナンだったって。」

そう言って微笑んだ彼女……
私の頭の中で、茶髪でクールな女の子の顔が浮かんだ。

「まさか……」
「ええ、そうよ。私、宮野志保…そして、あなたに会った事のある私の名前は、
灰原哀…江戸川君と同級生だった少女よ。」
「あなたも、体が……?」
「そう、最も私の身体を縮める原因となったのも…
彼の身体を縮める原因となったのも…全部私が作った薬のせいだけどね。」

そう言って、彼女は自嘲的に微笑んだ。
彼女が…作った?

「それ…どういう……」
「詳しい事は、まだ話せないわ。時が来たら、工藤君から聞いて。」

こうして、本来の姿を間近で見ると、とても綺麗……
新一が好きになるのも、しょうがないよね。
すると、彼女は不思議そうな顔でキョロキョロしだした。

「そう言えば、工藤君は?あなた達、一緒じゃないの?」
「新一は、昨日ちょっと病院に…聞いてなかったんですか?」

それを聞いて、彼女の顔色が変わった。

「病院!?工藤君…何かあったの?まさか発作で倒れたとか……」

(え?発作…?どういう事……?)

「新一は、ちょっと寝不足と栄養失調のせいで、
日射病になって階段から落ちて…保健室の先生がいなかったから
病院に運ばれたんだけど……あの、発作って?」

蘭は不安になった。
新一は、もしかして何かの病気なんじゃないかって。
彼女は不安げな蘭を見て、軽く微笑んだ。

「あ、何でもないのよ。ちょっと薬の副作用がね…
そんなに酷い発作元に戻ってからずっと無かったみたいだから、
病院に運ばれるような酷い発作が起こったんじゃないかって。」

(薬の……副作用?)

「あの、哀ちゃ…じゃなくて志保さんは新一とはどういう関係なんですか?」

つい、聞いてしまった。
志保さんは一瞬驚いた顔で私を見つめた後…
苦笑しながら答えた。

「哀ちゃんでもいいわよ。…工藤君と?
そうね…患者と主治医とでも言ったところかしら?」

(患者と…主治医?)

―体の調子、どうなの?
―俺より、お前の方が詳しいんじゃねぇのか?
―まぁ、確かに。あなたの体は熟知してるつもりだけど。
―何だよその顔。毎日来ててまだ不満だってのか?
―ええ、あなたの体調管理は、私の責任だしね。

「じゃあ、あの会話は……」

蘭は、ついそう呟いてしまい、慌てて自分の口をふさいだ。
しかし、志保にはばっちり聞こえていたようで、
志保は蘭に怪訝な顔で、尋ねた。

「あの会話?」
「あ、えぇと…」

まさかストレートに覗いてましたとは言えない蘭。
困った顔で志保を見つめた。

「あ、あの…実は偶然見ちゃって……新一と、志保さんが抱き合ってる所。」

すると、志保は驚いて目を見開かせた。
しばらく考えこんだ彼女は、納得した顔で蘭に言った。

「もしかして、あなた…あの日私達の事見てたの?」
「あ、はい。ごめんなさい……」

蘭が俯いて謝ると、志保は苦笑して蘭に言った。

「もしかして、その事ずっと誤解してた?」
「えっ?誤解って……」

蘭の様子を見て、志保はふぅと溜め息をついた。

「工藤君の名誉のために言っておくけど……彼、無実よ。」
「えっ?」
「だから、私と彼は本当に何でもないのよ。
あれは抱き合ってたんじゃなくて…
暗くて石につまずいた私を彼が抱きとめてくれただけよ。」

志保はあの時の事を思い出して、苦笑した。



もう帰ろうとしたのはいいが、方向転換した時、
暗い中足元のある石に気付かなくてつまずいて…

「きゃっ…」
「あ、危ねぇ!!」

気がついたら、工藤君に抱きとめられていて…
驚いて真っ赤になっていると、「大丈夫か?」って声がかけられて…

「え、えぇ…大丈夫よ。」
「気をつけろよ。暗いからな…。送ってってやろうか?」
「隣なんだから、大丈夫よ。…それより工藤君、
今は私のことよりプロポーズした彼女の方が気になってるんでしょ?」
「え?…あ、いや……」

そう呟いて、真っ赤になった彼。
そんな二人の間に、自分が入り込む隙は無いんだと実感させられた。

「じゃあね。また来るわ。」
「あぁ、悪いな灰原…」



(全く、工藤君も本当に鈍感なんだから。)

「ごめんなさいね。プロポーズされた日に、
知らない女と抱き合ってるの見たら…あなたも気を悪くするわよね。
でも、本当に工藤君にはあなただけだから。」

(……全部、私の誤解だったの?勝手に誤解して…勝手に怒って傷ついて…
やだ!!私本当に新一に酷いこと!!!)

蘭は真っ青になった。
本当に、酷いことをした。
新一は、無実だったというのに……
結婚指輪を投げつけて…もう話し掛けないでなんて……

(どうして、新一の事…信じてあげられなかったんだろう……)

蘭は困惑した。

(睡眠不足になって体調崩すほど…新一、傷ついてたの?
食事も喉に入らないほど…私新一の事傷つけちゃったの?)

志保は、蘭の様子をじっと観察して、はぁ…とため息をついた。

「どうやら、その様子だと工藤君と何かあったみたいね…
早く病院行って来なさい。工藤君を元気にするのは…
いつだってあなただけなんだから。」
「志保…さん」

蘭は、次の瞬間には走り出していた。
新一がいる筈の病院に。

(早く…早く新一に謝らなきゃ……)

必死で、走って…彼女は病院に辿り着いた。
昨日の病室に迷わず駆けつけて…ドアを開けた。

「新一……」

そこで間違いなかった筈だ。
しかし、ベッドはもぬけの空。

「新一?どこ??」

看護婦に聞くと、つい2〜3時間前に退院したという事らしい。
蘭は病院を抜け出して、新一の携帯に電話を入れる。
しかし、電源は切られているようで、繋がらない。

「もうっ、新一の…ばか!!」

蘭はとりあえず、そのまま新一の家へ向った。
しかし、家にも帰っていないようで…

「どこ行っちゃったの?新一……」

2〜3時間前に退院したなら、もうとっくに家に着いてる筈なのに。
まさか、病み上がりなのに、事件か何かの呼び出しで推理しに行ったのでは…
そう思い心配になって、今度は目暮警部の携帯に電話をした。
そもそも、彼女が警部の携帯の番号を知ったのは、
新一がようやく帰って来た時に、色々あって心配症気味になっている蘭のために、
何かあったらすぐ連絡いれられるようにと、
捜査一課全員が気を利かせて蘭に番号を教えたのだ。

「あ、あの…目暮警部ですか?」
『おぉ、蘭君かね?…工藤君なら、知らんよ。』
「じゃあ、事件の捜査してるわけじゃ…」
『ああ、彼が倒れた事は知ってたし、
わしらは学生の彼にそこまで頼る事はせんよ。』

苦笑交じりの声を出した警部だが、心配そうに蘭に言った。

『まさかまた工藤君…居なくなってしまったのか?』
「…あ、いえ。ちょっと用事があって…どうしても新一に会いたくて。
病院は退院したみたいだし、家にも居なかったから
もしかして何か事件かもって思ったんです。」
『じゃあ、もし何かの事件に関わってるという連絡があったら、すぐに教えるよ。』
「ありがとうございます。」

蘭は警部の優しい気持ちに感謝して、電話を切った。
けれど、警部が知らないというなら、新一が事件に関わってる可能性は低い。
この辺の事件なら警部は大体把握してるだろうし…
まさか病み上がりの身体でわざわざ事件解決しにそんな遠くに行くとは、
いくら新一が推理オタクだからと言っても、あまり考えられないからだ。

「本当に、何処行っちゃったのよ…新一ぃ。私、あなたに…言いたいことが。」

会ったら、開口一番に謝りたかった。
勝手に誤解して、ごめんなさいって。
早く、謝って…早く仲直りしたかった。
それなのに、一体新一は何処へ行ってしまったのだろう。
蘭は必死で彼を探し回った。
彼は、何処にもいなかった。

結局、思い当たる所から全く考えつかない所まで探したけれど、
彼は見つからなかった。
AM2:00…補導されてもおかしくない時間…
蘭はようやく諦めて、家へ帰った。

「明日、学校で会った時に言えば済むことだもんね。」

彼女は家に帰って、疲れきっていた為かそのまま眠ってしまった。
しかし、学校に行って彼女を地獄に突き落とすような事を知らされるなんて…
この時彼女は全く考えていなかった。






〜第6話へ続く〜










作者あとがき。
は〜い、こんにちはですっ朧月です!!
今回は第5話…ついに誤解も解けましたね!!
志保ちゃん、書いてて切なかったです。
「工藤君を元気にするのは…いつだってあなただけなんだから。」
あの台詞のところ。
朧の志保(哀)ちゃんって、いっつもこう。
さぁ、ついに後半部分突入!!
新一と蘭は、どうなってしまうのでしょう。
そして蘭を地獄に突き落とす事…次回明らかになるでしょう。

ではでは、第5話も見てくれてありがとうございました!!
次回も是非見捨てないでやって下さいねっ!!
…ていうか、ここまで見てくれた方に見捨てられたら悲し過ぎる(苦笑)
感想、お待ちしてますっ!!
ではでは〜vv