嬉しかったんだよ、すごくすごく。
結婚して欲しいって言ってくれた、あなたの言葉。
だから、余計に苦しかった。
ねえ、どうして……どうして、こんな風になっちゃたんだろうね。



So long as you love me...


第4話、〜回想(蘭)〜裏切られた恋心

一方、先程まで新一の病室に居た蘭は、
新一が目を覚ます直前にそこを出た。
病院で買って冷やしておいたポカリを冷蔵庫から出して…
新一が気付くようにベッドの隣においてきて…

「私、馬鹿みたいだよね。結局新一の事ほっとけないなんて。」

蘭は帰る途中の道で、溜め息をついた。

(…どうして、こんな事になっちゃったの?…新一。)

彼女の目から、涙が零れ落ちた。
凄く嬉しかった…新一が好きだって言ってくれて、指輪までくれて。
結婚して欲しい!!なんて、あんな真剣な顔で言うから…
あの時つい即答する所だったけど。
でも、やっぱり心の準備とかなくていきなりだったから、
もうちょっと待っててって…そう言って……
その次の日約束してたから、その時返事するつもりだったのに。
その日、指輪をはめて行って…OKの返事をする所だったのに。


すっかり遅くまで新一に付き添っていた。
もう、お父さんは寝てしまったようで…
私は一人家に入って、自分の部屋へと向った。
あの時、新一に投げつけた指輪……
お父さんに見つかるわけにいかなかったから、
拾って自分の部屋に持ってきていた。
箱が、僅かに歪んでしまっていて…
指輪が入らなくなってしまった。
あの時衝動的に捨ててしまおうとしたけれど、結局捨てられなくて…
指輪と箱と…並べて部屋の隅に置いておいた。

「本当に、凄い嬉しかったのに。」

新一にプロポーズされて……
嬉しくて嬉しくて…わかれたけど、あの後私…
新一に返そうと思ってたものがあったの思い出して…
明日渡してもよかったけど…
今日もう一度新一に会いたかったって言う気持ちもあって…
新一を追いかけて届けに行った。



新一の家の前まで来て、暗くてよく見えなかったけど…
新一の家に誰か入ってくのが見えた。
新一だと思って…声をかけようとして近寄って…
けれど、それは新一じゃなくて、女の人だった。

(え?誰……?)

まだその人は私に気付いていないようだったから、
じっとその人を観察してみた。
暗い中だったけど、もう目は慣れてたし…
目を凝らせば顔もよく見える。
綺麗な…女の人だった。

別に、その時私は疑ってたわけじゃなくて…
でも、何となく構わず入って行く事も出来なくて…
その人の用事が終わってから新一に話し掛けようと思ってた。
その人が新一の家に入ってから、かなりの時間がたった。
待っているのもいい加減に不安になってきて、
構わずチャイムを押そうとした時…
声が聞こえて来て、私は急いで隠れた。

「今日はありがとな…わざわざ。」

会話が聞こえてくる。
つい、何を話してるのか気になって、聞き耳を立ててしまった。
暗いから、二人の顔まではよく見えなかったけど…
何だかとても仲がよさそうな雰囲気だった。

(あの人…誰なの?私、会った事…ないよね?)

考えると、不安になってきた。
でも、新一にさっき告白されたばかりじゃない。
何不安になってるのよ?

そう考えて、新一の事を信じきれてない自分を叱った。
しかし……

「工藤君、私の手料理…どうだったかしら?」

え?手料理……?

「あぁ、すげー上手かったよ。あんなもんも作れるんだな。」

え?どういう事……?
さっきまで、彼女の作った料理を食べてたの?
彼女、わざわざ…新一の家まで料理しにきたの?

「体の調子、どうなの?」
「俺より、お前の方が詳しいんじゃねぇのか?」

お前の方が詳しいって……どういう事なの?

「まぁ、確かに。あなたの体は熟知してるつもりだけど。」

熟知してるって……どうして?

「何だよその顔。毎日来ててまだ不満だってのか?」

毎日……来てる??
どうして、そんな事。

「ええ、あなたの体調管理は、私の責任だしね。」

クールな声……
どうして?どういう事なのよ!?
新一、そう言えば最近夜は私を家に入れないようにしてたよね?
もしかして……あの人が来るから?
あの人が夕飯を作りに来るから、私が邪魔だったの?
酷いじゃない……だったらどうして、プロポーズなんか?
だったらどうして、指輪なんか……

一瞬、自分の嫌な考えに支配されて、目を離したけど…
再び二人を見たら……二人は抱き合ってて……
それ以外、何も見えなかった…何も聞こえなかった。
一瞬の映像だけが、私の感覚を支配していた。
二人がその後何か話していたけど、聞こえなかった。

新一は、彼女と別れて家に入って…
彼女も新一の家の門を開けた。

私は、呆然としながら……家に向って走って行った。

どうして?どうして!!?
家で、ずっと大泣きしていた。
何だか、天国から地獄に突き落とされた気分だった。
そんな彼女がいるなら…どうして好きだなんて言ったのよ?
どうして、あんな真剣な顔で「高校卒業したら結婚して欲しい」なんて言ったのよ?
全部、嘘だったの?
私の気持ちを知ってて……その上でついた嘘だったの?
酷いじゃない!!酷すぎるじゃない、新一!!!

さっきまで、舞い上がってた自分が馬鹿みたいになった。
酷すぎるわよ……新一!!


次の日、新一は本当に何事も無く尋ねてきて…
いつも通りの笑顔で話し掛けて来て……

「まだ用意してなかったのかよ?」

そんな呆れた声だして……
私は、とにかく今は新一の顔をまともに見れなかった。
新一の声を聞きたくなかった。
折角朝になって泣き止んだのに、また涙が溢れてきて…
新一に向って…冗談じゃなくて本気で空手技出したのは、初めてだった。
新一は驚いたような顔でわけを聞いてきて……
ふざけないで!!私を…馬鹿にしないで!!!!

とにかく、今は新一から離れたくて……
何も知らないような顔で…何で私が怒ってるのか分かってないような顔で……
新一の顔を見たり、声を聞くだけで、心がえぐられた。
それと同時に、しらを切りとおそうとする新一に段々苛立ちも頂点に達して…
声も、聞きたくない。
その時に、ちょうど昨日新一からもらった指輪のケースが目に入って……
それを見たら、余計許せなくなって……

「この指輪だって、嘘なんでしょ!!?」

気がついたらそう叫んで、それを新一に投げつけていた。
新一は、傷ついた顔をして、新一にそのまま当たって床に落ちた指輪を見つめていた。
何で、そんな顔するのよ!!?
どうして、そこまで私を騙そうとして……

「おい、蘭!話聞けよ!!」

聞きたくない……聞きたくない!!!
あなたのそのずる賢い頭で考えた言い訳なんて!!!

「言い訳なんか、聞きたくない!!」

そう言って、耳をふさいだのに…
新一はまだ何か言おうとしてきて……

「言い訳じゃねーよ。いいから、聞いてく………」

もう、騙されたくない!!!
そんな思いが頂点に来た時、自然に私の口から、その言葉が出ていた。

「お願いだから!もう私の事ほっといて!!話し掛けないで!!!」

弾みで、そんな事を言ってしまった。
もう、私…ぐちゃぐちゃだよ!!
すると、しばらく黙り込んだ新一が、ぽつりと小さくて低い声で言った。

「……分かった。蘭が答え出すまで、俺はもうお前には話し掛けないから。」

え?新……一?
その言葉に、愕然とした。
混乱してしまっていて……
そのまま方向転換して帰っていく新一の足音を、呆然と聞いていた。

「しん……っ」

顔を上げてそう呼びかけたけど、もうそこに新一の姿は無くて…
私の声はガチャリという戸の音にかき消された。
私は、ただ涙がずっと止まらなくて……
足の力を完全に無くして、その場にへたり込んで……
その体勢のまま、ずっと真っ白になってただ泣いていた。


土日の間……ずっと抜け殻だった。
頭の中は、もう新一の事しか考えられなくて……
ぐちゃぐちゃになってて…
でも土日の間に、少しずつ変な方向に冷静になってたのかも知れない。
月曜日は、普通どおりに新一を迎えに行った。
頭が空っぽだからこそ、習慣に従うしかなくて。
気がついたら、新一の家で、玄関のベルを押していた。
中から新一が出てきて、声をかけられて、
初めて新一の家に迎えに来てしまった事に気付いて…
でも、どうしても心の整理がつかなくて…
まだ話す気にはなれなくて……新一から顔を逸らした。
でも、それっきり。
新一はそれからずっと、私に何も話し掛けて来なかった。



栄養失調って、何やってるのよ?
彼女が、健康管理してくれてるんでしょ?
何で、そんな体調崩すほど生活が荒れるのよ?

私は、指輪をじっと眺めた。
かなり高く見えるそれ。
大きな宝石が、凄く綺麗だった。
どうして、新一は私にこんな物渡したの?
彼女が……いるのに。

そんな事を考えてるうちに、ふと思った。
もしかして、新一は私に気を使ってたんじゃないかって。
私の気持ち、知っちゃってたから……
ずっと私の事待たせてたから……
私、いつも心配させてたから。
その罪悪感で、好きな彼女の事も諦めて、
私と付き合ってくれようとしてたんじゃないかって…
だとしたら…私、何て酷い事しちゃったんだろう。
新一に、謝らなきゃ…
それから、新一にそんなの間違ってるって言ってあげなきゃ。

私は、指輪を返して、新一とちゃんと話し合う決意をした。






〜第5話へ続く〜










作者あとがき。
こんにちはっv朧月です!!
はいっ、第4話です。
ついに何があったのか明らかに!!
プロポーズされて結婚指輪までもらって、
その後こんなシーン見せ付けられたら、そりゃあ傷つきますよ。
ん〜…やっぱりシリアス。
いや、恋は障害があった方がより燃え上がるのではないかと(苦笑)
うん…第4話は最初回想に入る前の蘭にするつもりでしたが…
回想編でよかった〜…あやうく最短小説作る所でした(笑)
ではでは、今回も見てくれてありがとうございました。
次回も是非見てやって下さいね!!
感想などなど、お待ちしてます!!
ではでは〜vvv