わしが家に帰ったとき、新一君の家の前の異変に気付いた。


不思議な少女との
出会い…
  
そこに居たのは、ウェーブのかかった茶髪の少女だった。
その身体にはあまりにも不釣合いなだぼだぼの白衣を着て、そこに倒れていた。
身体には、激しく雨が打ち付けている。いかん、このままでは風邪を引いてしまう。
そう思ったわしは、少女をわしの家へ運んだ。
少女が新一君への客人ならわしから新一君に伝えればいいのだし、
とにかくわしは彼女が気付くのを待つことにした。
しかし、それにしても気になる事がある。
彼女の格好………新一君の時によく似ているような…………
何となく予想は出来た。彼女も新一君と同じで、薬を飲んだのではないかと……。
しかし、出来れば外れて欲しいと思った。
これ以上、犠牲者が出るのは辛い事である。
わしはとりあえず、変なところを見ないように気をつけて着替えさせた。

彼女が起きたら何を聞こうか……
どうしてあそこに居たか?どうしてこんな白衣を着てたか?一体何があったのか?
どれもしっくり来なかった。
彼女がもしあの薬で身体を縮めたのだとしたら、きっととても恐ろしい目に会ったのだろう。
それなのに、起きた途端に根掘り葉掘り聞く事は、彼女を傷つけてしまうかも知れない。
起きて、自分から話してくるまで、
そっとしておいてやった方がいいのではないだろうか………
そう思った。

彼女は時折、悲しそうな顔でうめき声をあげていた。
わずかに言葉になっているように思い、彼女の口元に、顔を近づけた。
彼女の唇が動く。そして、震えた小さな声を出した。

「………え………ちゃ…ん…………」

え?何か言っているのだが、何と言っているか上手く聞き取れない。

「お…ね……え…ちゃ…………ん…………」

……『お姉ちゃん』?……お姉ちゃんがどうかしたのか?
彼女を拾った時、お姉ちゃんらしき人は何処にもいなかった。
どっかでお姉ちゃんとはぐれてしまったのだろうか?
それとも、もしかして組織に関わってるのだとしたら
その『お姉ちゃん』はもう殺されてしまっているのかもしれない。
彼女が起きた時は、とりあえず無難に住所や電話などを聞こうか……と思った。

彼女の身体は雨に打たれてとても冷えているだろう。
彼女が起きた時、温かいものが飲みたいかもしれない。
おなかをすかせているかもしれない。
わしは、いつ彼女が起きてもいい様に、その準備をしておこうと思った。
家に何があるかを調べて、そして何か作れそうなものを目の前に並べた。
ココアパウダー、ミルク、そしてお粥も作れそうだった。
ご飯はあるし、具になるような野菜などもちゃんと揃っていた。
一人暮らしのはずの自分に感心して得意げになりながら、お粥を作り出した。
苦労して何とかお粥を作り終え、次はココアがすぐ作れるように、湯を沸かしておこう。
湯が沸き終わって、改めて少女の様子を見に行くことにした。
もしかしたらもう起きているかもしれない。
まだ寝ているということもある。
とにかく、起きたらいきなり見知らぬ家で、見知らぬ老人が側にいて、
怖がらせたりしないかが心配だった。
そっと階段を下りて、もしかしたら起きているかもしれない彼女を驚かせないように、
軽くノックをした。

「もう気がついたかい?開けるぞー。」

ドアを開けたとき、少女は静かな顔で、窓から外を見ていた。
その纏っている雰囲気は、やはり到底子供には見えなかった。
そして、彼女はゆっくりとわしの方を振り向いた。
少女は警戒したような、射抜くような目で、わしを見た。
「……あなた、誰?」

  
                                      〜Fin〜










・・作者あとがき・・
とうとうここまで来てしまいました。
この話は、哀ちゃんを初めて見つけたときの、博士の心の動きというか、変化というか
……先ずは戸惑ったと思うんです。
それからコナン(新一)の事も思い出して、何となく事情を理解できたのではないでしょうか。
博士はとても優しい人ですから、質問攻めにするような真似は出来ないんじゃないかなと。
はい、ということで次は哀ちゃんが目覚めて、博士と初めてのご対面ですね。
哀ちゃんは博士に何を言うのでしょうか……そして博士は?
哀ちゃんの運命が少しずつ少しずついい方へ向かっていくといいですよね。
博士と哀ちゃんが二人っきりで、どんなことを話したのでしょうか……?
今回はこの辺で。
有難う御座いました。次の話も読んで下さると光栄です。では、また!!