譲れぬモノ
〜He is mine〜





☆☆☆5、昼休み? 一触即発!?☆☆☆



 突然会話の途中でどこかに走って行った親友を、蘭は必死で探していた。
ただ、その探されている園子の方はそんな事など知る由も無い。希美の腕を引きながら、無駄に力強い歩調で、人気のない場所へと連れ込んでいた。

「ちょっと、鈴木さん? どこまで行くつもりなのよ!」

 階段を上りきり、四階まで着いたところで、ついに耐え切れなくなった希美は不機嫌な声をあげた。
強引に手を引っ張られている事にもいい気がせず、彼女の顔にもまた怒りの色が映る。
そんな彼女に、園子は振り向きもせず答えた。

「人が居たら話しづらいから、あんまり人の来ない場所に行くの。心配しなくても、暴力ふるったり、野蛮な事はしないわよ!」
「だったら離してよ! この腕! そんなにきつく握ったら痛いじゃない!! 心配しなくても、逃げたりしないわよ!!」

 抵抗しながら付いていく希美を、掴む手一本で制しながら、園子は歩いた。心なしか、二人の口調は普段よりも荒くなっている。
そのまま、渡り廊下を通り過ぎた所で、すぐ右にある階段に入った園子は、突然希美を壁に押し付けた。

「いたっ! ちょっと、暴力ふるったりしないんじゃなかったの!?」

 乱暴に扱われた希美は、更に憤慨し、キンキン声をあげた。しかし園子は、馬鹿馬鹿しい、といいたげに小さく笑う。

「こんなの、暴力のうちに入らないでしょ? 蘭の心はもっと痛んでるのよ。あんたが新一君に色目使ってるせいでね!」

 息巻く園子に、対峙していた希美は途端に冷静な表情を浮かべた。
離された手を数度さすった後、腕組みで向かい合う姿勢をとった。

「……ふんっ。誰を好きになろうと私の自由じゃない。男の子と親しくなりたいって思う事が罪なのかしら?」

 返って来たクールな口調に、園子はむっと眉をしかめた。

「勿論それだけだったら何も言わないわよ! 私だって……人を好きになるのなんて、自由だと思ってるしね。でもね、新一君には蘭っていう恋人同然の女がいるの! あんたが新一君と会うより、もっとず〜っと子供の時から、あの二人はお互いに意識しあってたのよ!? それを、突然出てきて横取りしようとしないで!」

 いつもよりずっと棘のある口調が、自然と口から飛び出す。
 誰であろうと、蘭を傷つける人は許せないと園子が決めたのは、もうずっと昔だったのだから。

 しかし、そう言われて素直に、わかりましたと従う希美ではない。
ふっと軽く笑み、彼女は再びクールに言った。

「……横取りなんて、人聞き悪いわね。その二人、まだ恋人じゃないんでしょ? ……私は自分の気持ちに正直なだけよ」
「恋人同然だって言ってるでしょ!? 両思いなのは間違いないんだから!」

誰よりも、二人の事は知っている園子。
二人が苦しんでる時も、二人がまだ自分達の気持ちに素直になれなかった時も……
ずっとずっと知っている。
最近、長い間元気が無かった蘭はようやく幸せそうな顔を見せるようになって。
二人がようやく一つになれる時が近づいてきたと思っていたのに。
折角掴みかけた二人の幸せを引っ掻き回して壊そうとするのは、
誰よりも二人と近い場所にいる園子には絶対に許せる事ではなかった。

けれど、それで諦めるなら、希美とて最初から奪い取ろうとはしない。

 両思いだからって……何?
 そんな事、とうの昔に分かってるわよ。
 でもね、そんな事で諦めてたまるかって言うのよ。

希美は目を細め、その口元に薄っすらと笑みを浮かべつつ低い声で言った。

「彼女と私の、何が違うって言うの?」
「……え?」

一瞬だけ横に視線をずらし、再び園子に視線を戻す。

「彼女は、新一と幼馴染みだって言った。
いつからなんて覚えてない……物心ついた頃には一緒だったって。
二人の絆は、その時間の長さでしょ。そう、私と彼女の違いは、一緒にいた時間だけ。
でも、恋に必要なのは……時間より、より強く求める心だと思わない?」

 時間なんか、くそ位よ。
 一緒に過ごしていた時間が長いからって、
 それがイコール運命だと思うほうがどうかしてるわ。

彼女の言葉に、園子は間髪いれずに言い返す。

「新一君は、蘭といつ出会おうと蘭に惚れてたわよ!!」
「どうかしら?そんな事、断定出来るわけないわ。
過去に戻ってもう一度彼女が居なかった人生に変えてみるなんてできっこない…
確かめようの無いものなんだから。
……あなたに教えておいてあげるわ。
人の気持ちなんてね、今が全てなのよ。未来の事なんて、自分にすらわからないわ。
私はこの間初めて新一と会ったばかりだもの。彼が振り向くのもこれからよ。」

希美は、園子にあくまでも強い口調で言った。
それは、『新一と蘭』という二人を、
ただ両思いだけど素直になれない幼馴染みとぐらいしか知らない人が聞けば……
二人の絆をあまり見たことがない人が聞けば……
贔屓目が一切存在しなければ……
それはある意味、正論であった。

初恋の人が運命の人である確率なんて……そうあるものではない。
初恋の人と結ばれた人なんて、今まで何人いたろうか。
長い時間一緒にいたからと言って、
仲がいいのと恋を履き違えている人すら、この世にはたくさんいるだろう。
恋なんて不確かなものを、しかも他人同士で築かれるそれを。
いかにも永遠のもののように言うのは、その方が不自然な事ではないだろうか。
人間なんていうものは、大抵いくつもの恋を経験して、
その上で本当に自分にあった人を一人決めるものなのだから。

けれど、園子は誰よりも二人を知っているから。
幼い頃から、誰よりも二人を見てきたから。
誰よりも近い場所で見てきた、
じれったいほどに素直になれない奥手な二人を……
お互いがお互いを、最も必要としている……
まるで片方が欠けたら、片方がこの世から消えてしまったら……
もう一人も駄目になってしまうように。
そんな二人を、ずっと昔から知っているから。

だから、彼女も希美に強く言った。
彼女の言った言葉の、ある意味での正論性も認めた上で、
彼女のきつい瞳を強く見返しながら。

「新一君は、蘭以外の人に惚れるわけないわよ。今でも、未来でも……
どんなにいい女でも……あやつの中の蘭に勝てるわけない。
ずっと側で二人見てきた私が言ってるの。これだけは、絶対よ!」

言い切った園子に、希美も反論した。
そんな言い合いはその限られた時間ではあったが、やまずにずっと続いた。
チャイムの音がその闘いを止めるまでずっと、
二人はその場所で口論を続けていた。






〜第六話に続く〜










作者あとがきっ!!!

4869番、倖希様のリクで…
「新一と蘭ちゃんの間に割って入ろうとした女の子の話」

第5話ですっ!
四話からちょっと時間が空いてしまった更新ですが……(><)
色々と別の方で忙しくて、待ってていただいたかたすみませんでした(><)
今回の話は、園子VS希美。
そして次回は……残った二人のお話。(誰だか、はわかりますよねぇ?)

次の話も実は出来てるけど、こちらも加筆修正の関係で遅くなりそうです。
所々修正の域を超えて書き換えたい気持ちもありますし……^^
今回もありがとうございました!
次回もよろしくですv
感想、いつでもお待ちしてますよ^^v