道しるべ…





夢を見た。

とても暖かくて優しい夢。

そこには、服部が居て、灰原さんが居て……

そして、胡蝶さんが…………

違う。これは?

この夢は……違う。




第八話⇒動き出す時



すっと、瞳を開く。
見えたものは、昨日と同じ、天井。
意識は覚醒したものの、まだどこかぼんやりとする。
ぼーっと天井を見ていた彼に、隣でそれを見ていた平次は首をかしげた。

「どないしたん。」
「……夢を、見たんだ。」

答えた彼に、更に怪訝な顔をした。

「夢?」
「……ああ。」

むくり、とだるそうに起き上がったホームズは、言葉を続けた。

「楽しい夢。皆で丘の上で楽しく花見している夢。けれど、あの夢は……」
「あの、夢は?」

平次の顔が、いささか真剣なものに代わる。
ホームズは、しばらく考え込んで、「いや。」と返す。

「何でもない。俺の勘違いだ。」

ふっと笑って、彼は答えた。
その後、俯きがちに再び何かを考え込む。
平次は無言で、それを見つめていた。



「おはよ〜。」

部屋から出て、食事をする部屋へと行くと、
既に起きていた胡蝶はにこやかに二人に朝の挨拶をし、
クールな顔でそこに腰掛けている哀は、挨拶代わりか、小さく微笑んだ。

「おはよう……ございます、二人とも。」

そんな二人に挨拶をしたホームズは、その場に座った。
そこに、平蔵と静華も加わった六人は、賑やかな朝食を楽しんだ。
つかの間の、楽しさ。





「それにしても、やはり逃げたか……」

黒服に、長い髪。
ジンはタバコを片手に、呟いた。

「……アニキ、どうしますか?」
「殺せ。……昔のように、追い詰めてな。
居場所の検討位は俺が教えなくともつくだろう。
頼れる者など、そう多くはいないはずだからな。」
「けど……その一つは……。」
「我々組織が、恐れるものなど無い。奴らさえ消せば全てが終わるだろう。」

不適に笑うその口もとからは、白濁した煙が、もれ出ていた。
ウォッカは、「分かりやした。」と呟き、小さく笑った。





「ホームズ君、ちょっとええですか?」
「……はい。」

朝食を終えた後、静華がホームズに声をかけた。
胡蝶と、平次と哀がぴくり、と反応する。

「うちの人がホームズ君と話したい、て言うててな。……付き合うてくれます?」
「ちょっ……おば様!?」

胡蝶が慌てて声を上げると、静華は悲しげに微笑んだ。

「余計な事は話したりせんから、安心しぃ。……ええです?ホームズ君。」
「はい、もちろん……。」

答えた彼に、何も言えなくなった胡蝶は、不安げに静華と彼を見つめた。
平次は苦笑を浮かべ、「大丈夫や。」と胡蝶の耳元で呟いた。
とりあえず部屋に帰る一同の中で、一人胡蝶は悲しげな瞳で、残ったホームズを見つめていた。




「それで……話って言うのは?」

ぴしっと姿勢を正し、真面目な顔で切り出したホームズ。

「そうやな……君が居った組織の事で、話があるんや。」
「……なっ!」

組織の話……そう聞いて、ホームズの表情が変わった。
知らないと思っていた筈の平蔵の口から、組織の名前を出されたのだ。
まぁ当然であろう。
けれど、平蔵は穏やかな顔で笑いながら、彼に言った。

「そない固くならんでええ。
君が組織に居ったからゆーても、逮捕しようて思ったわけやないんやから。」
「じゃあ……一体何の話を?」

眉を顰めながら、彼は平蔵の次の言葉を待った。
平蔵はゆっくりと、口を開く。

「あの組織にまつわる、昔話や。」

続く言葉に、彼は大きく目を見開いた。



およそその話がし終わるまで、二〜三十分ほどかかったろうか。
話を終えて、平次の部屋に戻ったホームズは、呆然とその場に座り込んだ。
心配そうな顔でその帰りを待っていた胡蝶が、話しかける。

「何の、話をしていたの?」
「……組織の、事。」

呟いたホームズの言葉に、胡蝶は顔色を変えた。

「俺は……大切なものを……」

呟いて、悲しげに俯いた彼を、平次と哀……そして胡蝶は驚いた顔で見つめていた。
かみ締めた唇から、血がにじむ。

「ホームズ……君。」

彼は呟いた彼女の両肩を掴む。
驚いた胡蝶が戸惑いながら目の前の彼の顔を見つめると、
彼は真剣な顔で言った。

「君を……助けたいんだ。
奴らと闘って勝たなければ……逃げているだけじゃ……
俺達は、自由になれない!!!」
「……ホームズ君?」

彼の言葉に、彼女の瞳が大きく見開く。
そんな二人を見ていた平次と哀も、驚いた。
彼は今度はそんな二人を見て言った。

「ここを、もうじき出ようと思うんだ。奴らと闘って、倒すために。」
「けど、あなた……っ」

言いかけた哀に、微笑む。

「心配してくれて、ありがとう。薬、きっと完成させて。」

彼が優しく笑ったのを見て、胸が締め付けられた。

「大丈夫……二度と起こしはしない。
昔起きてしまったような、悲しいことは……」

決意した強い瞳。
その言葉に、三人は驚きを隠せずに居た。













 ”組織は彼女を人質にとって、おびきよせよってな。
二人は、それからずっと帰って来おへんかったんや。”










〜第9話へ続く〜













作者あとがきv

さてさて、こんにちは!朧月です。
大分間が空いたなぁ、この話。
ずっと待っててくださった方、申し訳ないです><
平ちゃん達の家を出るっていう部分はね、決まっていたんだけど。
でも、どうやってそこに持っていこうかっていうのに凄く悩んでたの。
でも、結局こうなりました^^

さて、平蔵さんがした話によって、ようやく闘おう、と誓ったホームズ。
これ、胡蝶さんの真意じゃないんだけどね^^;

まぁ、これから更に話が動き出していく中で、
多分もう分かってる人は全て見抜いてると思います^^;
ホームズの事はもちろん、胡蝶さんの事、一年前の事。
少しずつ少しずつ、繋がってきているんじゃないかと。
ていうかこれ、当初10話で終わらせるつもりだったような気がする。
エピローグは含まず……だけど。

でも、無理だわ。絶対^^;
もしかしたら15話くらい行くかもしれないです^^;
これからもどうぞお付き合いをば^^;
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました!!
次回もどうぞよろしくお願いいたします!!
H18.4.6.管理人@朧月。