道しるべ…





たまにダブる昔の彼。

彼を見つめる悲しい瞳……

お願いだから、思い出して。

お願いだから……また昔みたいに……

お願いだから、もう一度みんなの事を、思い出して。


第六話⇒真実へと繋がる鍵を握った少女


―灰原、ごめんな。……蘭の事、よろしく頼むぞ。

悲しげに微笑みながら、自分にそう告げた彼の顔が、頭に浮かぶ。
彼女は、今大阪へ向かう新幹線の中。
博士が、車で送ってやると言っていたけれど、彼女はそれを断わった。

―今は大阪のオレの家におる。

今朝方電話で自分にそう告げた大阪の彼。
彼と親しくなったのは、一年前のことだった。
一年前の………あの日のことだった。

―服部君……工藤君は、結局………

工藤君に最後に指示された通りに、
彼の部屋で手錠と縄で縛られていた服部君の縄と手錠を解いて……
その後、彼にそれを告げた。
彼は、それを聞いた時、本当に悔しそうな顔をしていた。
けれども、自分を必死で宥めてくれた。

彼と自分は、相性的にはあまり合わなかったと思う。
けれどもその時から、彼と交流するようになったのである。


大阪まで、あと少し。



「なぁ、ホームズ!ちょお来てみ!!」
「あ、はい……」

慌てて、呼ばれた場所に向かうホームズ。

「……何ですか?」

不思議そうに首を傾けた彼に、平次は苦笑した。

「敬語やのーてええよ。俺ら友達…なんやろ?」
「あ……でも………」

戸惑っているホームズに、平次は再び言った。

「何や、お前友達相手に敬語使うんかいな。別にどっちでも構へんのけどな……
呼び方は『服部』で、使う言葉は敬語や言うんはけったいやろ。」

先程呼び方を改めてからも、ホームズはずっと敬語で話していた。
それはやはりとても不自然だ。

「………そうだな。」

俯いて戸惑っていたホームズが、ふいに低めの声を出した。
いつもと違った……けれどとても懐かしいその声に、平次は驚いて彼を見た。
ホームズはその反応に再び戸惑いながらも、彼に言った。

「友達同士だったら、敬語なんか普通使わない……か。」
「……お前、急に口調変わるんやな。」
「……変えてくれって言ったの、服部だろ?」

何でも無い事のようにそう言ったホームズ。
敬語じゃない言葉を話すのは、最初何処かに抵抗があったのだけれど。
その言葉が、自分がずっと使ってきたもののようで、すらすらと話す事が出来た。

「それで、用は?」

自分を呼んだ理由が、まさか口調の事ではないだろう。
そう尋ねると、平次は「あぁ。」と思い出したかのように頷き、ホームズに一冊の本を渡した。

「それ、読んでみ。」
「………これ、推理小説?」

『工藤優作』という作家が書いた、闇の男爵シリーズ。
工藤優作と言う名前に、どこか懐かしさを感じながらも、それをめくる。
数分後には、完全に夢中になっていた彼に、平次はふっと微笑んだ。

「どや?」

途中まで読んで犯人を考えている彼に、平次は尋ねた。
ホームズは推理する時の顔のまま、平次に答える。

「この本……記憶を失う前に何度か見た事がある気もするけど………
トリックが中々読めなくて、面白いな。」
「……そら、よかったわ。」

やはり、彼は何も変わっていない。
記憶がないだけで、あとのところは何も……

「犯人、誰やと思う?」
「……この人なんか怪しいんじゃないか?」

そんな会話を二人で延々続けた。
久しぶりに交わした会話は、その場にとても温かい雰囲気をかもし出した。

「そうや、ホームズ……」

話を終えて、平次が思い出したかのようにホームズに言った。
首を傾げる彼に、にっと笑顔を見せる。

「これからな、ちょお人が尋ねてくるんやけど、怪しい人やないから安心せえや。」
「………どんな人が?」
「女の子や。ちょおクールやけどな、ええ子やで。」

もうすぐ来る頃なんやけどな〜…と時計を見た平次。
それとほぼ同時に、玄関から来客を告げる音が鳴った。

「あ、来よったみたいやわ。」

立ち上がった平次の後を、不思議そうにつけていくホームズ。
何も知らされていない胡蝶は、どこか緊張した面持ちで平次に尋ねた。

「誰か来る約束あったの?」
「ああ。まだちっさい姉ちゃんがな。」
「…………それって…………」

平次の言葉に、胡蝶が複雑な顔で反応した。
平次はその表情の意味が分かってしまったため、苦笑して小さく「安心しぃ。」と呟いた。
ホームズはどこかこそこそと話をしている二人を不審に感じながらも、平次の後に付いて行く。
玄関の戸を開けて、そこに彼女が立っていた。

「服部君、来たわよ。それで………」

顔を上げ、家の中を見た彼女は、平次の後ろから現れたホームズを見てぴたりと止まった。

「く………」

今にも泣き出しそうな震えた声で、彼女は何か言いたそうに口を何度か開け閉めした。

「……女の子って、この子か?」

ホームズが平次に尋ねると、平次は「そうや。」と言って頷いた。
ホームズはしばし考えこんで、優しく笑みを浮かべて彼女の頭に手を乗せた。

「初めまして。僕、ホームズっていいます。キミは?」

その言葉に、一瞬悲しげに目を伏せた彼女だったが、
すぐに顔を上げて口元に笑みをつくり、彼に言った。

「私、灰原哀。初めまして……ホームズ、君?」

自分より見た目はるかに年下にしか見えない彼女に『君』付けて呼ばれて一瞬むっとしたが、
どこか悲しい彼女の瞳に、首を傾げた。

その場で二人が固まっていると、平次は「ええから入れや。」と中に招き入れる。
中に入った哀は、そこに複雑そうな顔で座っていた彼女を見てぐっと苦しそうに顔を歪めた。

「………あなた、は?」

俯きながら彼女に言った哀に、胡蝶もどこか戸惑いがちに……しかし微笑んで答えた。

「鈴木、胡蝶です。よろしくね?哀ちゃん。」
「………よろしく。」

ホームズが二人の会話を聞いて、不思議そうに胡蝶に尋ねた。

「どうして、あの子の名前知ってたんですか?」

しかし、胡蝶は何でも無かったかのように笑って答える。

「あなたと哀ちゃんが話してるの、ここまで聞こえて来たから。」

小声で話す二人を、哀は切ない瞳で見つめていた。



あれから、一年。
彼は、今自分の目の前にいる。
死んだかも知れないと思っていた彼が……
あの日自分一人犠牲になる事を選んだ彼が……
全てを、教えたい。……私が、本当の小学一年生じゃないって事も……
けれど、それは不可能よね……………
そんな資格は、私にはないわ。



だって……………



だって、彼をそんな目に合わせたのは……………




他の誰でもない、私なのだから。






〜第7話へ続く〜














作者あとがきv
こんにちは〜vvv朧です!!!
道しるべ…第6話、いかがでしたでしょう?
さてさて、哀ちゃんがついにやって来た!!
胡蝶さんと哀ちゃん、対面と言う事で……
ホームズと哀ちゃんもご対面と言う事で……
段々と、段々と……謎が明るみになってきますよ〜vv
一年前、何があったのか……
どうして、ホームズは記憶をなくしていたのか……
胡蝶は一体何者なのか……
それから、一体新一と蘭はどうなってしまっているのか……
少しずつ、明かしていきましょう!
では、今回も読んでいただいて嬉しいです!ありがとうございますvv
次回も是非見て下さいね〜!!
ではではっvvv

H16.08.24.管理人@朧月。