あの日からずっと……



第8話、刀を下げた救世主。




彼女の引き金にかかった指に、力が入る。
もう、駄目だと思った。


殺られる……………!!!


そう思い、目を瞑った瞬間に、銃声が響いた。
しかし、数秒たっても、俺はまだそこに意識があった。
とはいっても、消えかけている意識という事に変わりは無いのだが……

どうしたんだ……?
そう思って、ゆっくり目を開けた時だった。

「工藤!!!」

やたらでかい声がその場にこだました。
マティーニは足元にある自分の手元を狂わせた石と、声の主とを見比べた。

そしてその声は、俺のもう消えかけていた意識を僅かに回復させた。
俺も驚いてその方向を見つめた。

血だらけの身体を…無理矢理動かしながら……

「………は………は…っとり………?」

その気つけには充分なよく通った大声を出したのは、
やはりというか何というか…
一瞬幻かとも思ったけれど、それは服部だった。
灰原も驚いた顔で服部をじっと見つめていた。
今まで黙って見ていたジンがピクリと動き、懐から拳銃を取り出したが
何故か何かに気付いたように一瞬目線を後ろに向け、
その取り出した拳銃をどこに向ける事も無くそれを持つ手を下ろした。

服部は走ってきたのか息を切らしながら、
血みどろの俺を見て驚いた顔で駆けつけてきた。

「工藤!!大丈夫か!?しっかりせえ!!お前すごい血ぃ出てんぞ!!!」
「………ど、………ど…う……して……ここ……に………?」

途切れ途切れになりながら、俺がかすれ声を上げると、
そんな俺をどこか心配そうに見ながら服部は事情を話し始めた。

「偶然お前に用があって東京まで来たんや。
そしたらあの姉ちゃんがお前が攫われたーて言うてな…
ほんで、何とか居場所突き止めてここに来たっちゅう訳や。」

どうやって居場所を突き止めたんだ?
不思議に思ったけれど、こいつに常識を当てはめるのは無駄な話で…

「でも…見張りがいたでしょ!?どうしてここまで来れたの?」

灰原が不思議そうに叫んだ。
服部はにぃっと笑い、灰原に言った。

「あほ!俺を誰やと思っとるんや?そんなもん、倒してしもたわ……!!」
「倒してしもた…って拳銃持ってるのよ!?あなた一体どうやって…!?」

今度はマティーニが声を上げた。
服部は彼女を一瞥して、俺に尋ねた。

「工藤?なんやあのガキ……」
「…マ…、…マ…ティー……ニ……組…織の……仲間………だ……」

必死で、声を絞り出した。
服部が再び…今度は先程よりも敵意の篭った目でマティーニを睨んだ。

「ほぉ…?マティーニなぁ…。
ちゅうことは工藤をこないな目ェにあわしたんもあんたやな?」
「そ、そうよ!!それがどうしたの!!?質問してるのはこっちなのよ??」

マティーニが顔色を変えて服部に言った。
初めて彼女が慌てた所を見た。
ジンが冷たい瞳で彼女を見つめている。
何故……ジンが動かないんだ?
俺がそんな疑問を浮かべていると、服部は自信の有り余った顔でマティーニに言った。

「……あほやな…俺の腰のもん…見えんのか!?」


一同は服部の腰に注目した。
確かに腰には一本の……日本刀!!?

「俺は獲物持たしたら無敵やで!!?」

俺や灰原…そしてマティーニが驚いた顔でそれを見つめた。

「……そ…、…そん……な…もの………ど…こで……っ」

言った瞬間、腹部の傷がズキリと痛み、血が流れた。
服部は俺の方に再び視線を向ける。
そして、悪戯っぽく笑った。

「ん?家から黙って持ってきたんや。」

安心させる為だと分かっていても、
こんな状況で能天気な笑顔を浮かべる服部に俺は苦笑した。
しかし、服部は今度は真剣な顔で俺に言った。

「それより工藤、もうお前は黙っとき!!傷がひどくなんぞ!!」

「あ、あぁ………」
未だに驚きながらも返事をすると、今度は灰原が必死な顔で服部に言った。

「服部君!?油断しないで!!マティーニはすごく強いわ!!」

しかし、ヤツは何故かその顔に笑みを浮かべた。

「……上等やんけ……」

服部はそう言うと腰のものを抜いた。
そしてそのままそれを中段に構えた。
やっぱり、本物の刀だ…………

「……ほな、いくでーー!!」

勢いよく斬りかかって行く服部。
マティーニは銃を一発、二発、三発、四発と撃つが服部には当たらなかった。
何で避けられるんだ?と思いながら、俺はその様を見つめていた。 そしてついに……マティーニが引き金を引くと、かちりと空しい音が響いた。
弾切れだ。

「………くっ………」

マティーニが顔を歪めた。
行けー!!服部!!!
俺は心の中でそう叫んだ。
マティーニは弾をこめ直そうと手を伸ばすが、
その前に服部の峰打ちがマティーニの肩とみぞおちに入った。
マティーニは崩れ落ちた。

「…く…ジ…ジン……何故…助けてくれないの……?」

マティーニは、壁に寄りかかりその様子をじっと見ていたジンに言った。
みぞおちの一発がよっぽどきいたのか声が掠れ、息を切らせている。
するとジンは笑って言う。

「ふっ…馬鹿な女だ……この一件はお前の任務だ…。
拳銃の弾切れに気付かない奴など我々組織には必要ない
…それに聞こえないか?パトカーのサイレンの音が…
ここにいた奴らは使い物にならないんだ。一刻も早く逃げさせてもらう。
ボスにもこの一件の事を報告しなければならないんでな……」

パトカーの…サイレン?
まさか、それでジンはさっきあんな妙な行動をとったのか?
パトカーが来ていることに気付いて………

「………私はどうなる………?」

マティーニが苦しげな顔でジンを見上げた。
ジンは、冷たく彼女を見下ろした。

「役立たずは…いらない。」

そう言うとジンはマティーニの心臓付近に弾を撃ちこんだ。
マティーニの周りが緋色に染まっていく……。
服部はそれを痛ましい目で見ながらもこっちに走り寄ってきた。

「工藤…大丈夫か?」
「…ん?ああ。………お…前……すげー……な………」

すると、服部は嬉しそうに笑った。

「せやろ?姉ちゃんは大丈夫そうやな。」
「ええ。私は工藤君にずっと庇ってもらってたから……歩けそうには無いけどね…」

そう言って灰原は苦笑いした。
このまま終われば…服部があんな目に会う事はなかったというのに……


「……う…。……く…そ……………」

マティーニのうめき声が、僅かだが聞こえてくる。
生きているのか…そう思った。
ジンはそんな彼女に言った。

「パトカーが来る頃にはお前は死に至っているだろう。
だが、最後に時間をやった。死ぬまでのわずかな時間に、
せめて自分の最後の任務ぐらい完遂させろ。」

そう言ってジンは出口のドアから逃げて行った。
マティーニは必死でなにやらごそごそと動いている。
悔しそうに…くそ…くそ…と、うめきながら…
この時気付くべきだったんだ……次に起こるであろう事態に……

予想すればいくらでも避けられた事態に……


ジンが俺たちを殺さずに出て行ったのは…
自分の娘に最後の手柄を与える為だったのだということに……


一瞬のことだった。

服部がすっと立ち上がりわずかに俺から離れた瞬間、
ジャキッという不吉な音が聞こえた。
そして服部は真っ先にそれに気付いた。
そう、狙われているのが仰向けになったまま動けない俺だという事にも……

「工藤!!?」

服部が向き直り、俺の方へと向ってきた。

パーーーーーーーーン!!!!!!!!


その場に渇いた銃声が響いた。


その銃声は、服部の声とともに……その建物内で空しく響いていた。


辺り一面に、大量の血が舞った…………




〜第9話へ続く〜













作者あとがき〜〜♪♪


どもっ、こんにちはっvv朧月です。
ついに、この話でかなり重要な所を締める人物登場……
しかも日本刀を持って!!(笑)
さてさて…舞った血が誰の血かという事は、まぁ伏せましたが…
分かりますよねぇ?

……というか何と言うか、やっぱり今回もシリアスかいなっ!!
まぁ、この話の性質上シリアスなのは当たり前なんだけど……
前の話よりシリアス度が強くなってる気がするのは私だけ?(汗っ)
それにしても、自分の娘を躊躇なく撃つとは……
朧のジンはどうにも……(苦笑)
まぁ、許して下さいな(^_^;;;

そしてやっぱり感想もらえちゃうと喜びますvv
ではでは、次回も是非見てくださいねっ!!