あの日からずっと……



第7話、守りたい




鳴り響いた銃声とともに、俺の足に激痛が走った。

「…っく……」
「…工藤君!!?工藤君!!」

思わず痛みで顔が歪む。
灰原が必死で叫んでいた。
その様子をマティーニは楽しそうに見つめていた。

「いい様ね。工藤新一……馬鹿な人
…あなたが小さくなった時点で我々のことから手を引き、
ただの小学生として過ごせば、こんな痛い目にあわなくてすんだのに…」
「…くそ…っ……」

弾をくらった足が熱く、痛む。

「工藤君、大丈夫!?」

灰原が心配そうに傷口を見つめていた。
大丈夫とも言い難い…かなり痛いし、これでは何かを蹴る事もできない。
しかし俺は灰原を安心させる為に、笑顔を作った。

「…し…心配すんな。かすっただけだ、大丈夫だよ…こんぐらい…」
「でも、すごい血が……」

撃たれた足からは、どろどろと血が流れていた。

「あ?ああ…血管やっちまったかもな……」

俺がそう言うと、灰原が自分が着ていた服をびりりと破き、
俺の足にきつく巻いた。
マティーニはただその様子を感情の無い眼で凝視していた。
そして、その後ろでジンも呆れた顔で眺めている。
ジンとしては、さっさと殺ってしまいたかったのだが…
コナンと哀を見つけるという手柄を成し遂げたのは他でもなくマティーニであり…
彼女の思うようにやらせてやろうというのは上が決定した事でもあった。
灰原はじっとその布を巻いた足を見つめていた。
止血する為に強く巻いた布も、少しずつ赤く染まっていく。

「ごめんね工藤君…私のせいで……」

灰原の言葉に、俺は苦笑した。

「…ばーろ、お前のせいなんかじゃねえよ。
どっちかっつーと俺のせいだ…ばれたのは…」

俺が小さくなったって前例がなければ、ばれる事はなかっただろ?
安心させる為に笑いながらそう言うと、灰原は俯いた。

「……ばか……」
顔は見えないが、そこから雫が俺の足に零れ落ちた。

…涙?泣いてんのか…??
俺は灰原の頭に手を乗せた。

「ばーろ…泣いてんじゃねえよ。大丈夫だ…。
こんな怪我くらい…慣れてるよ。…それに、お前だけでも助けてやるから…絶対に……」
「工藤君…」

絶対に、灰原だけでも助けてやる。
こいつは、幸せになる権利があるんだ。
明美さんの分も、幸せにならなきゃいけねえんだ。

「ふふふ…あはははは……素晴らしい友情ごっこね。泣かせてくれるじゃない。
シェリー?人の事心配している場合?次はあなたの番なのよ。」

「……マティーニ……」

そして、十五分が経ち、灰原の番がやってきた。
マティーニはすっと灰原に照準を合わせる。
灰原は、覚悟したような顔で、すっと目を閉じた。
マティーニの持つ銃に力がこめられる。
絶対に灰原を撃たせない……そう思った。

そして、銃声がした時、その場に倒れこんだのは俺だった。
とっさに、身体が動いて飛び出していた。
灰原が俺を呼ぶ…その驚いた声が、やけに大きく響く。

「工藤君!!?工藤君??どうして……!?」

俺はぐっと顔を顰め、肩をきつく掴んだ。
そこから、少しずつ血がにじみ出る。
さっきの足の傷と肩の傷の痛みに、少しの間声が出せなかった。
数秒置いて、一度だけ深呼吸をして顔を上げた。

「……お、お前だけでも…助けてやる…って言っただろ……?
お前には、怪我……させねえよ…。
おい…マティーニ!!何があっても、灰原の事は殺させねぇからな……!!
守ってやるよ……俺が……お前達なんかに…負けるものか!!」
「……工藤君」

灰原が、悲しそうな顔で俺を見ていた。
守ってやる…前にそう約束しちまったから……
何があっても、絶対守ってやらなきゃいけねえんだ。
折角、幸せを手にしてきたこいつの事を、無事助けてやらなきゃいけねえんだ。

「……恋人でもない女の為によくもそう必死になれるものだね
あんた達、どっちにしろ死ぬんだよ?」

マティーニは理解できないといった顔で言った。

恋人じゃなくても…灰原は大切な仲間だから…
友達というには俺たちの関係は深すぎて…
だからといって親友というものとも違ければ恋人でもない……
灰原は…そう、大切な家族のような存在だから。

そんなこと…お前には理解出来ないだろうな、マティーニ!!



………あれからどれだけ時間が経っただろうか………

何度でも、灰原を庇った。
俺の身体は既に傷だらけだった。
洋服は血にまみれて赤く染まっていた。
その場に倒れた体勢で、ただじっとマティーニとジンを睨んでいた。

「……く…そぉ……っ…」

怪我の度合いと、荒い呼吸をしているせいで、苦しくて声を出そうにも言葉にならない。
灰原が身体を引きずって、俺の元に寄り添った。

「工藤君、しっかりして!?もう私の事庇わなくていいから!!」

先程渇いたはずの涙が、再び灰原の頬をつたっている。
灰原の事も、庇いきれなくなってきた。
灰原も足を撃たれて、身動きが取れない状態になっていた。
目一杯庇っているつもりだったのだが、
体が上手く動かなくて、少しずつ灰原にも弾が当たるようになってしまっていた。
俺の両足に、肩に、腕に、腹や顔にも、たくさんの銃創があった。
灰原の事を庇いたい…でも体が思うように動かない…
俺はそんな歯がゆさでいっぱいだった。
息が上がって…喋ろうとしても上手く声が出せなかった。

マティーニがそんな俺を見て、ふっと笑った。

「ふ…大分弱ってきたみたいね……。誉めてあげるわ、そこまでシェリーを庇った事…
ゲームを始めてもう六時間も経つのに…シェリーには二つしか弾が当たってないものね…
残り全部受けてるあなたが生きてる事が不思議だわ。」

六時間も、ずっと弾を受けつづけていた。
当然、撃たれた事によるダメージと出血によるダメージもあるわけで…
時間が経つごとに、段々と意識が薄れていく。
血を流しすぎたせいで、視界もかすむ。
それでも…こうしている間に……何らかの突破口が開けることを信じて……
そのときに、灰原が少しでも怪我の少ない状態であるように……
そう思って、さっきまでずっと灰原を庇ってきたけど…
もう身体が動かない。
マティーニが再び銃に弾をこめているのが、ぼやけた視界に映る。

「……もう止めて!これ以上工藤君を苦しませないで!ちゃんと私を狙って!!」

灰原が声を上げた。
あの強がりな灰原が…泣きながらマティーニに訴えている。

「……は、はいばらっ………や…めろ…………」

俺は必死で声を絞り出した。
しかし、灰原は泣きながらマティーニに訴えている。
マティーニは、冷たい顔で灰原を一瞥し、言った。

「……そんな事言われても困っちゃうのよね。
私さっきから、ちゃぁんとあなたの事も狙ってあげてるんだし……
その馬鹿な怪我人に言ってくれる?彼が勝手に飛び出してるんだから……
でも、そうね。いい加減可哀相になってきたし。終わりにしようか?」

そういってマティーニは俺に銃口を向けた。
それはまっすぐ頭を狙っている。
マティーニの口元が笑っているのが見えた。

「ばいばい、平成のシャーロックホームズ。高校生名探偵の……工藤新一君?」


彼女の引き金にかかった指に、ゆっくりと力が入った。
逃げようにも、動けない。
灰原の悲鳴が聞こえた。


そして、その場に銃声が響いた。



灰原……お前だけでも、絶対助かってくれよ。


もう既に殆ど消えかけた意識の中で……
それだけを強く祈った。




〜第8話へ続く〜













作者あとがき〜〜♪♪


こんにちは、朧月です……
あぁぁ〜〜〜っっ!!朧が書くとどうしてもシリアスな方向に物事が進んでく〜(涙)
そして朧が書くと何故かコナン(新一)はいっつも酷い目にあってしまう〜(涙)
5時間…はいっ、では皆さん計算して見ましょう。
15分に一発ずつ弾を受けて…六時間が経ちました。
二発は外れました。さあ、当たった弾は何発?
分かった人は、きっとこう思うでしょう。

……何でコナン生きてるんだよ。<苦笑

でも、浴びた弾の数が多いほど、
彼が必死で哀ちゃんを守ろうとしてるのが分かるんじゃないかと……(滝汗っ)

えっといつもの事ながら、感想いただけると、朧小躍りして喜びます(笑)
ではでは〜、次回も是非見てくださいねっ