あの日からずっと……



第6話、危険なゲーム




舞台は戻って、現在午前零時三十分…
俺と灰原は、いつになくとても緊張していた。
あの後、俺たちが話し合っていると、聞えてきた足音……
そして、開いた戸から現れたのは、長身の……
とても冷酷な目をしたあの男………

「よお、工藤新一……やっと気付きやがったか…」

ジンは入ってくるなり嫌な笑みを浮かべ、俺に拳銃を突きつけた。
ようやく見つけた獲物を、どう狩るか楽しんでいる……そんな目だった。

「……何の話?僕はそんな名前じゃないよ。
僕の名前は江戸川コナンって言うんだもん。」

とりあえずとぼけてみた。
しらを切りとおせることは不可能だと分かっていながら……
案の定ジンは冷たく笑って言った。

「とぼけるなよ、わかってるんだぞ工藤新一……お前があの薬で縮んだって事も、
そこにいる女が我々の裏切り者のシェリーだという事も……
お前がシェリーを匿っていた事もな。」

ジンは俺に拳銃を突きつけたまま、言った。
俺はしばらくの沈黙の後、口を開く。

「………ふっ、全部お見通しってわけか?
じゃあ、ガキの演技してもしょーがないってわけだな。 ……俺も会いたかったぜ、ジン!!」

一瞬ジンの口元が歪んだ。そしてその冷たい目で俺を射抜いた。

「……マティーニ、出て来い。」

ジンが扉の方を見てそう言うと、そこには見覚えのある姿。
そう、転校生の紅月飛沫だ。
隣にいる灰原は、びくりと肩を震わせた。
紅月が冷たい笑みを顔に浮かべる。

「江戸川君、哀ちゃん、あなた達は私の正体に気付いていたみたいだったわね…
まあ、わざと解り易いように変装もせずにいたんだけど……
ああ、そうそう。この私に会うのは初めてだったわね……
初めまして、私はマティーニ…黒の組織の幹部でジンの娘。
シェリー?あなたは知ってると思うけど、組織の中でも鍛えられた暗殺のプロよ。」

灰原は、こいつが元々八歳だって言ってたっけ?
八歳で、こんなに冷たい眼が出来るものなのか?
そんなガキが、どうしてこれほどまでに強い殺気を放っているんだ。
組織は…こんな子供でさえも……

「……お前、本名はなんていうんだ?」

唐突に尋ねた言葉に、紅月はくすっと微笑んだ。

「…そんなもの、元から無いわ。
私は組織で生まれてその時から組織の中で英才教育を受けた。
世を凌ぐ姿なんて必要ない。生まれながらに組織の中でのみ生きる人間よ。
コードネームさえあれば名前なんて必要ないわ。
戸籍も無い私に…名前なんてあると思う?
まあ、強いて言うならマティーニ……これが私の名前よ。」

紅月は、そう言っておかしそうに笑った。
生まれた時から……マティーニとだけ呼ばれてきた少女……
彼女にとっては、それが本当の名前になっているのかも知れない。
コードネームが本名……これが、本当の組織の……

「…どうして、俺たちのことに気付いた?」

尋ねると、彼女は俺達に歩み寄りながら、言った。

「私は、ジンと一緒にシェリーの行方を調べているうちに、
工藤新一の事に疑問を持ったのよ。
私は、他の連中と違って、ジンが殺した筈の工藤新一に元々興味を持っていたから。
いつのまにか死亡確認されていたあなたの記録に、疑問を持つのは当然でしょ?
一体いつ、誰によって死亡確認されたんだろうってね…」

彼女はいったん言葉を区切り、灰原の方を見て口元だけで笑った。

「……そして、調べてみるとシェリーがそのデータを書き換えた事がわかったわ。
そして私は工藤新一とシェリーについてありそうな接点を探った。
工藤新一についてわかっている事は一つ。あの毒薬、APTX4869を投与された事……
そして、その薬を作ったのがシェリー、あなただという事。
……そしてあなたがあのガス室から脱け出すには
どうしてもあの身体じゃ不可能だったという事や、
マウス実験の時に幼児化したマウスがいたという情報も入ってね。」

くすくすくす…と嫌な笑い声が耳に響く。
何がおかしいのか…俺が彼女を睨むと、彼女は再び話し始めた。

「今度は幼児化という点に着目して工藤新一の身辺を調べ上げてみたの。
そしたら工藤新一がいなくなった時に入れ替わりのように
工藤新一そっくりの子供がでてきたっていうじゃない。
そしてその子供が居候した毛利探偵事務所では、
へぼ探偵だった筈の毛利小五郎が急に活躍するようになった。
しかも、眠りの小五郎という妙な異名をとって…
簡単に想像はついたわよ。居候した江戸川コナンと言う少年が工藤新一だとね。
そしてシェリー…あの薬を作ってた張本人のあなたなら、
アレを隠し持っていたと考えてもおかしくないわよね?
あなたはガス室に監禁された。
そしてこのままでは確実に死ぬと思ったあなたは賭けに出た。
あわよくば助かるかもしれないという想いで薬を飲んだ。
するとあなたの思惑通りあなたの身体は縮み、
事情を知ってる男の所へ逃げこんだって訳よ……。なにか間違ってるかしら?」

殆ど当たってやがる。
歳不相応に頭が切れるって言ってたっけな……確かに、本当だ。
紅月……いや、マティーニが話し終えて沈黙すると、
一瞬俯いた灰原が、紅月に言った。

「……違うわ。私はあの時、助かるつもりなんて無かった。あの薬で死ぬつもりだった。
どうせ死ぬなら自分が作った薬で…と思って飲んだら偶然体が縮んだのよ。」

灰原………

顔を強張らせてそう言った灰原に、俺は目を細めた。
しかしマティーニは無表情で、冷たく言った。

「……あら、そう?でもほとんどの所はあってるじゃない。」

しばらく、その場は沈黙した。
ジンとマティーニは、どこか楽しそうな顔で笑っていた。
そんな二人を見ていて、俺ははっとした。
組織は、人を殺すことをなんとも思っていない。
組織の邪魔になりうる人なら………

「…お前ら、俺達の知り合いに手ェだしてないだろうな……?許さないぞ!!?」

急に蘭たちのことが心配になってきた。
蘭や服部、そしておっちゃんや少年探偵団の皆や父さんと母さん……
それから阿笠博士の事が……
するとマティーニは冷たく微笑んだ。
ジンと同じで嫌な笑みだ。

「安心してちょうだい。まだ何もしてないわ。
ここまで必死で逃げてきたあなた達への私からのプレゼントよ。
これはゲーム。これから私は十五分ごとにあなた達の身体にこの銃で弾を撃ちこむわ。」

ゲーム……だと?
人の命を、何だと思ってるんだ…こいつ。
俺の中で、怒りが溢れてくる。
マティーニは拳銃を取り出した。
弾はいっぱいあるらしく、適当にその辺に広げて弾をこめた。

「一応交互に撃ち込んであげるけど……お互いに庇いたければ庇って結構よ。
弾はいくらでもあるし。 それであなた達が死ぬ前に誰かが助けに来たら、その誰かもゲームに参加させる。
あなた達が死ぬまで誰もこなかったら、ゲームオーバー…私達はここから姿を消すわ。
もちろん、その時には組織の事を知ってる人間は始末するけどね…。」

どうして、そんなに残酷なことが出来る?
どうして、そんなに楽しそうなんだ…?

「ふ、ふざけんなよ!!てめぇ!!!」

怒りに震えながら、気がついたら怒鳴っていた。
その瞬間、その場に銃声が響いた。
マティーニの言うところの最悪な『ゲーム』が、始まった。



〜第7話へ続く〜













作者あとがき〜〜♪♪


どうもこんにちは、朧月です。
それにしてもなんて残酷な……;;;;;;
悪趣味なゲームをされる事で……(滝汗)
で、でも…大丈夫!!
残酷すぎるの書くのは出来ない人だから……
えっ?今までの話全部充分残酷だって??
ゆ、許して下さいな;;;
では、この辺で逃げちゃいます!!
感想いただけると管理人、泣いて喜びます!!
ではでは〜、次回も是非見てくださいねっ