あの日からずっと……



第5話、心配…




 それは、丁度八時間前の事だった。午後三時の阿笠邸では、場違いな一人の男の声が響いた。

「何やとォ? 工藤と姉ちゃんがおらんようになった!?」

 生まれつきの地黒の肌に、太い眉。そして、整った顔の上にトレードマークの帽子を被った彼の名は、大阪の少年探偵、服部平次だ。そして、隣でそれを聞いたポニーテイルの少女は、呆れ顔で彼をどつく。

「アホやん。何言うてんの? 居らんようになったんは、コナン君と哀ちゃんやろ?」
「あ……あぁ、そやな」

 苦笑まじりに応えた彼は、顔を逸らすと小さく息をついた。
 博士の家には、たった今博士本人と蘭、そして平次、和葉、探偵団達が輪を囲むようにして集まっていた。
 そもそも、蘭がプレゼント片手に真っ蒼な顔で阿笠邸に飛び込んできたのは、そこから更に遡り、二時間前だ。丁度コナンがさらわれてそう経たない頃だった。 そしてそんな深刻な会話をしていた時に、大阪二人組が明るい顔で現れたのは、ほんのついさっきだ。
 普段と違う様子の博士や蘭に、その事実を知らされた彼が驚きの声をあげたところで、冒頭の会話に戻る。

「……けど、何でなん? 誘拐犯から電話とか掛かって来てへんの?」

 顔をしかめて言った和葉に、聞かれた蘭の顔もまたくもった。
 電話がかかって来たならどんなにいいだろう。お金だって用意するし、要求だって何でも聞く。そう思っていた蘭だが、張り詰めた顔で電話機を見つめて、言った。

「うん。コナン君ね、博士の家に行くっていって、それっきり……」

 俯き、きゅっと唇を噛みしめた蘭は、唇を震わせながら続けた。

「博士から、哀ちゃんが誰かに攫われるの見たって連絡があったの。……で、コナン君の事が心配になって博士の家に行ってみたら、 コ、コナン君に渡した新一へのプレゼントが道の途中に落ちてて、それと一緒に血痕が――コナン君の血がそこに……っ」

 途中まで話す蘭の目から、涙が浮かび、零れた。何度か泣いた後だったのだろう。彼女の目には少し腫れて見える。

「コナン君、今日誕生日なのに……こんなのひどすぎるよね」

 蘭が動揺しながら慌てて博士の家に入った時、コナンが来たのだと勘違いした子供達が、クラッカーの紐を思い切り引いて、明るい声で口をそろえた。

「「「お誕生日おめでとう(ございます)」」」

 ふわふわ舞い落ちるカラフルな紙屑を、絶句しながら頭にかける。一瞬後に来た客がコナンでないと気づき首を傾げた彼らが、尋常ではない様子の蘭をとりあえず中に入れた。その後事情を聞いて外からまだ帰らない博士に、探偵バッジで連絡を入れた、というわけだ。





 和葉は、事実を聞かされてからずっと蘭を慰め続けた。
 一方の平次は、話を聞いてからずっと何かを考え込んでいた。蘭たちの目を盗んで、隣で動揺する博士の耳に囁く。

「なあ、じいさん。まさかこれって黒ずくめの男達の仕業やないやろな……?」

 博士は、声をひそめて返した。

「……実はのぉ、三日前に哀君が言っておったんじゃ。”組織が動き出したわ”と」
「何やと!」
「哀君達のクラスに転校生が来たらしいんじゃが、彼女は組織の一員で、ジンという幹部の娘だそうじゃ。”博士も充分気をつけてね”と言われたばかりじゃったよ」

 そんな時だったから、子供達が来てもまだ帰らない哀を心配して、車で通学路を見に行ったのだ。哀は通学路から少し外れたデパートから出てきた。 安心して声をかけようと思った瞬間、哀は誰かに眠らされ、車に乗せられ連れていかれた。慌ててコナンに知らせようと電話をしたが、出たのは蘭で、コナンは既に事務所を出たという。仕方がなく自宅でコナンの到着を待とうと考えた矢先、バッジから連絡が入ったのだ。

『博士ぇ! 大変なんです。コナン君が、コナン君が誘拐されたみたいなんです!』

 と。
 その様を事細かに説明する博士に、平次は目を細めた。

「せやったら、まさかその転校生が工藤達を……」

 博士は、重い口調で答える。

「多分そうじゃろうな。哀君が攫われた時の車もジンの愛車だというポルシェ356Aじゃったから……」
「一瞬見えた、て言うたな。……何でじいさん無事なんや?」
「さあ? わしにも彼らに見つからなかったからとしか判らんが、哀君は薬をかがされっとったみたいじゃよ」

 組織に攫われた可能性が高いという事だけで、とりあえず事態は最悪だ。
 博士と平次が深刻な話を交わす横で、何も知らない子供達もまた、ショックを隠せない顔で向かいあっていた。

「ねぇ、コナン君と哀ちゃん、どうなっちゃうの?」
「大丈夫ですよ。きっと二人とも無事に……」
「でもよー、犯人から何の電話も掛かって来てねえじゃねえか。手がかりがねーと、助けられねぇんじゃねーの?」

 先程から泣き続けている歩美を慰めるように言った光彦は、口を尖らせながらの元太の言葉に、少しとがめるような表情を見せた。しかし、すぐに元気のない表情で俯く。
 そんな子供達を見ながら、平次は溜め息をついて小声で呟く。

「二人とも無事やとええけどな。姉ちゃんは薬で眠らせられただけみたいやけど、工藤は怪我しとるんやろ?」
「心配じゃのォ……」

 博士もまた、本来ならここにいる筈だった二人の事を思いながら、ぽつりと呟いた。


〜第6話へ続く〜













作者あとがき〜〜♪♪

こんにちは〜vv朧月です。
コナンと哀のことを心配する皆さま。
ここで朧が今一番不思議に思ってるのが、何で博士生きてんの?です。
ごめんよ、博士!!(苦笑)
いやだって、誘拐してる現場見てあの組織が生かしておきますか?
しかもジンですよ、ジン!!
でも博士殺すわけにもいかないし……
まぁ、勘弁!!
さぁさ、ついにこの話で最も重要な人物出てきちゃいましたね。
平次…彼がどうなるのか、お楽しみに。
冒頭の新一の意味深な発言が、これからどう繋がっていくのか
見守ってあげてて下さいネ。
では第5話も読んでくれてありがとうございます〜vvv
やっぱり未熟なお話ですが、次回も見捨てないであげて下さいませ!!!
そしてやっぱり感想くれちゃうと嬉しいかな〜っ♪←だーかーらー、しつこいって!!

ではではっvvv