あの日からずっと……



第14話、さよなら




結局、俺はそのまま一ヶ月も入院させられた。
そんなに長い間入院してるまでもなく、
目が覚めて1〜2週間後には大分元気になってはいたが、それでも中々退院できずに、
結局1ヶ月、病院のベッドにいることを強要されたのだ。
ただ、退院した後も何度か病院に出たり入ったりな生活をくりかえしながら、
ようやく完全に病院生活を終えたのは、それから更に二ヶ月経った後だった。

その間も、服部は全く目覚める事はなかった。
全く、いつまで寝てるんだと言いたい気分ではあるが……

それからとにかく、俺は組織の情報を色々と集め、ついに組織を追い詰めて、
組織の人間の殆どは検挙された。
しかし、そこにジンの姿は無く……あの方と呼ばれる人も出て来なかった。
けれどようやく、一先ずの休戦を迎え、一件落着したのだ。

「工藤君…これ、解毒剤よ。やっと出来たの。」

灰原は、ついに手に入った薬の情報を元に、解毒剤を完成させた。

「ついに出来たんだな。」
「……でも、工藤君。これは、体調が万全の時に飲んだほうがいいと思うの。
あなたついこの間まで入院してたじゃない。もう完全に大丈夫なの?」

手を伸ばした俺から薬を遠ざけ、心配そうな顔でそう言った灰原。

「大丈夫だよ。何なら、検査してもいいんだぜ?」

そう言えば信じるだろうと思って言ったのだが……
灰原は本気で俺の身体を細かい所まで調べて……
ようやく飲んでいいと許可が出たのは、また更に日にちが経った後だった。

灰原も、俺と共に解毒剤を飲み、俺たちは、元の身体に戻った。
元に戻るときの苦しみが少なかったのは、灰原に感謝しなければいけないだろう。
ただ、この時灰原が既にそれを決意していたなんて、俺は全く気付かなかった。



宮野志保に戻ったあいつは、俺に早く蘭の元へ行ってやれと促した。
俺も、元に戻ったらすぐに蘭に会いにいくつもりだったから、
別にそれは特別な事ではなかったのだけれども…

「じゃあ、行って来る。…ありがとな、灰原。」
「灰原……ね。私今は宮野志保なんだけど。」

苦笑しながら言った灰原に、同じく苦笑して返した。

「宮野ってなんか呼びにくいんだよ。でも、変えて欲しければ変えるぜ?」
「……まぁ、いいわよ、灰原でも。その方があなたは呼びやすいんでしょ?」

そう言って、俺の背を押し玄関まで向かう灰原。
別に、そのときは変わった様子は全くなかったんだ。
ただ、俺が戸を閉める刹那…灰原が、たった一言悲しげに呟いた。

「さよなら、工藤君……」

不思議に思ったけれど、振り向いたらいつもみたいなクールな笑みを浮かべたから…
これから灰原が何をしようとしているのかは分からなかった。
そして、俺は蘭の元へ向かった。

ドアをノックして、中から蘭が出てくるのを待った。

「は〜い…」

ガチャリとドアが開いた瞬間、俺はその驚いた顔に、微笑んで見せた。

「し、新一……」
「ただいま、蘭。」

すると、蘭は涙を浮かべて、微笑んで…たった一言言ってくれた。

「お帰りなさい…」

そして、それから俺は蘭に全てを話した。
入院してた頃からの約束だった…。
元に戻ったら、全てを話すと。
その約束を…俺はやっと果たす事が出来た。
蘭は、終始黙って聞いていた。

「………そっか。でも、やっと全部終わったんだよね。」
「あぁ。これで、俺がお前に隠し事する必要もなくなったんだ。」

やっと…終わった。
けれど、まだ終わってない事といえば…
服部の事と……それから。

「元に戻ったら、ずっと言おうと思ってた事があるんだ。」
「……何?」
「服部に、先越されてたみたいだけど……
俺は、もうどこにも行かねーから。ずっと側にいるから。
高校でたら…俺と結婚して欲しい。」

蘭は、一瞬驚いた顔で目を見開いて、ボロボロ泣きながら、何も言わずに頷いた。
そのまま、俺たちはおっちゃんの帰りを待ち、
妃さんも家に呼んで、二人に全てを話した。
おっちゃんも妃さんも、江戸川コナン=工藤新一という事に関しては、
「妙に納得がいった」と笑ってくれたのだが…
もう一つの俺の言い分については、特におっちゃんは断固として譲らなかった。

「高校卒業したら、蘭を俺に下さい!!!」

真剣にそう言った俺を、おっちゃんは放心した顔で見つめ、
座っていたイスからずり落ちそうになっていた。
しかし、それはほんの一瞬のことで、その後は怒り出した。
まぁ、怒るのは当然だろう。

「ふざけんな!!今まで散々蘭を泣かせてきた男が、騙してきた男が……
あろう事か蘭を下さいだと!?てめぇどの面下げて……っ!!
お前が居ない間…こいつがどんなに寂しい想いをしてきたと思ってるんだ!!」
「ちょっと……お父さん!!」

蘭は必死でおっちゃんを宥めていた。
おっちゃんの意見は、もっともだけれど…俺は諦めなかった。

「確かに、怒られるのはもっともです。俺はずっと蘭を悲しませてきました。
だからこそ、もう一生悲しませたくないんです。
俺が悲しませた分、俺が幸せにしてやりたいんです。
もう…もう一生何処にも居なくなったりしません!ずっと蘭の側に居ます。
今まで会えなかった分、すぐにでも蘭の側にいてやりたいんです!」
「……新一……」

蘭は頬を赤らめた。
そして、その場を見ていた妃さんは、俺達の真剣な様子を分かってくれたのか、
おっちゃんを説得した。

「あなた、もういいじゃない。蘭は新一君と一緒に居る方が幸せなのよ。
会えなかった分、早く一緒になりたいって気持ちは凄く分かるわ。
式は無理だとしても、入籍くらいさせてあげたら?」
「うるせー、お前は黙ってろ。」

おっちゃんは不機嫌そうに俺をじっと睨んだ。

「なぁ、新一……俺は蘭がお前といる方が幸せだって事くらい分かってんだよ。
でも、お前の話からすると、その黒の組織とやらはまだ完全に検挙されてないんだろ。
そいつらが、蘭に危害を加えない保証なんか……」
「…蘭は、俺が何があっても守りますから!!」

俺は、おっちゃんの言葉を遮って、強く……強く言った。
蘭は、絶対に危険な目にあわせない。あいつらに、何があっても手出しさせない。
その為にも、俺の手元に置いておきたいんだ。
おっちゃんは、その後も何度も反対の言葉を言ったが、
妃さんのフォローと、俺と蘭の必死な説得により、ついに分かった…と、折れた。
最後に、妃さんは念を押すように俺に言った。

「新一君、その代わり…蘭を不幸にしたら許さないわよ。」
「はい、分かってます。」

蘭はなんとしても、幸せにする。
もう、何処にも行かない。
それが、その時の俺の気持ちだった。
最も困難かと思われた蘭の両親二人の承諾を取って、
俺たちは安心して二人で談笑しながらくつろいでいた。

博士からその連絡が入ったのは、そんな時だった。

「新一君、大変じゃ……哀君が……っ」

俺の携帯に掛かってきた一本の電話。
慌てふためいてそれを告げた博士。
俺は、それを聞いた時……ショックと驚きのあまり電話を手から滑り落とした。

「……んで、だよ?」

半放心状態になりながら、呟いた。
蘭はそんな俺を心配そうに見つめ、電話誰から?等と聞いてくる。

何で、だよ……俺、何の相談も聞いてねーぞ!?
何で……こんな大切なこと、何にも言わないで……


― さよなら、工藤君…


俺の頭の中で…
あいつが寂しげに告げた一言が…
何度も、再生された。


〜第15話へ続く〜













作者あとがき〜〜♪♪


こんにちは、朧月です。
新蘭、ついに結ばれちゃったv(てへへvv)
結ばれたって…籍いれる約束しただけだけど。
親公認だから大進歩なのではないかと。
そして、哀ちゃん……!!
さぁて、一体どうなってしまったのでしょう!!
ちなみに、この話のテーマ…今の所まだぎりぎりずれてないです(苦笑)
対組織が終わって、手に入れたものと、傷つきあるいは失ったもの……
と、一応そう言うテーマなので(^^;
まぁもうちょっと厳密に言うと、それに対するコナン(新一)の気持ち…かな?
まぁ新一にとって、一番気になってるのは平次の事でしょうけど。

そして、また一つ失われるもの。
一体哀ちゃんの決意とはなんだったのでしょう?
これは、朧の見立てるところでの哀ちゃんの性格からして…
哀ちゃんなら、こういう選択とるんじゃないかなぁと。
多分、その方が哀ちゃんにとって幸せなんじゃないかなぁと。
そう考えたけ結論です。
では、今回も読んでいただけてありがとうございました。
次回も、是非よろしくお願いします!!

それでは、感想お待ちしてま〜すっ!!
ではでは〜vvv