あの日からずっと……



第13話、和葉の進路。




その20代前後の男は、公園のベンチに座り…空を見上げた。
先程まで手に持っていた花束をそのベンチの上に置いて…
空に向かって微笑んだ。

「もう、あれから…一年も経つんだよなぁ。」

傷だらけになり闘ったあの日…
大切なモノを傷つけてしまった。
自分がまだ弱かったばかりに、大切な友人をあのような目にあわせてしまった。
あの日の傷跡は、未だ自分の身体から消えてはいない。
彼は再び瞳を閉じ…あの時の事を思い浮かべた。


あの後、灰原も病院に駆けつけて来た。
いつものクールなあいつとは違って、とても慌てた様子で、
息を切らせながらその戸をあけた。
「江戸川君!!気がついたって……」

その元気な姿に、僅かに安堵した。
灰原の事を、ちゃんと…守れたのだと。

「よぉ、灰原……怪我はいいのか?」

俺の問いに、灰原は目を大きく見開かせた。

「ばか……」

そう言って苦笑した彼女の顔が…
何だかとても懐かしく感じた。
彼女は、そのまま俺の前まで歩み寄ってくる。

「傷はもう殆ど治ったわよ。まだちょっと引き攣るけどね。」

そう言って、あの時撃たれて怪我した足を見せた。
まだ傷口に包帯は巻かれていたが、見たところさほど酷くもなさそうだ。

「あの時…あなたが庇ってくれたから。こんなかすり傷ですんだのよ。」

灰原は、どこか悲しそうにそう言った。

「…珍しく素直だな。」
「素直じゃない方がよかったかしら?」
「あのなぁ…」

呆れた声を出すと、買い物に行ってくるからと
10分程前に出て行った蘭が戻って来た。

「あら……哀ちゃん、こんにちは。」

灰原がいる事に気付き、にこやかに話し掛けた蘭に、灰原も、微笑して挨拶を返す。
…あれ?この二人って、こんなに仲よかったっけ?

「哀ちゃん……まだ足完治はしてないんだから。イス座って。」
「えぇ、ありがと。」

蘭が灰原の後ろに出したイスに、自然に座った灰原。
何か……おかしいだろ、この二人。
困惑している俺の前に、スポーツドリンクが差し出された。
そして灰原にも同じ物を渡す蘭。
それを、再び微笑みながら受け取って飲み始める灰原。

「ね、ねぇ…二人共いつそんな仲良くなったの?」

灰原に蘭への態度を改善しろというような事を何時も言っていたけれど…
いざこんな二人を見ると、何だか不気味だ。
俺の言葉に、蘭と灰原は顔を見合わせてお互いにくすっと笑った。

「だって、この一ヶ月間……
ずっと私と哀ちゃんと和葉ちゃんとであなたの事看てたんだもの。
正確には、あなたと服部君の事……だけどね。」
「まぁ、遠山さんはどっちかって言うと彼の方を看てたけど。」

それは当然だとして…
蘭と灰原が……一緒に俺の事を?
その様子を想像して、俺は再び顔色を変えた。
すると、その意味が分かったのか、灰原は呆れた顔で俺に言った。

「最初は、彼女が学校とか部活の時とかしか私が看てる事はなかったけど……
少しずつね、色々話すようになったのよ。」

灰原の言葉に、蘭もうんうんと頷いた。
お、女って分かんね〜…とか思ったけど、
それは敢えて顔にも口にも出さないでおいた。

「あれ?そう言えばここ東京だよな?」
「そうよ。」

俺の問いに、何を当たり前の事を言っているんだといいたげに頷いた灰原。
俺は隣の服部を眺めた。

「……こいつ、大阪帰らなくていいのか?」

和葉ちゃんだって、学校があるはずだ。
そう思ったけど、蘭は嬉しそうな顔で答えた。

「あのね、和葉ちゃん……服部君もコナン君も心配だからって。
無理にあっちこっち移動しない方がいいだろうしって、
学校たまに休んだりしながら来てくれてるの。」
「えっ?でも…」

たまに休んだりとは言っても…
受験生だし、しょっちゅう休むわけにはいかないだろうに。
大変なんじゃなかろうかと、再び蘭に尋ねようとした時…
病室の戸が開き、和葉ちゃんが入ってきた。

「コナン君……あたしな、実はもう進路決まってんねん。」

にこやかに告げられた言葉には、とても驚いた。
だって…今まだ6月だろ?
そう思ったのだが、彼女が頬を赤らめて言った言葉は、
俺が想像出来る事を超えていた。

「平次……高三に進級した時言ってくれたんや。」

彼女は、そのときの事を思い出しながら語ってくれた。


「和葉、俺たちももう高三なんやな。」
「…そやね。」

珍しく真面目な平次の言葉に、和葉は不思議に思いながら同意した。
平次は、やはり真剣な顔つきで、和葉を見つめている。

「なぁ、和葉……お前なんかやりたい事あるんか?」
「え?やりたい事て……」
「将来の事や。進みたい道あるんか?」

平次が改まって真剣にそう言う話をしてくるのは初めてだったから、
和葉は不思議に思いながらも、考えてみた。
自分の、将来……
平次の嫁になる事しか思い浮かばなかった。

「別に……何もあらへんよ。」
「それ、ホンマやな?」
「まだ、これからや。」

けれど、もう高三。
早く決めなければと考える。
しかし、平次は「それやったら…」と言葉を続けた。
和葉は平次を見つめる。

「……それやったら、無理して決めんでええぞ。」
「ちょお、それどういう意味なん?」
「……将来は、俺が養うたるから、お前は家に居ればええって事や。」

その言葉に、和葉は目を見開かせた。
それは彼女とてそれ程鈍感ではない。
彼の言う言葉の意味は分かったけれど、信じられなかった。

「どういう、意味やの?」

彼女がもう一回聞きなおすと、平次は溜め息をついた。

「何度も言わすな、ドアホ。高校でたら、俺の専業主婦になれやて言ってんのや。」
「専業、主婦やて?」
「お前鈍すぎやろ?ストレートに言わんと通じひんのか?
……高校卒業したら、俺が嫁にもろたるて言うてんねん。」

ストレートに言われた言葉に…和葉は沈黙した。

「嫁……?誰を?」
「お前しかここに居らんやろ!」
「あたしが、平次の……嫁?」
「……嫌やったら、別にええけどな。」

いつまでも言葉を繰り返す和葉に、平次はむっとしたようにそう言った。
和葉は、呆然としたまま首を振った。

「……嫌なわけないやん。ホンマに?ホンマに嫁にもろてくれるん?」
「こんな事冗談で言えるわけないやろ。」

色黒の顔でわかりづらかったけれど、
そう言った平次の顔はどこか赤らんでいた。



「は……平次兄ちゃんがプロポーズしたの?」

俺は驚いた顔で和葉ちゃんを見つめた。
和葉ちゃんは赤くなりながら、こくりと頷いた。
服部のヤツ……意外と手が早いんだな。
俺には、そんな事一度も言わなかったくせに。
目が覚めてから、驚かされっぱなしだ。

でも…こんな日常が、また戻ってきてよかったよな。

俺も、服部も、灰原も…あんな危険な状態から、無事生還できたんだ。
また、こうやって皆に会えて、本当によかった。

その日は、病室の中で…楽しく雑談を繰り広げた。
時間ぎりぎりまで、俺たちは色々な事を話して、笑いあって。
無事生きる事が出来て…よかった。
これほど、そう思った事はない。




〜第14話へ続く〜













作者あとがき〜〜♪♪


こんにちはっっ、朧月です!!
予告どおり、哀ちゃん絡めました!!
哀ちゃん、当初ここには出てくる予定なかったのですが…
この話は、全て元の話にはなかったものですから。
哀ちゃんと蘭ちゃんが仲良くなってるよ!!
和葉ちゃんいつの間に平次にプロポーズされてるよ!!
平ちゃんよ…いつの間に。
コナン君、さっき目覚めたばかりだというのにやっぱり元気だよ!!
色々と突込みどころの多い話です(笑)
そして、病院であまり元気な話にはならないだろうと思いきや…
タイトル、和葉の進路。
え、えぇっ?そこなの?
この話全体で一番伝えたいとこってそこなの???
最初は日常への帰還にしようと思ったけど…
入院生活終わったわけじゃないのに、日常への帰還ってタイトルどうかな?とか思って。
そんな感じの別の言葉が思い浮かばなくて。
仕方ない!進路でいいや。と。(おいこらっ;;;)
え〜、今回も読んでくれてありがとうございましたvvv
次回も読んでやって下さいネv
次回…第14話ですかっ?
…この話、そんないったの??元の話は短編だった筈よ??
まぁ、いいや。最後まで頑張ります!!
では、感想お待ちしてま〜すっ!!
ではでは〜、また次回!!