あの日からずっと……



第10話⇒約束




俺は、死んだのだと思っていた。
だから目を開けた時、妙に明るかったその場所が天国だと思ったんだ。
いつもなら、そんな馬鹿らしい事は考えないけれど、今回ばかりは。
蘭の顔をした天使が、俺のこと見下ろして……そう思ったんだ。
天国って、本当にあるんだな……
何で俺、地獄に行かなかったんだろうな……
服部は俺のせいで、死んだのに………
本気で、そう思ってた。

でも、そこにいる『天使』は、俺の顔を見て、安心したような笑顔を見せた。

「…んいち…………コナン君!!?」
「え?蘭………姉ちゃん?」

あれ?今新一って言わなかったか?
そんな疑問もあったのだが……俺は別の事に驚いていた。
先程までぼんやりとしていた視界が段々と鮮明になってきて……
記憶と全く違わない蘭が、白い天井を背に俺を見つめていた。

………俺、まだ生きてるのか?
どうして……………?

「コナン君、大丈夫??どっか痛い?具合悪くない?
すぐ、お医者さん呼ぶからね…!!」

蘭は心配しすぎではないかと思うほど心配そうに俺にそう言って、
医者を呼ぼうとしているのか部屋を出て行こうとした。
気がついたら…動き辛い身体を起こして…蘭を呼び止めていて…

「…俺……じゃない。僕、生きてるの………?」

俺は蘭にそう尋ねていた。
その言葉に、蘭は驚いた顔で目を丸くした。
今にも泣きそうな顔で、俺を睨んだ彼女…

「何言ってるのよ!?当たり前じゃない!!!」

そう言う間にも、蘭の目元が潤んできた。
しかし、彼女は目に溜めた涙を拭おうともせず、じっと俺を見つめている。

「蘭………姉ちゃん?」
「……もし、死んだら………死んだりしたら……許さないんだから!!
あなたが死んだら……私は誰を待ってればいいの!!?約束したじゃない!
あなたが死んだら……私も死ぬよ?
待つ意味もなくなった私の安息は、あなたの側だけなんだから。
……待ってろって、そう言ったくせに、勝手にいなくなるのは許さないんだから!」

俺が首を傾げると、蘭は泣きながらそう叫んだ。
約束……?「待ってろ」って、約束??
その言葉を聞いて、俺は確信した。
蘭は、俺の事を……

「蘭ねえちゃん?さっき、僕の事……新一って、呼んだよね?」
「…………………」

俺の問いに、蘭は何も言わずに俯いた。
肯定してるととって…いいんだな?
蘭は数秒後にやっと一言呟いた。

「………別人……なんでしょ………?」
「…………え…………?」

予想外の言葉に、驚いて蘭の顔を見つめた。
蘭はただ俺をじっと見つめながら、言葉を続けた。

「私がいくらその名前で呼んでも……コナン君は新一じゃない、別人なんでしょ?
コナン君……言ってたじゃない。新一じゃないって……あんなに言ってたじゃない。
今更、それは嘘でしたって言うの?」
「蘭……姉ちゃん……」

蘭は、俺の正体に気付いている。
気付いているのに、何故…?

「嘘つくんだったら……
私があれほど問いただしても本当の事言わなかったくせに、
そんなにまでして嘘つくんだったら……その嘘、最後まで……吐き通しなさいよ!!
……待ってて、あげるから。いくらでも………待ってて………あげるから。」

待っていてくれると、そう言って涙を流す彼女が愛しく感じた。
彼女の言葉はまだ続いた。

「今は『コナン君』が、いくら自分は新一だって言ったとしても、今は信じないから。
『新一』の口から全てを聞くまでは………私はもう問い詰めたりしないから。
ね、別人なんでしょ?あなたは、江戸川コナン。『コナン君』なんでしょ??
他の誰でもない……コナン君なんだよね。」
「………蘭………」

全て知っていて、それでも、俺と新一は別人なのだと……
そうだ…蘭にとっては、真実がどうあれ、
『江戸川コナン』と『工藤新一』は、全く別の…人間なんだ。
蘭は、俺が呟いたその名に、反応した。

「蘭姉ちゃんでしょ……?蘭って呼ぶのは……『新一』だよ?」
「……蘭……ごめんな……。」

ずっと、俺の事を信じて待っていてくれる蘭…
俺の言葉に、蘭は一瞬瞳を伏せ、そして再び、俺の顔をじっと見つめた。

「まだ言ってる。ってことは今は『新一』なの?私、新一って呼んでいい?」
「……ああ。今だけ……な。」

見た目じゃない…『江戸川コナン』は蘭にとって弟のような存在。
『工藤新一』は、蘭にとっては………
だから、今は俺はお前の弟じゃないから……
今は、俺に寄りかかってきて、泣いていいから。

蘭は数秒間考え込んだように俺を見つめ…
俺の意図を察したのか、先程よりも大粒の涙を流して、俺に抱きついてきた。

「……新一……新一……?会いたかったよ?心配…したんだよ……?」
「ああ。」

『新一』は、蘭を抱きしめ返し…辛そうに微笑んだ。
蘭が隣でボロボロと泣いている。

「『コナン君』は、いつ帰ってくるの?」

蘭の問いに、俺は軽く苦笑する。

「……ここにいるのが、おまえだけじゃなくなったら……」
「………そう………」

蘭はどこか寂しそうに、そう返事した。
俺はそんな蘭に言った。

「今は俺……『新一』だから……何でも我儘言えよ。」

蘭は少し考えて、そしてその口を開く。

「……質問してもいい?」
「……何だよ?」
「何で、『新一』になってくれたの?」
「……蘭が、俺のことで泣いてること、知ってたから。
お前は、もう全部気付いてて、これからその考えが変わることは無くて……
だから、今ぐらいは……って思った。」

ずっと、不安にさせてばかりで。
俺がさっき目覚ました時だって、本当に心配そうにして……
だから……今くらいは、蘭の願いを……

「そう。じゃあ……一つ……ううん、二つだけ、私のお願い聞いてくれる?」
「……何?何でも、聞いてやるよ。」

俺は蘭に微笑んで見せた。
何でも聞いてやる。お前が『新一』に頼んだ事は……

「あのね……私、ずっと待ってるって、さっき『コナン君』に言ったでしょ?」
「………ああ。」

何を言い出すのだろうと首を捻りながら答えると、
蘭はとても真面目な顔で、俺に言った。

「待たせたまま…居なくならないでね。
死んでも戻ってくるなんて、言わないで。絶対……生きて戻ってきて。
じゃないと、私……帰ってこない人を一生待ちつづける事になるんだよ。
死ぬまで、あなたの事……待ちつづける事になるんだよ。
例え『コナン君』が死んじゃっても、あなたが死んだとは、思わないから。
だから、何があっても、死なないで。」

蘭の目から止まりかけていた涙がまた溢れ出した。
二つと言った願いのうち一つは…俺の事、か。
俺は小さく頷いた。

「……分かった。約束するよ。………もう一つの願いは?」
「……もう一つはね。
……私、あなたが絶対帰ってくるから待っててって言うなら、何年でも待てるよ。
でも、あなたが突然消えて、そのままずっと居なくなるのだけは嫌なの。
ちゃんと、待っててくれって言ってくれるなら、いつまででも待ってるから……
だから、今度また何かの理由で私の前から姿を消しちゃう事があっても、
その時は何があっても、必ず帰ってくるって約束して。
私が待ってるんだって事……ちゃんと自覚して。」

もう一つも、俺の事か……
いつだって、こいつは…自分の事は後回しなんだよな。
けれどそういう所が愛しくて…俺は蘭のそういう所が好きなんだ。

「………もし、帰ってきたら………もう、二度と離れねえよ。」
「…………うん。」

蘭は溢れる涙を拭いながら極上の笑顔を俺に向けた。
そして蘭は強いまなざしを見せると、俺に言った。

「じゃあ、お医者さん呼んでくるね。………またね……『新一』………」

蘭は踵を返して、病室を出ようとした。
けれど、俺にはどうしてもつっかかっていることがあって、蘭を呼び止めた。

「あ、あのさ……最後に一つ質問させてくれるか!?」
「………なに?」

俺は次の言葉を口にするのが怖かった。
もしも……もしも肯定されたら…………

「あ、のさ…………服部が胸撃たれたのって……俺の夢じゃ、ないんだよな?」
「…………あ…………」


蘭は、その顔を濁して瞳を揺らせながら俺を見つめた。




〜第11話へ続く〜













作者あとがき〜〜♪♪


こんにちはv朧月です!!
………よし!ついにシリアス脱出…なのかなぁ??(汗っ)
さて、ついに次回…恐らく皆さんが気になってる事が明らかになる事でしょう。

まぁ、それは置いといて…
新一と蘭ちゃんの会話…絶対やらせるつもりでした。
蘭ちゃんにとっては、『新一』と『コナン君』は全く別の存在だと思うんですよ。
何て言うか、ポジションとかが。
だから敢えてややこしいけど、こんな会話に。
別に『新一』って呼んでるからって、大人の身体に戻ってるわけじゃないですよ;;;

組織との戦いがやっと終わり…訪れる平和な日々に……
果たして彼もいるのでしょうか!!
もうすぐ…もうすぐクライマックスが訪れる事でしょう。
そうですねぇ…50M走で言えば、34M地点って所でしょうか?(んな中途半端な…;)
最後まで、よろしくお付き合いお願いしますねvv
今回も見捨てずに読んでくれてありがとうございました!!
次回も是非見て下さいね!!
感想お待ちしてま〜すっ!!