志保……お姉ちゃん、ずっと一緒にいてあげられなくてごめんね。


死に逝く者の心残り…






血が、どくどくと流れていく。
意識が、だんだんと薄れていく。
ああ、もう私は駄目なんだなと自覚した時、
あなたの顔が浮かんできた。

私の記憶の中のあなたは、
とても悲しい顔をしてばかりいたわね。
私はあまり会う事も出来なくて、
あなたに孤独で辛い思いをたくさんさせてしまったね。
でも志保、覚えてる?
あなた、もっと小さい時は…よく笑う子だったのよ。

あなたが生まれた時、私はとても喜んでいた。
妹が出来るって、お姉ちゃんになるってこんなに嬉しい事なんだってそう思った。
あなたは私がミルクをあげたり、あやしたりするととても可愛く笑ってくれたね。
あの時、もう組織の一員ではあったけど、
私はあなたと一緒に居られればそれだけで幸せだった。
可愛くて可愛くてしょうがなかった。

でも、私よりもあなたは才能を持って生まれてきてしまった。
お父さんやお母さんの科学者の才能を色濃く受け継いで。
そのせいで、あなたは組織の手で育てられる事になったのよね。
お父さんやお母さんが事故で死んだすぐあとの事だったわね。
…いえ、本当はわかっているわ。お父さんもお母さんも事故死なんかじゃなかった。
でも、志保にはそんな事言えなかったわ。
お父さん達を殺した人達に育てられているなんて。
ねえ志保、あなたは覚えていないでしょう?
あなたはアメリカに連れて行かれるその日まで、私が育てていたのよ。
あの時、あなたは泣いていた。

「お姉ちゃんと離れたくない!!」

って、そう言って泣いていたのに、私には何も出来なかった。
ごめんね志保。お姉ちゃんが無力だったから、あなたは今でも変な薬を作って…
私は普通の人生を生きてきたのに、あなたは組織で騙されて……
あなたを救い出したかった。組織から抜けさせたかった。それなのに…ごめんね。

あなたは私と会う時は、務めて笑顔で振舞っていたわね。
会える日は少なかったけど、それでも私はとても楽しみだった。
あなたに会う事だけが私の生きがいだった。
でも、段々あなたは笑わなくなった。
笑顔の作り方を忘れていった感じだった。
それでも頑張って明るく振舞っているあなたに、私は何も言えなかった。
あなたが悲しい顔をするのは、見ていてとても辛かったわ。

そう言えば、あなた高校生探偵の工藤新一君に興味持ってたわね。
どうしてか分からないけど、彼最近テレビでも新聞でも見ないわよね。
彼がもしも組織と関わったら、
そしたらあなたの事見つけてくれるかしら…あなたの事救ってくれるかしら…
志保、お姉ちゃんはもう死んじゃうけど、いつもあなたを見守っているからね。
心だけはいつもあなたと一緒に居るからね。あなたの味方だからね。

でも、組織の証拠は残せなかった。私の身体は地面に崩れ落ちた。
諦めかけた時、彼が私の目の前に現れた。
毛利探偵事務所に居た男の子…江戸川コナン君。
あなたにも言ったよね。あの妙に落ち着いてる不思議な大人っぽい男の子よ。
その男の子は、一緒に居た女の子、あなたより少し下くらいの年齢の毛利蘭ちゃんに
救急車を呼ぶように頼むと、私にとても優しくて強い目でその名を名乗った。

「工藤新一…探偵さ!!」

と。
私はその時思った。
彼になら全てを託せるって。彼ならきっと何かを変えてくれるって……
だから組織の事、彼に話した。
彼は小学生にしか見えなかったけど、とても信用できたから。
私の知っている情報がどれだけの知識を与えられたかと言うと、自信が無いけれど
少なくとも彼に組織の存在を教える事は出来た。
きっとこの人はいつかあなたを救ってくれる。
志保…お姉ちゃんはもう駄目だけど、あなただけは幸せになってね。
彼はきっと力になってくれる。
だから志保、いつかまたあの時の笑顔を取り戻してね。
決して一人だと思わないでね……志保……………





お姉ちゃん…あなたに会えて、あなたのお姉ちゃんで居られて……


……幸せだったよ…   


〜Fin〜











あとがきっvv
こんにちは、朧月です。
今回は死ぬ間際の明美さんの独白です。
私は明美さん大好きなんです。
ちょっとしか出て来なかったけど、
哀ちゃんの事本当に大切にしてたんだな〜って言うのがすごいよく分かって。
この話、実は続きがあります。
一個一個でも読めると思いますが、是非続きも読んでください。
ではでは。