道しるべ…
ついに訪れた別れの時……あなたは再び行ってしまった。 思い出すのは、過去の風景。世界への認識が変わったあの時。 再び聞かされた、さよならの響き。 第十一話⇒核心への潜入 「ん……。」
寝返りを打つと、揺れたカーテンの隙間から差し込んだ光に目元を照らされた。
「朝なの?」
昨日は色々な事があって疲れたから、
「ホームズ君?」
部屋に自分以外の人の気配が無いのに気付き、胡蝶はようやく起き上がった。
「……トイレ?」
そう呟いて、トイレを見ても誰も居ない。
「どこなの、ホームズ君。」
段々不安になってきて、胡蝶は声を震わせた。
『胡蝶さんへ
驚いているかも知れないけれど、突然姿を消してごめん。 君が「置いていかれる気持ちを分かって」と言った時、胸が痛んだ。 「一人で居なくならないで」と言った時、自分の考えが一瞬ぐらついた。 けれど、奴らからは必ず先手をとらなければならないんだ。 君をそれに巻き込むわけには行かないんだ。 だから、俺はこれから全てを終らす為に組織に攻撃を仕掛ける。
でも、安心して信じていて欲しい。 俺は、大切な人を守った結末が自分の死である事が正しいと思ってない。 服部邸で過ごした時間、胡蝶さんといた時間…… それを俺に痛いほど分からせた時間だったから。
胡蝶さんに会えてよかったと思う。 組織に居た時も、ずっと俺を守ってくれていただろ? そんな君と出会うことが出来て、一緒に組織を抜け出して。 記憶が無い俺を、ずっと暖かい道へ引っ張ってくれようとしてただろ? 君は、俺が始めて会った、道しるべになってくれた。 だから、今度は俺が男として君を守りたいんだ。 これからどうするかは、安全の為に君の荷物の中に入れた手紙に記しておく。
だから今度会うときは、誰を恐れることも無く、 誰からも追われることは無く…… 組織を裏切って逃げ出した”ホームズ”と”胡蝶”さんではなくて、 本当の俺と、全てから解放された本当の胡蝶さんと、 一緒に会えたら、いいと思う。
胡蝶さんって言う帰る場所が俺にはちゃんとあるから、 だから必ず何があっても、生きて帰る事を望む事が出来るんだ。 そんな俺を、信じて待っていて欲しい。
そして、帰って次に会った時には、君に伝えたい事もあるんだ。
胡蝶さん、今までありがとう。 また必ず会う日まで、少しの間だけ、さようなら。
ホームズより 』
ぽたぽたと、止まらない涙が頬を伝った。
「馬鹿っ。ホームズ君の馬鹿!」
巻き込むわけにはいかないなんて、間違っていると思った。
「――っ、馬鹿。」
絶対に帰る誓いだけ残して、どこに行くかも告げないで。
「いつだってそうだよね、あなたは。勝手だよ……」
待たされる方の気持ちも知らないで。
「そんなの、勝手だよ……ねぇ、”新一”。」
それを何度も何度も読み返し、泣き続けた。
東京都、杯戸町。 ごく普通のアスファルトで出来た道路から、トンネルをくぐり、少しだけ歩く。 その裏の顔は……
「組織に居た時、たくさん調べた……組織がどういうものか知ろうとして。
研究所からは死角になる場所に立って、ホームズは呟いた。 すると、問題なく門は開いた。
「潜入成功……」
ぽつりと誰にも聞こえない声で小さく呟き、ホームズはその建物の中に入っていった。建物自体の侵入者対策はさほどでもないから、入門証さえ提示すれば簡単に入る事が出来る。問題は、実際にこの研究所内にある、組織の本拠地の一つ。
まずトイレに入ったホームズは、怪しい素振りなく隠しカメラの有無を確認し、白衣を上も下も裏返しにして着直した。 オセロと一緒で、白の裏は黒……。 コレでとりあえず、黒尽くめの男という見た目はクリアしたわけで。
深夜旅館にいた時に、パソコンで既に手は打ってあった。
「ID number59002874618 キュラソー。」 『……認証データ確認。声紋一致。認証データ問題なし。』
機械的な声が返って来る。 研究所を出て、ホームズは不敵に笑い、呟いた。
「さぁ、必要なピースは揃ったし、どんどん攻めるからな。」
そして、最後の決戦を……
場所は変わり、米花町を一台の車が走っていた。
「俺だ、どうした?」
低い声で、彼は呟いた。
「ほぉ。なるほど、まんまと欺かれたという事か。」
ジンの言葉に、電話越しの男は更に慌てた声で答える。
『あ、あのっ、ですがそれはどうやら組織のメインコンピューターに不都合が……』 「フッ、何を慌てている?別に責めてはいないぜ。いずれこうなるだろうと予期していた事だからな。……だが組織にとって失敗は死だ。覚えておけ。」
そう言って電話を切ったジンは、煙草をくわえた口元に不敵な笑みを浮かべた。
「動き出したな……”工藤 新一”。」
遅かったくらいだと頭の中で考えながら、ジンは車を進めた。
「待ってたぜ、貴様との再会をな。」
”シルバーブレット” 組織を壊滅させるそんな存在など彼と再会したあの日までありはしないと思っていた。けれど、初めてそんな存在を感じたのが、あの時だった。
死んでいる筈だと思っていた彼が再び自分達の前に姿を現した、あの時。
「会いたかったぜ、工藤新一。人質を取ってまで誘き寄せたいと思うほどな。」 「……オメーらの理屈はどうでもいいんだ。蘭にはこれ以上、指一本触れさせねえ。」
そう言ってまっすぐに睨み返してきた、強くて曇りの無い瞳は、確かに見た事の無い異色の輝きを放っていた。
そして、彼は確かにその時、見事に自分達の心理の裏の裏を読んで、
「その代償は大きかったようだがな。」
ジンの口元に、深く歪んだ笑みが浮かんだ。
「さあ、工藤新一。次こそは大切な者を守れるかな?」
不敵に笑うジンの頭にあるのは、ただ自らの勝利のみであった。 作者あとがきv さて。こんにちは!朧月です。 道しるべ11話、今回もまたありがとうございます! さて。大分色々な事が明らかになってきましたでしょ? ホームズの事については、恐らく気づいていなかった人は居ないと存じますが、 今回のお話で、曖昧だった彼女についても謎が明らかに……なった方居るよね絶対。 もしかしたらもっとずっと前から気づいてる方も居るかも知れないけど。 次回もまたどうぞ宜しくお願いいたします! それでは、11話もまたお読み頂きありがとうございました。 ではではっ♪♪♪ H19.01.15.管理人、朧月。 |