ENGAGE RING
〜Takagi&Satou version〜

SIDE:Wataru Takagi




僕の名前は高木渉。警視庁捜査一課の刑事だ。
僕にはとても気になる人が居る。
言わなくても、皆知ってるかもしれないが、
同じ課の先輩刑事、警視庁のアイドル、佐藤美和子警部補だ。
彼女はとても綺麗で、運動神経も抜群で、銃の腕もよくて、
正に皆の憧れの的だ。
最近、積年の思いが叶って恋人同士…と呼べるかどうか分からないけど、
彼女との仲が急接近しつつある。
同じ課の先輩連中には邪魔されるし、色々大変だけど、
こんなに綺麗な人だから、しょうがないよな。

そんなアイドル的存在の彼女が
何故僕を選んでくれたのかは分からないが、
彼女は他の誰でもない僕を、好きになってくれた。
夢のようだが、現実だ。
でも、佐藤さんは皆が思っているほど強い人じゃないんだ。
皆が見た佐藤さんのイメージは、気丈だとか、何にもめげないとか、
そんな感じだろうけどでもすごく脆い所もあるんだ。
彼女のお父さんは彼女が子供の頃殉職したという。
彼女が昔好きになった人は、僕が警視庁に配属される前に
大勢の人を助ける為に爆弾で殉職した。
その事が、彼女にとって凄いトラウマみたいになっているみたいだった。
僕にしがみついて、忘れさせてよと泣き叫んでいた事もある。
そんな彼女だからこそ、守ってあげたいと思うんだ。
僕は少しは彼女の心を癒せてるかな…?

自信が無い。彼女を幸せにしてあげる自信が。
彼女は本当に僕でいいのだろうか。
僕は、この間店で婚約指輪を買った。
第一号は水に沈んでしまったけれど、
あれから頑張って、ついに第二号を買ったのだ。
しかし、未だに僕は佐藤さんに渡せないでいる。
指輪を買って、早一週間も過ぎてしまった。
佐藤さんが近づいてくると、僕はいつも指輪を用意して、
でもいつもあと一歩が出来なくて…たった一言が言えなくて……
本当にどうして佐藤さんは
僕みたいな度胸の無い男を好きになってくれたんですか?
突っ返されたらどうしようとも考えている。
何やってるんだ、僕は。


今、視線の先に佐藤さんが居る。
さっきからじっと眺めていたその横顔はやけに綺麗で、
でも何処か物憂げな様子だった。
でも、今は暇そうだな。

チャンスだぞ、高木渉!!思い切って…今行くんだ!!!

強気に……強気に………

「あ、あの…佐藤さん」

何やってるんだ、僕は。強気にって誓った側から弱気じゃないか。
こんなんじゃ、佐藤さん…受け取ってくれないよなぁ…。
僕は佐藤さんの顔色を窺った。
佐藤さんは呆れた顔でため息をついている。

「何?高木君。」

答えてくれたぞ…よーし。
僕はせわしなく彼女とポケットの指輪を交互に見つめた。
今を逃しちゃダメだと自分に言い聞かせて
指輪をポケットから取り出そうとしたその時、
佐藤さんの視線に気付き、ふと顔を上げた。

……って、怖っっ!!

佐藤さんは僕を睨みつけていた。

「さ、佐藤さん……??」

僕は恐る恐る彼女の様子を窺った。
しかし、彼女はやはり僕を睨んでいる。
何故だかは分からないが、僕は佐藤さんを怒らせてしまったようだ。
こんな時に、指輪なんか渡しても受け取ってくれる筈は無い。
しかし、だからといって何が悪いか分かっていない今の状況で
謝るのも逆効果だ。
僕は、ほとぼりが冷めるまで待とうと思った。
佐藤さんは、さらに目を鋭くして、僕に続きを促した。

「い、いえ…何でもないんです!!また今度!!」

僕は慌てて彼女にそれだけ伝えて、その場から逃げた。
意気地なしなのは分かってるけど、しょうがないんだ。
背中越しに、彼女のため息が聞こえた。

そんな放っておいて欲しいときでも、事件は起きるものだ。
僕は現場へと向かった。
当たり前だが、佐藤さんも居るみたいだ。
気まずいよな、本当に。
現場につくと、そこに居たのは…
やっぱりというか、何と言うか、コナン君。
そして少年探偵団の皆も。

ま、予想はしてたけど…コナン君って、不思議な少年なんだよな。
妙なところで鋭くて、落ち着いてて大人っぽくて。
でも、それが全く不自然じゃない。
むしろ不自然なのは、時々僕達大人に見せる子供っぽい姿。
本来そっちの方が自然に見えるはずなのに、
彼の子供っぽい仕草や言動は、何だか演技の様で、わざとっぽい。
普通、子供は大人っぽくみせようとする筈なのに、
彼は実年齢より幼く見せようとして
無理して演技してるんじゃないかと思うことがある。
本当は、見た目よりずっと歳をくってるのではないか、等と
たまに思ってしまうほどだ。
…そう言えば一度彼に尋ねた事があったな。


「君は一体、何者なんだい?」

と。彼はその時、大人の顔で微笑して言ったんだ。

「知りたいのなら教えてあげるよ…あの世でね。」

と。


あれは爆弾の仕掛けられたエレベーターの中で
二人で閉じ込められた時だったよな。
あの時も、彼はEVITの四文字だけで、
爆弾が仕掛けられている場所を当ててしまった。
その前にも、あの難しい暗号を解いて。
ただの子供じゃない。そう確信している。
そして、彼はいつも何気に僕と佐藤さんの仲をサポートしてくれている。
あの世に行ったら、本当に教えてくれたのだろうか…?
コナン君、君の正体を。
まあ、不思議な子供といったら、哀ちゃんもまたクールすぎるのだけど。

そんなコナン君が、佐藤さんに何か話し掛けている。
僕と佐藤さんを心配そうに交互に見ながら。
きっと、今日一言も喋っていない僕達の事を心配しているのかもしれない。
佐藤さんは、そんなコナン君にニッコリ笑って何か言うと、
数秒後に僕の方を怒りに燃えた目線で睨みつけてきた。
ど、どうしたんですか?佐藤さん!!!

コナン君は、次は僕の方にも来た。
そして、さっきとは少し違う…
何て言うか、哀れみのこもった目で僕の様子をじっと見つめている。

「佐藤刑事、何か怒ってるみたいだよ。
そのポケット、指輪が入ってるんでしょ?早く渡してあげて。」
「あ、ああー、いや……」

見抜かれてる!!
僕はそれ以上言葉が続かなかった。
顔が熱い。多分、赤くなっているんだろう。
全く、この子には叶わないな……

その後、コナン君の助言のおかげもあって、無事犯人が見つかった。
佐藤さんが手錠をかける。
しかし、彼女らしくも無く、何故かボーっとしている。
その隙に犯人は佐藤さんの拳銃を強引に奪い取って、
佐藤さんに銃口を向けた。

「佐藤さんーー!!」

頭で考えるよりも先に、体が動いていた。
そして、佐藤さんの身体を守るように抱きしめた。


…佐藤さんを庇って死ねるなら………僕は…………。


地面に二人で倒れこんだ。
何だか足が痛む。足を撃たれたかな…?と思って起き上がろうとする
…が、起き上がれない。……あれっ?
佐藤さんが何か呟いたのが聞こえたが、僕はこっちの原因を探っていた。
すると、今度は佐藤さんが涙声で叫んでいるのが聞こえた。

「嘘……嘘でしょ?………高木君!?高木君ーー!!!」

え?嘘……?何が??
僕は、不思議に思いながらも、起き上がれない原因を見つけた。
指輪だ……指輪が器用にもしっかりと僕と彼女の服に引っかかっている。
さっき、中身を確認した指輪だ。

「さ、佐藤さん……服が引っかかって、起きれないんです。
た、助けてくださ〜い」

僕は、自分でも分かるほど情けない声を上げた。
彼女の泣き声が、一瞬止まった。
彼女は、少しの間の後に指輪をとってくれた。
そして僕を起こすと、涙の滲んだ眼で僕の身体をなにやら調べている。
そして、僕の足のところで、目線が止まった。
あ、やっぱり足撃たれたのか…と思い、彼女が心配してくれた事に気付いた。
しかし、あまりたいした事は無いようだ。
一応拳銃で撃たれたのだから、出血は一人前にしているが、
それほど大きな怪我ではない。
佐藤さんは、ふっとため息をついた。

「この傷、大丈夫?ごめんね、私がボーっとしてたから。」
「あ、いえ……あの………」

佐藤さんの手には、あの指輪が握り締められていた。
何の違和感も無くそれを握り締める佐藤さんを、僕は訝しげに見つめた。

「え?何……?」

佐藤さんは首を傾げた。
僕は、偶然にも彼女のもとに指輪があることが、
嬉しいような悲しいような複雑な気分だった。

「あの……それ。」

でも、こんなチャンスは、二度とないんだ。
もしかしたら神様が僕に渡すチャンスをくれたのかも知れない。

「それって……ああ!これ?これがどうしたの?」

佐藤さんは何も無かったかのように、それを僕につき返そうとした。
事情が分かってないにしても、何となく傷つく。
しかし、僕は当然それを受け取らなかった。
深呼吸をして、勢いで言った。

「それ、佐藤さんのです!!
……あのっ、こんな渡し方したくなかったんですけど、
僕と結婚してください!!」

やっと言えた。ずっと言えなかった言葉を。
佐藤さんが凄く驚いている。
それにしても、僕が指輪を持っていると知った時点で
普通、自分に渡されるものだと気付かないだろうか?
佐藤さんも、結構鈍感だな…と心の中で苦笑した。
しかし、佐藤さんは何か考え込んだ後、なにやら重々しいため息を一つ。

え?まさか、断わられる??

僕は恐々と彼女の顔を見つめた。
しかし、彼女は次の瞬間には僕に微笑みかけていた。
極上の、天使の微笑みといっても過言じゃないほどの美しい笑顔を。
彼女は、少し考えて、言った。

「二つ、約束してくれるなら。」

え?二つ……?

「な、何ですか?」

すると、彼女は僕の足から流れている血を見つめて、
目に涙をためたまま震えた声で、しかし鋭い目つきで言った。

「一つは、私を置いて死なないで。
いくら私を庇う為でも、私より先に死んだら許さないわよ。」

ああ、そうか。
彼女は、多分僕が撃たれたかも知れないと思ったとき、
お父さんや松田刑事の時の事を思い出してしまったんだな。
そう言えば、指輪第一号が水に沈んだ時、
泣いている彼女とそんな約束したよな。

「あの、もう一つは?」

僕は恐る恐る聞いた。
佐藤さんは、そんな僕を見て、面白そうに笑った。

「結婚、するんでしょ?私、『佐藤さん』じゃなくなるのよ、渉。」

一瞬、意味がつかめなかったが、すぐに言いたい事が分かった。
そして、今彼女が最後に僕の事を『渉』と名前で呼んだのにも、気付いた。

「え!!?あ、ああああの……!!!」

僕は余りの恥ずかしさに、ろれつが回らなくなった。
プロポーズした時より緊張しているのではないだろうか。

「ほら、約束よ。どう呼んでくれるの?」

佐藤さんは、悪戯っぽく笑っている。
僕は、真っ赤になって俯きながら、掠れたろれつの回らない声で呟いた。

「み、み……美和子……さん」

思わず、さん付けした僕に、佐藤さんは不満そうに言った。

「私は『渉』って呼んだのよ?
『美和子さん』じゃ平等じゃないじゃない。」
「え!!?えーと…じゃあ、あの………美和子。」
「よし!!」

佐藤さ…じゃなくて美和子は、満足そうに頷いた。
僕は、恥ずかしくて恥ずかしくて、今にもショートしそうだった。
今は、何も考えられないぞ。

しかし、次の彼女の言葉を聞いた瞬間、僕は固まった。

「皆、何処から何処まで聞いてたの?」

え?皆?聞いてた?

僕は慌てて顔を上げた。
すると、元太君が悪戯ボウズっぽい笑みを浮かべて、

「全部に決まってんじゃねえか!」

そう言った。
その言葉を聞いた瞬間、僕の顔が熱くなった。
多分、誰に見せても今の僕の顔は、真っ赤に染まっているだろう。
美和子の方を見ると、彼女も同様に真っ赤になっていた。
歩美ちゃんは無邪気に言った。

「よかったね♪結婚おめでとう。」
「あ、あのね…。」

美和子は苦笑した。
僕は、恥ずかしくて、何も言葉が出てこなかった。

「結婚式には是非僕達少年探偵団も呼んでくださいね。」

光彦君は相変らず丁寧な口調でそう言った。
そして、哀ちゃんは……

「あら、彼頼りないから、
あなたがしっかり面倒見てあげなさいよ。」

……クールにそんな事を言ってのけた。
…小学生の台詞じゃないですよ。
どうして自分より一回りも二回りも幼い女の子に
そんな事言われなきゃならないんだろう。
そして、とどめにコナン君まで。

「佐藤刑事、幸せになりなよ。僕、応援してるから♪」

そうやって子供っぽく無邪気に微笑んだコナン君だけど

……楽しそうだよ!!?

何て言うか、美和子だけなのかい?
僕の事はどうでもいいのかい?
美和子は少し恥ずかしそうに上目遣いで僕を睨んだ。

「渉!!私にこんな恥ずかしい思いさせたんだから、
その分幸せにしなさいよ!?」
「は、はい!!!佐藤さん…じゃなくて美和子!!」

署に帰るために、パトカーに乗り込む時、
わたわたしていた僕に美和子が「さっさと乗りなさい。」と言った瞬間、
後ろの方で、「ありゃあ、尻にしかれるタイプだな…」と呆れたような声と、
それに同調するクールな声が聞こえたような気がしたが、
まあ…それは気にしないでおこう。

コナン君、哀ちゃん。君達は将来どんな人と結婚するんだい?
本当に将来が怖いよ。

そんなわけで、この日僕等は婚約した。
僕等が結婚するのは、これからまだ少しだけ後の事。
そして、僕達に子供が出来るのも、さらにもう少しだけ後の話。
ちなみに、署に帰って美和子さんとの婚約を告げた僕が、
皆から取り調べや尋問を受けるのは…………

これから数時間後の話。






〜FIN〜











作者あとがきっっっ♪♪

こんにちはっ、朧月です!!!
エンゲージリングシリーズ第一弾、高佐バージョンです!!
本当は婚約指輪を英語でENGAGE RINGとはいわないんですよね。
でも、何となくその方がイメージ的にしっくりきたので
そうしちゃいました。

それにしても……何か矛盾だらけの話ですが…………(汗っっ)
まだ小説書き始めの頃に書いた駄文なので見逃してやってください(滝汗)
朧は実はこのカップリングが大好きなのでございますvv
いや、一位は新蘭、ニ位は平和と来て…その次あたりでしょうか?
というわけで、読んでくれてありがとうございましたっvvv
感想くれちゃうと言う心優しい方は、どうぞ掲示板へvvvvvv
小説の感想は大歓迎でございますっっっ!!!


この話の美和ちゃんSIDEもありますので、
そちらもどうぞ御覧になって下さいましvv

ではではっvvv