一周年記念小説

〜Classroom after school〜





苦しげに自分に銃を向けてきた探偵を見て、
少女は冷笑を浮かべた。

「どうしたの…探偵さん。無理しちゃって。」

彼はぎり…と歯をきつく食い縛り、彼女の胸元にそれを密着させた。
彼女は、その口元に浮かべた静かな笑みを一層深くして、
彼に向けてすっと伸ばした腕の先にあるその黒光りした銃を、
彼の頭に突きつけるのを辞める事なく、彼に冷たい口調で言った。

「そんな銃私に突きつけたところで、無意味よ。
あなたがもしその気になって私に弾を撃ち込んだら、
私は死ぬでしょうね……でも。」

彼女は、一旦言葉を休めた。
そして、続ける。

「あなたに、私が撃てるの?」

彼女は、ぐっと引き金にかけた指に力を込めた。
彼を見て、にっと微笑む彼女。

「…くそっ!!」

悔しげに声をあげた彼。
そんな彼を凍て付いた瞳で見つめながら、彼女はゆっくりとした口調で。
彼に言った。

「さよなら…探偵さん?」

その、彼に向ける最後の言葉と同時に。
ゆっくりと、その引き金は内側に動かされ……

サイレンサーのとりつけられたその銃から、

パシュッ……


……という音が、空しくその場にこだましていた。











私はまた、大切な人を手にかけた……
後に残るのは……空しさばかりだわ。









ほら、目を閉じるとね、浮かんでくるのよ。
貴方が、私と共に過ごした日のことが……
貴方を殺してしまったけど、でも……







今でも、あなたの事が大好きよ………探偵さん。








彼女の瞳から、一粒の涙が零れた。
愛した人は、もう居ない。









殺したのは、自分。

手にかけたのは、自分。








さようなら。私がこの世でもっとも愛した人……















放課後の教室

















「……カァァット!!」

少女が流した涙に見惚れて、一瞬呆けていた少年は、
数秒後、はっとした顔で声をあげた。

室内はし…んと静まり返り、
皆呆然とした顔でその2人を見つめていた。

蒼い顔をして震えているもの……
今にも泣き出しそうなもの……
ただ、目を見開き呆然とした様子で2人を見つめるもの。

そして、ただ一人その場に混じった大人の彼女ですら、
顔を強張らせていた。

「おい、灰原……やっぱり俺たちまずかったんじゃねぇか?」

頭からどくどくと真っ赤な液体を流しながら、
少年はむくりと起き上がった。

「きゃぁぁっ!!」

その場にいた全員は、そのありさまに悲鳴をあげた。
一斉に、彼から離れる皆を見て、
彼は驚きながらぽかんと口を開けた。

銃口を眺めながら、その紅く染まった彼の隣に居る少女は、
クールに言った。

「……あなたの方が不味いわよ。
子供にその顔見せるのは、ちょっと刺激が強すぎるんじゃないかしら。」
「あん?」
「その血みどろの顔。……夢に出てくるからさっさとふいてくれない?」

すっと指差した彼女の先にある彼の額から顎にかけて、
その真っ赤な液体はどろどろと流れていた。

「あ、ああ。これな……でもこんな子供だまし。
何で俺がやらなきゃいけねえんだよ。」

ごしごしと顔面を服で拭いながら、彼はやる気なさげな声を出した。

「大体よぉ、小学生にこんなもん演じさせていいのかよ。」
「まぁ、大丈夫なんじゃない?この程度のものなら。
このクラスの子達、皆これ見てどうこうなる子じゃないわよ。
逆に色々勉強にもなるかも知れないし。」
「……何の勉強になるってんだよ。
こんな血なまぐさい劇。」

はぁ、と彼は溜め息をついた。



2人は知らない。
この後、今後を心配した先生に呼び出される、なんて事は。
それは、演技力のせいなのか、
自分の役割を、演技ではなく途中から本気になってしまったからなのか。

そして2人は知らない。
その日それを見た子供達が……数日間夢に魘される事になる事は。
本人達は、子供だましの探偵劇のつもりで、
ただただありのままに演じていただけのつもりなのだから。

そして、やっぱり2人は知らない。
この後数ヶ月間、この子供達の中で………
2人が実はそういう世界で生きていた……などという噂が流れて、
恐れられる事になるなんて事は。





子供騙しのつもりで演じていた2人は……全く知らない。





―完―

































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