一周年記念小説

〜少女に芽生えた悲しき恋心……〜







※この物語は、フィクションです。













苦しげに自分に銃を向けてきた探偵を見て、
少女は冷笑を浮かべた。

「どうしたの…探偵さん。無理しちゃって。」

彼はぎり…と歯をきつく食い縛り、彼女の胸元にそれを密着させた。
彼女は、その口元に浮かべた静かな笑みを一層深くして、
彼に向けてすっと伸ばした腕の先にあるその黒光りした銃を、
彼の頭に突きつけるのを辞める事なく、彼に冷たい口調で言った。

「そんな銃私に突きつけたところで、無意味よ。
あなたがもしその気になって私に弾を撃ち込んだら、
私は死ぬでしょうね……でも。」

彼女は、一旦言葉を休めた。
そして、続ける。

「あなたに、私が撃てるの?」

彼女は、ぐっと引き金にかけた指に力を込めた。
彼を見て、にっと微笑む彼女。

「…くそっ!!」

悔しげに声をあげた彼。
そんな彼を凍て付いた瞳で見つめながら、彼女はゆっくりとした口調で。
彼に言った。

「さよなら…探偵さん?」

その、彼に向ける最後の言葉と同時に。
ゆっくりと、その引き金は内側に動かされ……

サイレンサーがつけられたその銃から、

パシュッ……


……という音が、空しくその場にこだましていた。











私はまた、大切な人を手にかけた……
後に残るのは……空しさばかりだわ。









ほら、目を閉じるとね、浮かんでくるのよ。
貴方が、私と共に過ごした日のことが……
貴方を殺してしまったけど、でも……







今でも、あなたの事が大好きよ………探偵さん。








彼女の瞳から、一粒の涙が零れた。
愛した人は、もう居ない。









殺したのは、自分。

手にかけたのは、自分。








さようなら。私がこの世でもっとも愛した人……


















少女に芽生えた悲しき恋心













「ねえ、あなたどうして探偵なんてやっているの?」
「あん?」

おもむろに少女が唱えた問いに、彼は怪訝な顔で聞き返した。
少女は、ソファ越しに彼をじっと眺めながら彼に尋ねる。
彼は一瞬だけ彼女に視線を移したが、
手元の小説を閉じる事はなく、再び開いたそのページに視線を戻した。

「どうしてって……さあな。これが俺の天職だと思ったからじゃねえか?」
「あら。それだけ?」

かすかな冷笑を顔に浮かべ、彼女は言った。
すると、彼も答える。

「それだけって……おめーも知ってるだろ。
俺は、推理してる時が好きなんだよ。
犯人を当てた時のあの喜びは、何をしてる時より快感だからな。」
「へぇ、そう。」

彼がついついその小説から目を離し、
昂ぶった感情をそのまま顔に出して言うと、
彼女はあきれ返ったようにジト目で彼を眺めた。

「なんだよ、その顔。」
「別に。相変らず血なまぐさい趣味ねって思っただけよ。
私は理解出来ないわ。そんな快感。」
「別に理解してもらおうなんて思ってねえよ。
……それよりお前、最近この辺を妙な連中がうろついてるって聞いたけど、
大丈夫なのか?」

彼は真剣な顔で、ついにその小説をぱたん、と閉じて、
彼女に問い掛けた。
彼女はクールな口調で答える。

「大丈夫よ。心配しないで。
それよりあなたの方こそ、最近事件続きで疲れてるでしょ。
たまにはうちでゆっくり休んでいけば?」
「……ああ、じゃあそうさせてもらおうかな。」

小説をテーブルの上に置きなおし、
彼は出されたコーヒーを一口口に入れた。

「ねえ、どうする?」
「何がだよ。」
「……もし、私が貴方の事を好きになってしまったとしたら。」

彼女の問いかけに、彼はコーヒーを手からすべり落としそうになり、
慌ててそれを机に戻した。
目を見開かせ、いかにも驚いた顔の彼が、
困惑した笑みを浮かべながら、彼女に問い掛ける。

「……な、何言ってんだよ、お前。……冗談だろ。」

言ってみたものの、声が裏返っている事に気付き、
彼は混乱しつつも彼女を見つめた。
一方、彼女もそんな彼の方をじっと見つめている。
熱い視線で……とても真剣な眼差しで。

「お……おい。」

段々不安になってきた彼が、彼女に呼びかけると、
彼女は悲しげに目を伏せていった。

「……冗談に聞こえるかしら。
好きになっても、仕方ないでしょ?……私はあなたに助けられたのだから。
貴方のお陰だと思っているのよ、全て。
私が今、こうして平和にここで暮らしていられるのも。」
「……お、俺は………」

なんて言葉を出していいのかわからず、ただ困惑する彼。
そんな彼を見つめつつ、彼女はなおも熱いまなざしで彼を見つめた。

「貴方に救われたの、私は。
考えても見て。私にとって、そんな経験今までなかったのよ。
恋をしても、不思議じゃないでしょ。」
「け、けど俺は……俺には、既に好きな女が……
だから、お前の気持ちにはこたえられないんだ。」

やっとそう言った彼を見て、彼女はすっと俯いた。
泣かせてしまったのだろうか。心配そうに覗き込もうとした彼。
けれど、彼女はどういうわけかその口元に笑みを浮かべていた。

「冗談よ。冗談……悪いけど、私あなたをそう言う対象にみれないから。」

あっさり告げた彼女。
その言葉に、彼ははぁ〜と重い溜め息をついた。

「おめー、俺をからかう趣味いい加減直したらどうだ。」
「からかい甲斐があるあなたがいけないと思うけど?」

くすくす、と笑う彼女に、彼はぶすっと膨れて、
再びその小説を手にとり、読み始めた。

小説を読んでいる彼の様子を、彼女はじっと見つめていた。

(……違うわね。実際は「好きになってはならない人」かしら。)

悲しげに彼を見つめていた彼女は、やがてすたすたと何処かへ歩いて行った。

彼は、とても推理力はある……
そして、とても行動力もあるし、判断力もある。

一見、探偵としては完璧な彼。

けれど、弱点もある……

常に悪を相手にする身としては、
常に命の危険が付きまとう中にある身としては……
彼は優しすぎるという事。



そう、優しすぎる彼は……
どんな状況になっても、相手の無事を考えてしまう。
例えそれが自分を殺そうとする、憎っくき犯罪者であっても。




彼女が再びそこへ戻ってきた時、
彼はすっかり深い眠りに入っていた。
ぐっすりと、何も疑う事はなく……







「この顔を見ることが出来るのも……これが最後なのね。
ごめんなさいね、探偵さん。」

そう呟いた彼女は、彼を抱き上げて、そこへ運んだ。






次に彼が目覚めた時、
そこは既に彼が意識の中で最後に見た光景とはまったく違うものだった。
どこだかわからない、整備されていない場所。

首をかしげながらも、ぼんやりとする頭を押さえて、
彼はむくりと身体を起こした。
すると、目の前に彼女が居た。

「……おめぇ、何やってんだ?ここは……」
「目が覚めたのね。」

少女はふっと悲しげに微笑んで、彼に言った。
彼は不思議そうにあたりをきょろきょろと見回している。
少女は言う。

「誘拐されてしまったみたいね。
ちょっと見たけど、ここからは出られないわ。」
「誘拐……じゃあ、奴等が!」

すたすたと、彼に歩み寄る少女のその表情を見る事はなく、
彼は自分達を誘拐した人物に思い当たるものを感じて、考え込んだ。

「悪いな、お前を守ってやれなくて。
……でも、心配すんな。ここからは絶対に無事に脱出させて……」

言いかけて、後ろから聞こえたジャキッという音に、彼ははっとした。

「無理よ。」

彼女の声が、コンクリートを通して響く。
そっと、その黒く光る塊が、彼に向けられた。
彼は驚いた顔で振り向いた。
自分に銃を向けていたのは……信じられない人だった。

「お前……どうして!」
「ごめんなさいね。」

彼女は、冷たい声で彼に告げた。

「これが私の仕事だったのよ。
……まさか後片付けまで私がやらされる事になるとは思わなかったけど、
あなたを安心させて、あなたの動向をさぐれっていう、命令でね。」

淡々と告げる彼女の瞳は、
冷たく凍て付いて……彼が知っているそれではなかった。

「なんで、お前が……」
「解らない?私ずっと彼らの仲間だったのよ。スパイだったの。
最初から、あなたは騙されていたのよ、私に……」

くす、と笑ったその顔は、
やはり彼の知っているものではなく……
冷たい冷たい血が彼女に流れているのだということを、
彼は無理矢理理解させられた。

「嘘だろ。……俺達普通に楽しく生活してたじゃねーか!
お前だって、最近結構笑うように……っ」
「それすらも、演技だったのよ。」

冷たい声で、彼の言葉を斬る彼女。
彼は辛そうに俯いた。
しかし、数秒その状態が続いた後、彼は懐に手を突っ込んで、
彼女にその銃を向けた。

少女はそれを見て、冷笑を浮かべた。

「どうしたの…探偵さん。無理しちゃって。」

薄っすらと浮かべた静かな笑みを、彼女はより一層深くした。 彼はぎり…と歯をきつく食い縛り、彼女の胸元にそれを密着させた。
彼女は彼に向けたその黒い塊を降ろす事はせず……
けれども、引き金にかけたその指を動かそうともせず、
彼に冷たい口調で言った。

「そんな銃私に突きつけたところで、無意味よ。
あなたがもしその気になって私に弾を撃ち込んだら、
私は死ぬでしょうね……でも。」

一旦言葉を休め、そして、続ける。

「あなたに、私が撃てるの?」

彼への問いかけと共に、彼女はぐっと引き金にかけた指に力を込めた。

 そう。この人はとても優しい人……
 人なんて、殺せない……
 例えそれが、自分を殺そうとしている……

 憎っくき犯罪者でも。

彼を見て、にっと微笑む彼女。

「…くそっ!!」

悔しげに声をあげた彼。
そんな彼を凍て付いた瞳で見つめながら、
彼女はゆっくりとした口調で彼に言った。

「さよなら…探偵さん?」

目を細めた彼女……
その彼に向ける最後の言葉と同時に。
ゆっくりと、その引き金の指に先ほど以上の力が込められ……

サイレンサーがとりつけられたその銃から、







パシュッ……







……という音が、空しくその場にこだましていた。











真っ赤な血を流し、その場に倒れた彼を、
彼女は悲しげに見つめていた。
じっとじっと、悲しい瞳で。



「よくやったな……どうだ?褒美と言ってはなんだが、一緒に食事でもしないか。」



きぃ、という音と共に、部屋に入って来た男を見て、
彼女は顔を歪ませながらも答えた。



「ごめんなさい、今はそんな気分じゃないわ。
……一人にしてくれる?」






そう告げた彼女は、男が入って来た戸から外に出た。
歩いて、歩いて……歩いた。

目の前に映し出されるビジョンに、次第に彼女の中で哀しみがましていく。











私はまた、大切な人を手にかけた……
後に残るのは……空しさばかりだわ。













少女は、自分の手を見つめ、悲しく俯く。
血に汚れた、手……












ほら、目を閉じるとね、浮かんでくるのよ。
貴方が、私と共に過ごした日のことが……
貴方を殺してしまったけど、でも……














今でも、あなたの事が大好きよ………探偵さん。

















彼女の瞳から、一粒の涙が零れた。
愛した人は、もう居ない。
もう、永遠に帰ってこない。













殺したのは、自分。

手にかけたのは、自分。










苦しみと、切なさがこみ上げてきた。
彼を、愛していた彼を……その手にかけて殺した自分。
自分を信じていた彼の顔が……
裏切られたと知った時の彼の顔が……
少女の胸を悲しく締め付けた。



愛してはいけない人を、愛してしまった。
好きになってはいけない人に、恋をしてしまった。



彼と過ごした日々だけは…………
あの楽しいと思う気持ちだけは…………
決して決して……

嘘なんかではなかったのに。















さようなら。私がこの世でもっとも愛した人……


















ぼろぼろと流れる涙はそのまま……
彼女はその場に足をついた。
こんなに、苦しい事だったなんて……彼一人手にかけることが。
















止まらない涙を拭う事はせずに、
彼女はずっと持っていた彼を殺したその拳銃で、
自らの頭を撃ち抜いた。
















あなたに会えるわけがない。
天国に行った筈のあなたとは、私は会える事はない。
もしも天国や地獄が存在するならば、
間違いなく、私は地獄へ行くのだから………














けれど、もしも……
もしも、天国や地獄などではなく、
『死者の国』という善人にも悪人にも平等に行ける場所があるなら。



そうしたら、もう一度あなたに会って……
あなたに心から謝りたい………
そして、あなたに……その時は私の本当の気持ちを…………













誰よりも、誰よりもあなたが大好きでした……探偵、さん。










許してくれるとは思っていないけれど。
それを伝えるくらいなら、許されるわよね?
誰よりも優しかった………誰よりも優しすぎた………探偵さん。















〜Fin……?〜











Do you think that end …… here?













You can read the story of the happy ending.
Please scroll to the under.




























Non Fiction story...
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