Dark Black






「お姉ちゃんを殺した理由を教えてくれるまで、私は薬の研究を中断するわ」





とある組織の研究所、
肩よりも短いそのウエーブがかかっている赤みがかった茶髪を揺らし、
その組織の人員には似合わない真っ白な白衣を着た18歳くらいの少女は、
その自分を睨んでくる鋭く冷たい瞳から目を逸らす事無く
その目をきつく見つめ返し、彼に言った。
もしも彼に刃向かえば、殺されるだろう事は分かっていた。



しかし、彼女はそのまま彼の言う事に従って薬を作る事は出来なかった。
大切な……たった一人の姉を殺された彼女は…………
大切な人を全て失ってしまった彼女は…………
これ以上組織のために薬の研究をする事に嫌気がさしていた。
そうするくらいなら、殺された方がマシだと思っていた。


彼女は上の判断が下るまで、
片手を手錠につながれて、その研究所にある個室に幽閉された。


どうせ殺されるならと、
彼女は隠し持っていたAPTX4869という薬を飲み……
その偶発的な副作用によって、手カセから解放され……
そして大人のままの身体だったら通れなかったであろう
小さなダストシュートから…………


外へ逃げ出した。


その身体には似合わなくなったその大きな白衣を着たまま…
激しい雨が降っている中を、少女は必死で走った。
その小さな胸に、様々な想いを抱えながら…
その大きすぎる服に何度も足を引っ掛けて転びながら……



必死で……出せるスピードの限り必死で走った。
幼児化によって既に殆ど体力は残っていなかった筈だというのに……
苦しそうに荒い息を吐きながら、
ばしゃばしゃと水音を立てて走っていた。



頼れる人がいない彼女にとって、
唯一自分の事を理解してくれるであろう人をその頭に思い浮かべながら……
自分に姉の死を教えた新聞に載っていた少年の顔を頭に思い浮かべながら……
彼女は必死でそこへ向かって走っていた。



冷たい雨が彼女に打ちつけたけれども……
薬を飲んだ時に限界まで熱くなった彼女の身体は既に染み込んだ水で冷たくかじかんでいたけれども……
その白衣は水を吸った事でどんどん重くなっていくけれども……
途中で途切れそうになる意識を必死でその場に留めながら、
その場所まで走った。

もう既にぼんやりとしていた意識の中で、工藤と書かれた表札をその瞳に映し………
彼女はそのまま先程まで何とか保っていた意識を手放した。



その場に倒れこんだ彼女に容赦する事なく…
冷たい雨は止もうとする事無く、ザーザーと降り続けていた。







そしてそれから何ヵ月も月日が経った……
そんなある日の出来事である。



もう既に太陽はその身を隠し……
月明かりのみが僅かにそこを照らしていた。
そこは、滅多に人が通らない道。
現に、今もその道には三人しかいない。



少女に優しく語り掛けている少年………
楽しそうに談話する少女………
そんな少女の後ろから、コツコツと忍び寄る足音。
少女は気付かずに彼と笑いあっていた。
そして、その少女の頭に黒服を着た髪の長い男が黒い塊を押し付けた。
少女はびくりっと震え上がった。
自分も表舞台で生きてきたものではない。
この感触は何よりも知っている。
そして、後ろの男が何者かという事も、少女にはわかった。


「ど……どうして?」


少女の問いかけに、男は口を歪めて笑った。


「心当たりがないというのか?裏切り者には死を……お前もよく知っている事だろう。」


男のその冷たい目が銃口を突きつけている少女の頭をじっと見つめた。
少女と一緒にいた男は拳銃を見て驚きながらも、
少女を助けるための策を必死で考えた。
少女と二人、自分達の武器になるようなものはなにもない。
少女の茶色の髪に当てられたその黒い塊が、
少女に逃げる隙など与えない事は分かっている。


そして、少女の命を捉えた黒い塊が、少女の全てを奪い去るのは、
全てその黒服の、長身の男の意思のままだと言う事も。
例えば逃げようと、走り出した時が自分達の最後だろう。
少女は絶望的な顔でただカタカタと小刻みに震えていた。


黒の男はゆっくりと、その撃鉄を下ろした。
カチャリ……というその音が自分の最後を告げる音のように、少女には思えた。
そして、男は引き金にかかっている指に力をこめた。


「さらばだ……永遠にな。」

その場に、パシュッという銃声と人が倒れる音がやけに大きく響いた。
そこいらには、血が舞い散った。


隣で見ていた彼はその光景を小刻みに身体を震わせながら見つめた。
自分の前で、少女が殺されてしまった事にショックを受け、膝をつく。
その黒い塊は標的を変え、今度は膝をついた彼の方を向いた。


「くっ……!!」


彼は思わず声をあげた。
その目は絶望に支配されていた。
黒服の男は冷酷な笑みを浮かべ、その指に力をこめる。


「恨むのならば、あの女を恨め。」


そして、その場に二度目の銃声が響いた。



後に残ったのは………空しき亡骸二つと、


地面に広がったおびただしい血痕だけだった。




黒服の男は踵を返し、カツカツと比較的静かな足音を立てて、
その場から去って行った。
その口元には笑みすらも浮かべている。
そして、その瞳は全ての人を恐怖に陥れるような鋭さと冷たさを持っていた。
彼はそう離れてない場所に止めてあった自分の愛車、ポルシェ356Aに乗り込んだ。
中に居たがっしりした体格の相棒が、やはり口元に笑みを浮かべ彼を出迎えた。

「さすが兄貴。一瞬で片付けましたね。」
「当たり前だ。帰るぞ。」

彼はポケットから煙草を取り出して口に加え、
シュボッという音をたててそれに火をつけた。

この世にはいくつもの闇組織が、存在している。
そして、彼等黒の組織もそのうちの一つ………
謎に包まれた大きな大きな組織であった。
いつ出来たものかは不明だが、
少なくとも半世紀前には存在していた事は確かである。
彼等の目的は定かではない。


ただ、彼等によって命を落とした人が、

数えられる程ではないという事だけ述べておこう。



今日も、一人の少女と少年が組織の犠牲になった。


尊い二人が、犠牲になった。



男の名は、ジン。
黒の組織と誰かが名づけた組織の中でかなり上位にいると思われる男。
冷酷で、裏切り者には容赦はしない。
そして頭が異様に切れ、今まで失敗をした事は一度も無い。


そんな彼が、ずっとずっと血眼になって探している存在があった。
この黒く冷たい……そして、悲しい物語は、ここから始まる。






〜To be continued〜


あとがきv

こんばんわ、朧月です!!
さて、新連載開始!!(一体何個未完の連載掛け持ってんだ?)
新しく作るなんてそんな面倒な事やるならリク小説書けよ!!
って、言っても、実は新しく作った話ってわけでもないのです、これは。
ちょっと前…(このサイト開設前)から書いてた話で。
だから、まぁ許して下さいなv


元々シリアス多いサイトだけど……
これ、その中でもシリアス色強い方かな……
この二人の男女が誰かなんて、野暮な事は聞かないで下さいね……
当サイト初!黒の組織の、黒の組織による、黒の組織のための……(やめいっ)


というわけで、第1話、読んでくれてありがとうございましたv
感想は、いつでもお待ちしてますよ〜vv(←もうせびるなって)
それではっ!


H16.11.6 管理人@朧月