思い出と居る時間〜誓い〜



柔らかく、風が髪を掠って流れていった。

  新一と歩く道は、とても新鮮な空気が流れている。
思わず気持ちが浮かれていくけれど、それと同時に、もう一度、
新一が、私の手を離し、駆けだしてしまうのではないか?
心配になって、ギュッとその手を握った。

「どうした?蘭」

  優しい声がかけられ、ふと顔を上げると、
手の異変に気付いたのか、新一が心配そうに見ている。

新一は傍にいてくれる。
要らない心配をしてしまったと思い、くすりと笑うと、新一は首を傾げた。

道をゆっくり進むと、神社が見えた。

あの神社は・・・

「ねぇ、新一、あそこに寄っていかない?」

「いいけど?」

不思議そうな新一は少し進路を変え、私もそれについていく。



境内は綺麗に掃除されていて、木の葉一枚落ちていない。
たくさんのセミの声があたりに共鳴している。

「裏に回ろうよ」

私の声に新一は一瞬目を見開き、神社の裏へと回った。

新一も思い出したかもしれない。


そこは、湿っぽい土にコケが生えた小さな土地が広がっている。
後ろには大きな林があり、高い木で空は殆ど隠れていて、
一カ所ポッカリと空いた空間から、木漏れ日が輝き、
土の上にコケとツタで、緑色になっているコンクリートのブロックが数個置いてある。


「・・ここだよね」
「ん?」

前にいた新一がこちらに振り返る。
風が吹き、枝がしなって、髪はなびく。そして、鮮明な思い出が蘇る。

まだ、小さくて、二人が素直でいられた頃の、大きな誓い。
お互い、本当に愛しさを感じていたのかは分からない。
ただ、自分たちの世界しか見えていなかったのかもしれない。
それでも、その誓いは今も生き続けていた。
新一は覚えているだろうか?
可愛らしい赤子の様な私たちを、この誓いを。

「ここが、初めて結婚しようって誓ったところだよね」

「そうそう、4歳の時。近所探検してて此処を見つけたんだよな?」

新一は、覚えていた。ふと、涙が溢れそうになる。

「よく覚えてたわね・・4歳の頃の話なんて」

「おめーもな」

つい、憎まれ口をたたいてしまったけど、軽く流した新一は、微笑んでいる。
そう、私も覚えていた。忘れてはならないと心の端に大切に置いて・・

「・・・・暫くしたら、表にカップルが来て・・」

「結婚しようって言ってたな」

「よく考えたら盗み聞きよね?」

「いいんじゃねーか?それで今の俺たちがあるわけだし」

「そうね、新一ったら、カップルに触発されて、急に結婚しようって言い出すんだから・・・
ませた子だったのよね」

「おめーも同意しただろ」

新一の呟きを私は無視した。

「よく考えてみれば、あの時から思いがつながってたんだ・・
どうして気付かなかったんだろう?冷静でいられなかったせいかな・・
それなら、新一って誰が好きなんだろう?って心配することもなかったんじゃない・・」


「ま、でも、人は心変わりの多い生き物だし、もしかしたら、
私じゃなくなったかもって気持ちもあったんじゃねーか?」

「何それ、酷い!・・・・じゃあ、新一は一度でも心変わりした?」

新一は、一瞬きょとんとしたが、すぐに真面目な顔をして考える。そして、悔しそうに口を開く。

「・・・・してない」

「私も」


くすっと私が笑った声を合図に二人で笑いあった。
あたりに、笑い声が響いて、セミの声も止まる。

ひとしきり笑った後、新一はこちらに向きなおした。

「そういえば、指輪の代わりに、キャラメルを交換したんだったな」

「そうだったね。二人とも偶々、キャラメルを持ってたんだよね」

偶々なんて嘘。新一は気付いていないのだろうか?あのキャラメルは、
私が新一のポケットに押し込んだ、バレンタインのチョコ代わり。
あの時は、甘いものなら何でもいいし、加えて、バレンタインを過ぎても良いものだと思っていた。
だから、何を渡そうかいつまでもいつまでも迷いに迷って、新一の誕生日を過ぎてしまうかと思った。

「そして・・ここに立ったんだよな」

そう言って新一は、一番高く積んである。ブロックにひょいと上がった。
そのブロックの廻りに、低いブロックが並べてある。
上がった場所は、ちょうど木漏れ日に照らされている場所だ。


「二人で上ったんだよね。そして、遠くを見ながら、キャラメルを交換して・・」

「「誓った」」

ハモった言葉に、微笑みながら、新一は私に手を差し出した。
私は手を取り、上る。

「よっと」

小さく新一が言って、二人で上ることが出来たが、あのころとは違い、そこは狭い。

「狭い」

ポツリと新一が言う。

「大きくなったんだね。私たち。心も体も」

「小さいままなんてごめんだ」

新一が、ムッとしてそう言う。

「冗談にならないね」

「ああ、もうあんな過ちは繰り替えさねぇよ」

少し見上げると見える新一の横顔は、強い決心に満ちていた。

「なぁ、蘭」

「何?」

「二人だけで結婚式しねーか?」

「ちょ、ちょっと待って!!だって、もう招待状贈ったじゃない!」

そう、私たちは結婚を明日に控えている。
全ての準備は終えているのだ。
後は、幸せになるだけ。

「ジャマされたくねーよ、誰にも。じゃあさ、今此処で挙げようぜ」

「え?」

「だめ?」

「指輪交換・・・・・」

「そんなもんいらねぇよ。今交換出来るものなんて・・・・愛ぐらい?」

薄暗い此処でも分かるくらい、新一の顔は紅い。
きっと、私の顔はそれ以上に紅く染まっているだろう。


「俺は蘭を一生、死んでも愛し幸せにする」

「私は新一を一生、死んでも、愛して支え続ける」


私が微笑むと、新一も微笑んだ。

優しく差す木漏れ日の中、新一は私のおでこに軽くキスをすると、
本物は、本番でと笑った。



幼い頃の彼も、今の私にしたのと同じように、
幼い私にしたことを、彼は覚えているだろうか?
そのころから変わっていない彼は、今、大人の姿で私の目の前に立って笑っている。

好きなままの君で居てくれてありがとう。
私を好きになってくれてありがとう。
私を好きにならせてくれてありがとう。


目を瞑れば、幼い記憶の私たちが微笑んでいる。

目の前に、微笑む新一に、私は微笑んだ。

また、思い出を振り返る時、今日のことが、鮮明に目に浮かぶよう、
私は微笑みながら、新一の微笑みとこの景色を、眼にくっきりと焼き付けた。




その後、私は急に恥ずかしくなって、足下が狭いのを忘れ、
後退りしてしまい、私を助けようとした新一と共に下に落ちてしまって、
お尻から落ちた私たちは、お互いがおかしくて、暫く笑いが絶えなかった。

漸く、笑いが収まった時、新一は切り出した。

「そういえばさ、あの時、なんでキャラメルだったんだ?」

「え・・・?気付いてたの!?」

「あめーな・・当たり前だろ。俺は探偵なんだから」

みょうに鋭い新一は、キャラメルを押し込まれたことには気付いたが、
何で私がキャラメルを押し込んだかは気付かなかったようで、しげしげと、こちらを見ている。
きっと話題を変えても、しつこく聞いてくるのだろう。しかたない。

「・・キャラメルだったら、長時間口の中に入れておけるし・・」

「なんで飴じゃないんだ?」

鋭くつっこんでくる新一は、視線をとらえて、離させてくれない。

「だって・・・」

「だって?」

「キャラメルの方が、味が濃い分、愛が濃いの!!!」

顔を紅くしながら、つい、大声で言いはなってしまった私を新一は顔を紅くしながら、じっと見ている。

「やっぱり、蘭が好きだなぁ」

ポツリと言った台詞に、じわじわ顔がゆでだこのようになっていくのを感じながら呆れてしまった。

「なに、その年寄りみたいな口調・・」

「だから、おめーが愛おしいって言ってんだよ」

新一はそう言うと、ニカッと笑った。

まるでそれは子供のようで、遠い記憶をまた、呼び覚ましていく。

「新一」

「ん?」

「ずっと好きだったよ」

「おう」

「今も好きだよ」

「知ってるって」

「これからも好きだよ」

「・・ありがとう」

「死んでもね」

「死ぬ時は一緒なんだよ」

「新一が死んでもね」

「・・・ちょっと待て、俺を殺すな」

「生まれ変わってもね」

「・・・また一緒にいられると良いな」

「別の場所にいたら、私を見つけてね」

「俺が探すのか・・?」

「ずっといっしょよ」

「ずっといっしょだ」



ずっと好きだった。
そして今からも、ずっと・・・
遠い記憶も、記憶になる今の瞬間も、一秒後の未来も、
ずっと・・・


思い出の自分の一緒に、貴方を想います・・・・・・・

ずっと、ずっと想います・・・・




〜〜FIN〜〜


管理人の一言…というか叫び?

こちら、Hot Childrenの倖希ちゃんからメールでいただいたお話vvv
サイトアップもOKとの事だったので、喜んで♪♪♪
いやぁ、もういつだってこの方のお話は綺麗だわvvv
この甘い雰囲気なのにしつこさを感じないところも素敵ですし…
チビ新蘭は可愛いしっ!!!
結婚するのね、新一と蘭ちゃん!!!
おめでとうっっっvvvv
あのキャラメルの方が〜な台詞、本当に可愛いですっvvv
蘭ちゃん、素敵な事いうなぁ……vvv
本当に、二人のお互いへの思いが伝わってくる話でしたvvv
倖希ちゃん、素敵なお話ありがとう御座いますvvv
それから、サイトアップとてつもなく遅れて本当にごめんなさいっ(>_<)

H16.8.5 管理人@朧月