――それは6月17日。
仕入れた情報を元に、展示されるビッグ・ジュエルの拝借が、4日後に迫ったある日。
それのニュースを見てると、ためらいがちに寺井ちゃんが訊ねてきた。

「しかし、本当に宜しかったのですか?」

「何が『宜しい』っての?」

 立ちかけた椅子に、再び腰を落ち着けて、不思議そうに寺井ちゃんを見た。

「いえ……決行の日にちのことですが」

「『宜しい』も何も。チャンスなんて、1回切りだろ?1日しかやってねーんだし」

「ですが……」

 渋る寺井ちゃんに、俺は首をかしげた。
普段は、わざわざこんなことを言ったりはしない。
――ただまあ、決行当日になって、とやかく言い出すのは稀じゃないけど。

「それとも何?まさか、盗みを諦めろとか言うつもり?」

「いいえ。そんなつもりはありません」

 そう言うと、ゆっくりと首を左右に振って見せる。

「ただ、盗む日を来週の今日に指定するのではなく、宝石の移動日でも宜しいんではないかと」

「わざわざ?」

 この奇妙な提案に、俺はしかめっ面で寺井ちゃんを眺めた。

「何かそうすることで、利点でもあんの?どうせ、指揮官は同じ中森警部だろ?
 一般公開日でも、移動日でも、警備の詰めの甘さは大して変わんねーぜ?」

「盗みに関しての利点は、取り立ててありませんが、しかし坊ちゃまにとっての――」

「ねーんなら、別に良いじゃん」

 あっさりそう言ってから、部屋の時計を見て、座りなおした椅子から下りて
ふと寺井ちゃんに目を向けると、困ったように俺を見ている。
――いやぁ、そんな顔されてもなぁ……今更変えれないっての。

「じゃあな。寺井ちゃん。悪ィけど、そろそろ行かねーと、青子の奴にどやされっから」

「本当に構いませんか?」

「良いって、良いって。別に、当日他のイベントなんて一つもねーんだから」



「おっそーい、快斗!もう皆来てるんだから!」

「遅いって、お前なぁ……」

 トロピカルランドのエントランスに着いた瞬間、
口うるさい幼馴染に言われた言葉に、俺は不満そうに自分の腕時計を指差した。

「そっちが早いだけ!5分前じゃねーか!」

「男の子が先に待ってる方が、普通でしょー?白馬君なんて、一番に来てたんだから!」

 そう言って、色んな意味で、これまた口うるさい探偵を指差した。
今の言葉を聞いていたらしいそいつは、何か言い含んだような表情を俺に向ける。

「ええ、まあ。女性には常に紳士的に努めるのが、男の義務ですから」

「ホラー!」

 誇らしげに言う青子の傍を通り過ぎて、俺は真っ直ぐに白馬の方へ歩いていく。
少し間を空けて目の前に立つと、皮肉たっぷりに言ってやった。

「お生憎。ここは日本って国だ。どこぞの北欧の国のしきたりを押し付けるくらいなら、
 その必要もない、住みやすい方の土地に移住でもした方が、良いんじゃねぇ?」

「それは、心の狭い人間がよく陥る思考ですよ、黒羽君。
 愛国心が強いのを悪いとは言いませんが、もっと物事を寛大に受け入れられる心を
 もたれた方が、女性に好かれる人間になれると思いますが?」

「心配されずとも、俺は元々女に好かれるタイプみたいでね」

 勝気な笑みを浮かべたまま言った俺を、白馬はしばらく黙って見た。
そして、その内に視線を反らすと、曰くあり気に薄ら笑いする。

「それもそうですね。君には女性ファンが多いようですから。
 ――よく新聞を賑わしていることを、すっかり忘れていましたよ」

「……あのな、白馬。何度も言うけど、俺は――」

 反論しかけた俺を無視して、歩き出すと青子へと声をかけた。

「それでは、全員揃ったことですし、そろそろ参りましょうか?」

「うん!――紅子ちゃんも、快斗もホラ、行こ!」

「あら。でも中森さん、全員で5人って言ってなかった?」

「ああ、うん。でも、恵子は抜けられない用が入って無理だって連絡あったから」

「そうなの。残念ね」

 青子に返事を返して、歩きかけた紅子が不意に立ち止まって、俺を振り返った。

「そう言えば、今日流れていたキッドのニュース。あなた、大丈夫なのかしら?」

「はぁ?」

「さっき、あなたが来る前に、彼が提案したことに思い出したのよ。
 キッドと両立して、事を済ますのは、無理があるんじゃなくて?」

「言ってる意味が分からねーけど、俺はキッドじゃねーってーの!何度言わすんだよ?」

「……そう?まあ、そうならそれで良いわよ。ただし、どうなっても知らないけどね」

 そう言うと、俺に背を向けて入り口へと歩いていく。
その様子に、無意識に安堵のため息が出て、本人に聞こえない程度に小声で呟いた。

「どうぞ、ご勝手に」




「バースデー・パーティ?」

「うん!白馬君が、どうせならやらないかって!」

 園内に入って数時間、そろそろ小腹も空いてきた、というわけで、
随所に設置されているオープンレストランのような所で、食事をした後、
注文した飲み物が来るまで、しばらくの雑談タイムで、青子がそんなことを言い出した。

「ねぇ、どう?快斗!」

「俺か?別に構わねーけど、誰の誕生日だよ?オメー、9月だろ?」

「誰のって、君の誕生日ですよ」

「へっ?」

 言われた言葉に、目を丸くした。――ついでに、それを発案したって人間にも。
ふと目をやった白馬と視線がかち合ったとき、
向こうがやけに企み顔で俺を見ているのに気付いて、顔をしかめた。

「それで、快斗。21日空いてる?」

「え?あ、ああ。多分。4日後でさえ――」

「丁度、快斗の誕生日、キッドの犯行日で家誰もいないから、場所は青子の家ね♪」

「……あ?」

 何気にもらされた青子の言葉に、背筋が凍るのが分かった。
――『キッドの犯行日で家に誰もいない』ってことは、警部はキッドを捕まえに行く
ってことで、その現場には当然、キッドがいるってことで……?

「あ、青子!やっぱり、ちょっと俺――」

「おや。どうしても外せない用事でもありますか?
 その日の夕方以降にしか出来ないことでも?」

 ――たっぷりと皮肉のこもった言葉に俺は聞こえた。聞こえねー方がどうかしてんだろ。
わざわざ、白馬が俺の誕生日パーティーをしようと言い出した意図が、はっきりした。
だが、望み薄とは分かっていても、一つの希望はある。

「悪ィ、ちょっと席外すな」

 そう言って、白馬の横を通り過ぎる時、誰に言うでもなく白馬が呟いた。

「誕生日パーティが予定通り行われ、キッドが盗みを働かなかったら、
 また、誕生日パーティが行われず、キッドが盗みを働けば……
 それが、どのような結果をもたらすか、君には分かりますよね、黒羽君?」




「おいおいおいおい!マジかよ!?」

 3人から見えない場所まで来た俺は、手帳を取り出して、盗みの日にちを確認する。
――6月21日。そう、4日後。そして、やろうと言っている俺の誕生日パーティも同日。
予告状を出して、世間に犯行日が公表されている今となっちゃ、変更が不可能。
いや。もし仮に出来たとしても、したところで、それじゃ「私がキッドです」って
白馬に公言してることになっちまう。誕生日パーティをキャンセルしても同じだ。

 そう言えば、寺井ちゃんが何度も言ってたけ?『犯行日そのままで良いか』って。
まさか、今みたいなことを予測して、何度も念を押したってわけか?
だーっ!んなことなら、警部に予告状出す前に忠告してくれってんだよ!

「……とりあえず、帰って寺井ちゃんと相談するか」

 重々しくため息をついたのと同時に、背後から声がかかる。

「いた!快斗!どうしたのよ、こんな所まで来て。皆、心配してるんだから」

 その声に振り返ると、両手に飲み物を抱えた青子がいた。

「はい、快斗の分」

「ああ……サンキュ」


 差し出された飲み物を受け取ると、青子に促されつつ、元の場所へと戻りだす。
戻ってる最中、青子が何か話しかけてきたが、空返事で応対した。
今の俺の関心は別なものに向いている。本当なら今にも帰っても良いぐらいだ。

 ――制限時間は後4日。その間に、対処方法考えねーと、とんでもねーことになるな……


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管理人の一言(というか叫びv)

Time of Returnのけいさんより頂きました、快斗バースデー小説。
私って、サイト巡りしてて、フリー小説見つけても、
そのサイトさんの小説がどんなに好きでも、滅多にDLしないんですよ。
でも、今回は我慢できずに背景に利用させて頂いた、素敵記念イラストと共にお持ち帰りv
ちなみに、イラストはギャラリー(頂き物のイラスト)からでもご覧になれます。
イラスト単体(何気に朧月のコメントつき<笑)で見たい方はこちらよりどうぞ。

素敵なお話ですものvv
同じように、配布されてたイラストとセットで、凄く雰囲気が浮かんできてvv
こんな飾り方でよかったんだろうかと思いながらv

ふふふっ、寺井ちゃん、そういう事は早く言わなきゃ(笑)
てか、快斗ちゃんと寺井ちゃんの言う事きかなきゃ!
当日他のイベントなんてって君ねぇっ(笑)

白馬君と快斗のやり取り、好きですよ〜v
わくわくどきどき(笑)な”4日後”、どうなったのか妄想しつつ、
面白い快青話と、イラスト、満喫させて頂きました〜っvvv
追い詰める白馬君が最高っ(笑)

けいさん!素敵なお話&イラスト、ありがとうございました!!