花火に秘めたメッセージ



夏。

夏は、いろいろたくさん楽しい行事がある。

夏休み、大会、海開き、水着(?)、…

他にも、いろいろ楽しいことがあるだろう。

まぁ、先生から出された愛のワークもあるだろうが、それは終わらせてしまえば、

あとはトロピカルな世界。

何をやってもOKなのだ。





夏の最大のイベントといえば…そう、お祭りである。

お祭りで、花火が打ち上げられる地方も多いと思う。

たいていのところで、花火が打ち上げられるだろう。

普段見れない、とても大きな花火が、夏の夜空全体に明るくそして幻想的に、映し出される。



友達や家族で行く人も多いと思うが、せっかくのロマンチックなムード。

恋人と手を繋いで…と考えているカップルの方もいらっしゃる
のではないだろうか?

しかし中には、その恋人が今年は遠距離でいない…という方も
いるだろう。



では、近くて遠い距離にいるあの二人は、一体どんな花火大会
になるのだろうか…?







7月31日。蘭の携帯にかかってきた電話が始まりだった。

「……わりー…今年はいろいろ事件が忙しくて、戻ってこれそうにねーんだ…」



蘭の携帯に、非通知でかかってきた電話。

久しぶりにかかって来たと、大喜びしたのもつかの間。

蘭は、今年の花火大会に一緒に行ける?と聞いてみたのだが、
その瞬間電話が静まり返ってしまった。

そして、沈黙を破ったのは、新一のNOの返事だった。

もちろんそれだけでは納得できない蘭。

いつものように、新一に問いただしてみる。



「ええっ!?まだ事件が忙しいの!?」

「あ、あぁ…」

「それほど事件がやっかいなの…?」

「ちょっとなぁ…かなり長い時間がかかりそうなんだ…」

「じゃあしょうがないよね…事件解決、頑張ってね…」



そう言い、蘭の方から電話を切った。

ポアロの近くに、コナンがいた。

そう、さっきまで新一としてコナンは蘭に電話していたのである。

ツーツーと虚しく響く、コナンこと新一の携帯電話。

普段とは違う蘭の行動に、少し戸惑いを感じていた。



「あいつから切るって珍しいよな…」



蘭から切ることは、毛利のおっちゃんがいる時以外めったにない。

やっぱり、一緒に夏祭りに行けないというのがショックだったのだろうか…?

コナンの表情は、とても切ない表情になっていた。





一方蘭の携帯も、ツーツーという音が虚しく響いていた。

蘭の目には、ほんのり涙が浮かんでいた。



「せめて…せめて花火大会ぐらいは一緒に行きたかったのに…いつも一緒にいられなくても、
花火大会ぐらい一緒に…それだけでも、私は嬉しいのに…」



目に浮かんでいた涙の雫は、携帯にしたたり落ちていた。

悔しさでもなく、怒りでもなく、切なさの涙だった。

そのせいか、ドアのあけた音にさえも蘭は気づかなかった。

コナンがドアを開けると、彼女は、自分が一番見ていて辛くなる表情だった。



「蘭姉ちゃん…?」



心配そうに蘭のことを見つめる。

コナンの呼びかけに、やっと蘭は我に帰った。



「あっ、コナン君。おかえりなさい」

「どうしたの蘭姉ちゃん?目に涙が…」

「大丈夫…目にゴミが入っただけだから…」



蘭は、泣いていないという顔を見せたが、コナンの目にはそうは見えなかった。

自分のせいで、また彼女が泣いている…そう思うと、心が締め付けられる。

その時、自分の無力さを感じるのである。

蘭が涙をぬぐうと、今度はコナンの表情が切なくなっているのに気が付く。



「(やっぱりコナン君に心配かけちゃったかなぁ…)」



コナンは、そのまま立ち尽くしている。

そんなコナンを見て、蘭は何かひらめいたかのように立ち上がり、明るい声で言った。



「そうだ!今度の花火大会、コナン君一緒に行かない?二人っきりで!」

「えっ!?二人っきり!?」

「そう!園子は多分京極さんを連れてくるから一緒にいったら悪いし、
他のクラスの子もいろいろと予定が入っているだろうし。コナン君がよければだけど…?」



ちょっと悪戯な目でコナンを見つめる。

そんな目に、コナンこと新一がかなうはずもない。

それに、新一としては側に居られなくても、側に居てやりたい。

それが、今の姿で出来る、せめての行動だった。



「僕は良いけど…」

「いいの?少年探偵団の皆は大丈夫?」

「お、お祭りはあと二日あるし、その二日で約束するよ」

「じゃあ、決まりね!」



その時の蘭は、とても笑顔だった。

そんな蘭の表情に、少しほっとしたコナンであった。





という訳で、今日は8月8日。

今日花火大会があるのだ。

花火は2万発あり、夏の夜空を賑やかに彩る。

花火大会が始まるのは、夜8時からだった。



「コナン君、早く行こう!」

「…………」

「コナン君?どうしたの?」



二回目の返事で、やっとコナンは自分が呼ばれていることに気が付く。

蘭は浴衣姿。

周りを通りかかる男の視線も釘づけである。

それがカップルであっても。

蘭のスタイルのよさと美人さで、蘭が気づかないうちに、他の男を虜にしていくのだった。

つまり、いくら冷静沈着な探偵であっても、男は男。

コナンこと新一も、蘭の浴衣姿に釘付けになってしまったのである。



「ちょっとぼっとしちゃって…」

「大丈夫?熱でもあるの?」

「そうじゃなくて……蘭姉ちゃんの浴衣姿が綺麗だから、見とれちゃって…」



絶対新一では素直に言えない台詞。

コナンだからこそ、こんな台詞が言えるのだ。

もちろん、顔は赤面だが。

そんなコナンの言葉に、蘭も赤面だった。

しかしその後、蘭はコナンに微笑んだ。



「ありがとう。新一だったら、絶対にそんなこと言わないけど、
コナン君は新一の何百倍も優しいのね。」

「ははは…(その新一がオメ−に言ってるんだけど…)」



蘭の微笑ましい笑みに、コナンは乾いた笑いを浮かべた。





まだ8時まで時間がある。

なので、いろいろと屋台をまわることにした。

屋台には、定番のリンゴ飴や、金魚すくい、綿菓子などがある。

色とりどりの屋台。

その中に、射撃があった。

射撃の的には、ボールやゲーム、お菓子や商品の書いた紙など、いろいろなものがあった。

昔懐かしい屋台だ。



「わぁ!あのヌイグルミ可愛い!」



蘭が中でも惹かれたのが、可愛いティディベア−のぬいぐるみだった。

二体セットで、ウエディングドレスとタキシードを着ている。

輝かしい目で、そのヌイグルミを見つめる蘭。

そんな蘭の表情が可愛くて可愛くて仕方がなかった。

この表情を独り占めしたい。

ちょっとした独占欲。



「僕がやってみようか?」

「えっ?コナン君が?」

「蘭姉ちゃん、あのヌイグルミ欲しいんでしょ?」

「そうだけど…」

「じゃあ僕がやるよ」



そう言いコナンは射撃のところへと向かっていった。

ちなみに射撃は3発で300円。

一発100円といったところだろうか。



狙う標的は、可愛いティディベア−のヌイグルミ。

銃の腕はピカイチだが、射撃は銃とはちょっと違う。

狙う標的によって、重さは違い、バランスが崩れるところも違う。



狙う標的の重さを計算し、全体を見る。

そこから、どこでバランスが崩れるかを計算する。

狙う位置を慎重に定める…



コルクの弾が撃たれた



弾は、どんどん標的に近づいていく…



そして…



「よしっ!」

「えっ…うそぉ…」

「ああっ……」



なんと、一発で当たってしまったのである。

屋台のおっちゃんも、思わず口があんぐり。

蘭も、信じられないという表情をしている。

まだ少し放心状態のおっちゃんから、ヌイグルミを貰うと、それを蘭に差し出した。



「これでしょ?蘭姉ちゃんの欲しかったもの」

「う、うん…コナン君一発で当たるなんてすごいね!銃の腕、新一みたい」

「たまたまだよ。それに射撃と銃は違うでしょ?」



はにかんだ顔で笑うコナン。

その瞬間、蘭の脳裏に新一が浮かんだ。



「(新一…?)」

「蘭姉ちゃん、次行こう!」

「うん」





二人の時は続いた。

他にも金魚すくいをやったり、リンゴ飴を買ったり、カキ氷を買ったり。

クジもやったりした。



「あっ!また大当たり!」

「蘭姉ちゃん、また…?」



とても楽しい時間。

新一の時は気づかなかった蘭の魅力も感じられた。

それは本当に幸福な時間。



楽しい時間はあっという間に過ぎて、本題の花火大会の時間が近づいていた。

席をとるため、10分前には花火大会の会場に二人はいた。



「もうすぐ花火始まるね。とっても楽しみ」

「2万発だから、結構あるね」

「早く8時にならないかなぁ…」



花火を待つ蘭の表情は、少女のような純粋な表情だった。

そんな表情に、ますますコナンは惹かれていく。

花火打ち上げまで、あと5分と迫っていた。



「来年は三人で来れたらいいな…」

「三人って?」

「私と、新一と、コナン君の三人よ。来年までには新一帰って来るよね」

「そうだね…来年までには帰って来るといいね…」



蘭の信じている表情に、コナンはうなずくしかなかった。

新一が帰ってくる頃には、そこにはコナンはいないのだから……



「あっ!花火の打ち上げが始まったみたい!」



湿った雰囲気を取り除くかのように、一発目の大きな花火は、夜空に輝いた。

今までばらばらだった他の視線も、今は花火に釘付けである。

一発目の花火が終わり、次は大きくはないが、美しい花火が星のように散らばった。



「わぁ…すごい…」

「そうだね…」



小さな花火はかれんなかすみ草のように、大きな花を彩っていた。

花火の順番は、大きな花火→小さな花火→特殊な花火→という風に繰り返される。

どれも個性豊で、夜の空を彩るには十分なほどだった。

見れば見るほど、花火の美しさは増す。



「やっぱり花火って綺麗ね」

「迫力があるよね」

「花火バックで写真撮る?」

「蘭姉ちゃんはどうするの?」

「コナン君を撮りたいの。だから、花火を後ろにして」



言われるがままに、コナンは花火をバックにする。



「はいチ−ズ」



カメラの光が花火と同調する。

その時、ちょうど大きな花火が打ちあがっていた。



「あっ!タイミングいいっ!」

「ちょうど大きな花火が打ちあがったね…蘭姉ちゃん、

運がいいだけじゃなくて、シャッターチャンスにも恵まれてるんじゃないの?」

「あははっ。そうかもっ!」



二人の笑顔は、花火の輝きにも負けないほどになっていた。

さらに花火が夜空へ奏でるメロディーは続く。

そのメロディーに、会場にいる全員が魅了されていく。



花火が打ち上げられるごとに、蘭の表情は花火よりももっと素敵なものとなっていく。

たまにコナンは花火を見るのを忘れて、蘭の純粋な表情を見ては赤面してしまう。

そんなコナンの表情を知ってか知らずか、蘭はただただ花火を見つめるばかりだった。



夢のような時間はすぐに過ぎ去り、とうとう最後の花火を残すところとなった。

会場に、アナウンスが響く。



「最後の花火は、祭り前、7月31日までに募集したメッセージを行った後に、

花火を打ち上げます。それでは、最後のフィナーレを、美しいメッセージとともにお楽しみください。」



会場が少しざわめきだす。

どんなメッセージが流れるのかは、プログラムにもまったく書いていない。

会場のムードが、さらに盛り上がる。



「わぁっ!どんなメッセージが聞けるんだろう?」

「プログラムにも書いてないし、楽しみだよね」

「そうね。一体どんなメッセージが流れるんだろうね」



二人の話も盛り上がった。

そんな中、アナウンス席からメッセージが流れ出す。



「いつもお世話になっている両親へ。いつも当たったりしてごめんね。
いつもだったら恥ずかしくて言えないけど、本当にありがとう     真奈美より」



メッセージの後、大きな花火が打ち上げられる。

二人の横の女の子が、とても恥ずかしそうにしていた。

どうやら、この女の子がメッセージを送ったみたいだ。



後にも、いろいろなメッセージが流れた。

それは、今この世に居ない人に向けてだったり、普段照れくさくてなかなか言えない相手だったり、

プロポーズの言葉だったり。

それぞれに思いがこもっていた。

一つ一つが、大切なメッセージ…



そして、いよいよ最後のメッセージとなった。



「今回のメッセージが、フィナーレを飾るメッセージとなります。
  なかなか帰ってこない幼馴染へ。このメッセージ…」

「このメッセージは届かなくても、花火は届くといいなぁ…」

「蘭姉ちゃん…」



アナウンスの声と、蘭の声が重なる。

蘭は座っていた席を立って、このメッセージを読んでいる。

そう、このメッセージは蘭のものだったのだ。

実は7月31日ぎりぎり、このメッセージを出したのだった。



「今あなたが側に居ないことは、とっても寂しい。だって、小さいときからずっと一緒にいたから、

それに慣れちゃってるから、いきなりいなくなって本当に寂しかった。

でもね、逆に今まで近すぎて、大切な存在って気づけなかったのかもしれないね。

離れてみて初めて、大切な存在ってことを大きく思い知らされた。

私だったらこんなことには気づかされないで、寂しい思いをするだけだった。

だけど、側に小さなナイトがいるから…だから私は笑顔になれた…

新一、私はいつでも待ってる。

だって、待つことしか出来ないもの…

だから、絶対帰ってきて!それを約束してくれるんだったら、何年でも私は待つからね…



蘭より」



蘭の思いがこのメッセージ全体にこもっていた。

そして、そのメッセージの後に、クライマックスを飾る花火が打ち上げられた。

今までで一番大きな花火だった。

その光は、遠くの人でも花火が見えそうな光だった。



「(蘭…ありがとな…)」



今は言えないお礼の言葉

きっといつか…日常が取り戻せた時に…



幻想的な夏の空の花火は、ダイナミックだが、優しく二人を包んでいた。





花火大会終了後。

二人の間に口数はあまりなかった。

それは、気まずい雰囲気だからではない。

二人は、花火の魔法にかかっていたのだった。

そんな中、沈黙を破るかのように蘭がコナンに話掛けた。



「ねぇコナン君。あのメッセージね、コナン君へのメッセージも入ってるって気が付いた?」

「えっ…?」

「小さなナイトって言うのはね、コナン君のことなのよ…コナン君、いつもありがとう…」

「ううん…お礼を言うのは僕のほうだよ…いつもありがとう…蘭…」

「ん?今呼び捨てだった?」

「ごめん蘭姉ちゃん」

「大丈夫。言い忘れただけでしょ?」



その後二人は、いろいろ話しながら帰宅していった。

帰り道で、コナンは誓った。



「(来年こそは…この道を真実の姿で…)」



そんなコナンの誓いを知るのは、自分自身と、二人を優しく包んだ花火だけだった。



〜〜FIN〜〜



管理人の一言…というか叫びというか(笑)。

えぇと、sky blueの明子ちゃんより、
暑中見舞いという事で、こんな素敵なお話をもらっちゃいましたvvv
もう、本当最高じゃあないですかっっvvvvvv
最後にコナンが誓った事も、蘭ちゃんの想いも、とってもよく伝わってきて……
そして、射的……凄いよコナン君!!
一発でゲットしちゃうなんてっっ!!!
あれ、結構難しいのに……(←一度たりとも成功した覚えのない人)
それから、蘭ちゃんのメッセージにも、また感動させられますよねvvvvvv
あぁぁ……蘭ちゃんの健気な事っ!!!
こんな素敵な話を、もらえるなんて、本当幸せですわっvvv
明子ちゃん、ありがとうございますっっっvvvvvv
それから、サイトアップ遅くなってしまってすみません。

H16.8.5  管理人@朧月