一度意識が飛んでいたらしい。目を開けると、霞んだ視界には崩れかけた天井が見えた。頭を打ったようで、先ほどから鈍い痛みが続いている。

 記憶の中に残る最後の表情は、泣き顔だった。よりにもよって、普段滅多に人に涙を見せようとしない二人に泣いてすがられようとは。
”行かないで”と”無事に帰ってきて”と。そう涙する彼女達を、振り切って今ここに居るのだ。

 ――必ず無事に戻ってくっから、心配すんな。

 そんな科白だけ残して。だから、死ぬわけにはいかない。例え何があっても、ここで倒れるわけにはいかないのだ。

 上半身を起こすと、体中に痛みが走った。思わず顔を歪めたが、どれも恐らく致命傷になる程の傷ではない。

「大丈夫、まだ……まだ動ける」

 薬も既に手に入れた。だから外まで、もう少し頑張ればいい。そうすれば、全てが終わるのだ。

 頭から流れ出る血液が、次第に目と頬を伝って口元まで降りてくる。舌で舐めて受け止めると、鉄錆の味がした。

「待ってろよ、無事に帰って、あの泣き顔を帳消しにしてやっから」

 そう言ったものの、使える武器はもう底を尽きた。手負いの体であと何人残るか判らない組織の人間を相手にするのは、相当な無茶だろう。
 さて、どうするか。鈍い痛みに支配された頭は、いつものように上手くは働いてくれない。

「くそったれ……!」

 掠れた声を零した後、彼は前を見据えた。ぐだぐだ考えるよりも前に、行くしかない。何よりもう時間がないのだから。

 ふーっと長い息を吐き、地面についた手に力をいれ、重心を預けた。

「つっ……! っと!」

 痛みに顔をゆがめ、ふらつきながら立ち上がった彼は、傷口を押さえながら足を踏み出した。何があっても折れる事のない信念に支えられて、よろめきながらも力強い足取りで。

 口元には、小さな笑みが浮かんだ。

 進んで勝ち取った未来の先に、大輪の笑顔が咲く事を信じながら――


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某お方に送った寒中見舞いのおまけにくっつけた、手負いコナンです♪
寒中見舞いという名目で送る予定だったのが大幅に遅れたお詫びに描いたけど、最初に描いたのよりこっちのが気に入ってたりするww